石原海と点子

「イケてるババアは希望」石原海と点子が語る、映画『ガーデンアパート』と中年女性ロールモデルの重要性

ロッテルダム国際映画祭にも出品された石原海のデビュー長編『ガーデンアパート』が劇場で公開。それを記念し、監督とアーティストの点子が本作をめぐる対談を実施。2人が〈イケてるババア〉について、年齢に抗うことのパンクさについて語る。

by Sogo Hiraiwa; photos by Umi Ishihara & Tenko
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10 June 2019, 10:48am

石原海と点子

東京藝術大学に在籍中から、ビデオアートやさまざまなミュージシャンのMVを手がけてきたビデオアーティストのUMMMI.。彼女が石原海名義で2018年に発表した長編映画『ガーデンアパート』が、6月7日(金)からテアトル新宿を皮切りに全国で劇場公開される。

ロッテルダム国際映画祭2019にも正式出品されている本作だが、そこで描かれる内容は、二十代の若手監督によるデビュー作とは思えないほど成熟している。

主人公は大学卒業後に、恋人の太郎と同棲をしているひかり。妊娠したばかりの彼女だが、共にバイト暮らしで生活は苦しい。そこで太郎が頼ったのが叔母の京子だった。ところが、京子はアル中気味で、危なげな言動ばかり。さらには家には若い子を数人住まわせている。ある日、ひかりは太郎にだまって京子の家を訪れることに。予感にも似た興味を抱いて向かったひかりだったが、その一夜はめくるめく展開をみせていく。

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映画『ガーデンアパート』

今回i-Dは、監督の石原海と、最近バンド活動もはじめたアーティストの点子による対談を敢行。

旧友で共にロンドンを拠点に活躍するアーティストである二人が、『ガーデンアパート』の生々しさについて、叔母・京子のモデルとなった〈イケてるババア〉について、年齢に抗うことの大切さについて語り合った。

——『ガーデンアパート』を観てみてどうでした?

点子:どのキャラクターにも好きなところ・嫌いなところがあったけど、一人ひとりが際立っていた。特に主人公の彼氏、太郎のキャラのダメな感じとか。

石原海:もともと、太郎は悪い人の役じゃなかったの。ひかり(主人公)のことを一途に思っているわけだし、むしろいい人になるはずだったんだけど……。

点子:いい人なんだけど、叔母さんの生き方を受け入れたくないし、受け入れられない。もしかしたら、真面目な人なのかも。太郎が典型的な男の人みたいだと思ったのは、自分が思い描く女性像があって、彼女にはそうあってほしいんだけど、彼女がそこにはまらなくてイライラしちゃうところ。太郎には「理想の彼女」があるんだけど、ひかりはもっと自由で、リラックスして生きている。

:自由な女の子ってどんなイメージ? 例えば、一人の人をずっと愛し続けていても自由な人もいるし、反対にたくさん浮気しても自由になれない人もいる。その違いはなんだろうっていつも思う。

点子:ひかりは、太郎の叔母さんがいる世界に自分から飛び込んでいった。あの人たちはこうだって決めつけないで、自分の目で見てみようとするから自由だなって。飛び込んでみた世界が面白くなって、そのまま居すわるところとかも。

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石原海(左)点子(右)

:この映画は3年前に撮ったんだけど、すごく昔に感じる。どうして撮ったのかも思い出せない。

点子:今見返して、ここは変えたいってところはある?

:いっぱいある(笑)。このときは照明や美術が必要なことすら知らなくて、すべて手さぐり。結局、ほとんど周りの友達にやってもらった。だから、テクニカルな面もちゃんとしたい。あと、もっと役者の人と向き合っていたらより深みのある脚本にできたのにって、観るたびに思う。『ガーデンアパート』は懐かしさと恥ずかしさが相まって、観るたびに自分を受け入れる作業をしているような感じがする。すべてを一から作り直したいけど、満足することなんてきっとないから。

点子:何がきっかけでこの物語になったの?

:それも全然わかんない。いつもパーソナルなことをきっかけに作品をつくってるんだけど、このときは妊娠していたわけでもないし、彼氏と同棲はしていたけど、その人に変わった叔母さんがいたわけでもなくて。ゼロから生まれた物語って感じ。だけど、イケてるババアを描きたいとは思ってた。イケてる若い子はいっぱいいるじゃん? でもイケてるババアは、映画ではあまり見ない。

点子:うん、たしかに。

:思いつくのは、ジョン・カサベテスの映画に出てくるジーナ・ローランズくらい。だからそういうイケてるババアが出てくる映画がもっとあってもいいなと思って。

点子:たしかに。そういう女性が出てくる映画だと、1930年代に実在したドイツの娼館をモデルにした『サロン・キティ』も面白かった。ナチスの将校が軍人や政治家たちが集まる〈サロン・キティ〉に娼婦を送り込んで、スパイをさせるんだけど、そのオーナーのマダムキティが利用されていたのを知って復讐する話。

点子:『ガーデンアパート』とは全然違うけど、マダムが強くて素敵だった。

:私たちも今は20代だけど、まちがいなく年老いていく。人は年老いていくっていう絶対のなかで、イケてるババアを描いた映画が存在するっていうのは希望だと思う。

——この破天荒な叔母さんにモデルはいるんですか?

:モデルになってるのは、私のおばあちゃんの妹。夫が死んだすぐあとに新興宗教にはまっちゃって。その新興宗教の新聞部門で働いて、自分の家を売ってそのお金を全部寄付するくらいのめり込んでた。でも、小津安二郎や今村昌平を教えてくれたり、美術館に連れていってくれたり、文芸とか哲学の本を貸してくれたりする、イカしたババアだった。新興宗教にはまってからは、ときどきその本を混ぜてきたりもしたけど。
私はその人が最高にイケてