デヴィッド・シムズ×ソフィア・プランテラ interview1/2「真のコラボレーションのために」

英国ファッションフォトグラファーの巨匠デヴィッド・シムズとAriesのソフィア・プランテラが、結果に執着しないことの大切さ、真のコラボレーションに必要なこと、20年前の日本でみた「美しい機能不全」について語る。

|
dec 19 2017, 10:41am

私たちがコラボレーションを見ない日はない。コラボレーションの服(そうだとわかるかは別にして)とすれ違わないで街を歩くことはできないだろうし、コンビニに入れば店内にはコラボレーション商品が棚ごとに目につく。時にはコンビニ自体がアニメとコラボしていて、いつのまにかコラボ皿をもらっていることだって。

ファッションや音楽の世界でも、「コラボ」はすでに日常的な営みになったように思える。ことファッション界においては、Louis Vuittonのような高級メゾンからSupremeをはじめとしたストリートブランドまで、例を挙げればきりがない。

そのなかには、ロゴを載せ替えただけでしょ?と思うようなものもある。そういうのもわかりやすくていいかもしれない。だけど、コラボにはもっと高いレベルのクリエーションを期待したくなる。たとえば、ふたつの異なる美学や価値観がぶつかり合って、バチバチ火花を散らした結果、融和してるのか分離してるのかわからなくなったようなものを。

2017年の秋に発売された『Click-To-Buy』はまさにそんな写真集だ。コラボレーションの粋とも言えるこの作品を作り上げたのは3人。英国を代表するファッションフォトグラファーのデヴィッド・シムズ、そしてAriesのデザイナーデュオであるソフィア・プランテラとファーガス・‘ファーガデリック’・パーセルだ。

ソフィアは90年代のスケーターファッションを牽引したSILASの創立者で、ファーガスはPalace Skateboardsのメインロゴをはじめ多くのブランドのグラフィックに関わってきた。いわばこれまでの英ストリートシーンを作り上げてきた立役者の2人がタッグを組んで誕生したのが、このユニセックスブランドAriesなのである。

『Click-To-Buy』は、Ariesの世界観を詰め込んだブランド初のイメージブックとなる。i-Dはこの写真集の刊行にあわせて来日していたデヴィッドとソフィアにインタビューを行った。

——まずこのコラボ企画のはじまり、2人がどうやって知り合ったのか教えてください。

ソフィア(以下S):公式バージョンでいい(笑)? 私たちは似たような生活をしていたんです。働いている場所も近くて、スケートボードなど共通の趣味もありました。でも実は、初めて会ったのは子どもの学校がきっかけで……。

デヴィッド(以下D):そうなんだよ(笑)。前からお互いのことは知ってたんだけどね。

S:最初はデヴィッドの奥さんと、それからデヴィッドとも仲良くなっていきました。それで数年前に、「僕がAriesの写真を撮るっていうのはどう?」って彼が言ったことがあって。冗談か本気か確かめるのに一年以上かかったけど(笑)、それがこの企画のはじまりです。

——それが何年前ですか?

D:ソフィアと会ったのがちょうど5年前。付き合いが30年になる共通の友達もたくさんいるのに、僕たちは30年間会わなかったんだ。

S:声をかけてくれればよかったのにね(笑)。

D:そう、これはまた別の話だけど、彼女はイギリスで最初のアシッドハウス・バンド(Baby Ford)で歌っていて、僕はそれが大好きだったんだ。

S:クラブにレコードを持ち込んでかけるんだけど、ベースがうるさ過ぎていつもスピーカーを壊してた。

D:「Oochy Koochy」はすごくアシッドで最高だよ。

——写真集『Click-To-Buy』のコンセプトはどのように決まっていったんでしょうか?

S:Ariesを一緒にやっているファーガス(・パーセル)と今回スタイリストを務めたジェイン・ハウ(Jane How)を交えてミーティングをしました。そのときにデヴィッドから「ミニキャブオフィスにしよう」って提案があったんです。

——ミニキャブオフィス?

S:いまはもうほとんど残ってないけど、昔ロンドンにはミニキャブって呼ばれる黒いタクシーが走っていたの。

D:夜中に家まで帰る一番安い方法だったんだ。運転手も危なっかしくて、道を走らないのもいたけど、安いからクラブから帰るのにみんな使ってたよ。4時とか5時にタクシーなんか走ってないから、その汚くて狭いオフィスまで行ってミニキャブを呼んでもらってね。事務所にいるやつはだいたい寝てるから、彼を起こすところから始まるんだ(笑)。

S:それで、そのミニキャブオフィスのイメージで作ることにしました。

D:過去を懐かしんでいるわけじゃないよ。当時のロンドンの雰囲気は、アシッドハウスやその精神性にも影響を与えていたんだけど、ミニキャブオフィスはその雰囲気を象徴だと思ったんだ。だからそこから考えてみたかった。この企画の運転手はAriesだから、どこに向かうか僕にもわからなかったけどね。

——当時のロンドンの雰囲気やその頃に感じていたことがインスピレーションになっているってことですか?

D:もっと正確にいうと“歪んだ記憶”かもね。その記憶が出来上がったヴィジュアルイメージを喚起したんだ。だからこれはコラボレーションであると共に、パーソナルな写真でもある。

S:私の個人的な記憶も入っています。梱包材とかステッカーが出てくるのは私がその頃働いていた〈SLAM CITY SKATES〉のエッセンスを入れたかったから。毎日発送作業ばかりしてたの(笑)。

D:『Click-To-Buy』の写真に僕とソフィア以上に意味を見出す人はいないだろうね。
なぜこういうテイストの写真を撮りたかったかというと、写真にはそれ特有のナラティブ(話法)や象徴的な意味合いも持っているべきだと思うから。これはファッション写真を撮ることにだんだん興味がなくなってきたこととも関係してるんだけどね、きっと。

——最終的なヴィジュアルに落ち着くまでにはどんなプロレスがあったのでしょうか?

S:まずスタイリストのジェーン(Jane How)がスタイリングを提案してくれました。全部で15ルックほど、なかにはかなりぶっ飛んだのもありました。それで撮影してみたのですが、もっとシンプルな方がいいと思ったんです。それで要素を引いて、壊していくことにしました。これはAriesのコンセプトでもありますが、何かが崩壊した後のガラクタ感、そのナンセンスさに惹かれるんです。

——写真集のまえがきにも、「目標を捨てて、プロセスにおける流動性を受け入れること」の重要性を書かれていましたね。

S:プロセスこそ大切だと思います。私にとっての成長は、結果に執着しないことです。それはプロセスを楽しむということでもあります。だから人とコラボレーションするのはとても楽しいです。

——デヴィッドはどうですか?

D:撮影の現場では、なにかが起こる可能性のある環境づくりを心がけているよ。規則に沿うようなやり方は窮屈だし、被写体にああしろこうしろ指示をするタイプでもないしね。「写真を撮る」というより会話をするようなものなんだ。頭の中ではパーティを開いているような感覚というか……。ただはっきり言えるのは、僕が人を撮るときは、その人物ではなくてそのパーソナリティを撮っているということ。写真は被写体の外見ではなく、その人の内面によって導かれるものだと思うよ。

——『Click-To-Buy』をみてもかなり遊んでいて、制作過程を楽しんだ様子が伝わってきます。ヴィジュアルにはAriesのふたりとデヴィッドの“らしさ”が共存していて、本当の意味でのコラボレーションになっていると思いました。一方が他方に寄せていくというのではなく、個々のらしさが立っているなあと。

S:本当にそうだと思います。それはジェーンにも言えることで、これほど高いレベルでコラボレーションしたことは今までありませんでした。デヴィッドは私たちには見えていないものを写真に捉えるんです。それは魔法のようで、そのプロセスを目にすることができて本当に素晴らしい体験でした。

D:グループ制作において大切なのはただひとつ、信頼だよ。物事の成り行きに自信を持たないといけないからね。もしチームの誰かが不安を抱いてしまうと、その場の魔法はたちまち消えてしまう。どんなものにも疑問を呈したり、批評をすることはできるよ、しようと思えばね。だけど魔法はいい雰囲気と信頼に満ちた部屋で起こるもの。何が起こるかというと、チームの全員が「これで正しい」と確信できるんだ。実際に正しいことをしているかは問題じゃない。ひとを動かすのは誰かの強い信念だからね。その信念も正しいかどうかは大事じゃない。チームのメンバーが「それでいい」と信じてくれたらそれで十分。無言の信頼が必要なんだ。それさえあれば、人生におけるどんな行動もより良いものになると思うよ。

——なるほど。本や雑誌作りにも言えることですよね。

D:僕は30年以上雑誌で仕事してきたけど、いまだに「雑誌の魔法」を信じているよ。少し批評的な言い方をするなら、いまのファッション業界にその魔法はほとんど残っていない。プロセスが儀式化、産業化してしまっているからね。つまりビジネスになっているんだよ。僕にとってのファッションはそうじゃない。僕にとってのファッションはクリエイティブであること、惹かれるものを愛することなんだ。それは僕が日本から学び直したところでもあってね。20年前に東京に来たとき、どこを歩いてもデタラメな英語ばかりだった。だけどその機能不全が美しかった。僕たちはこの写真集で、そのとき日本から学んだものをお返しできたと思っているよ。魔法の悪用がさらなる魔法を生む。こんなに最高なシットはないよね。

デヴィッド・シムズ&ソフィア・プランテラ interview 後編はこちら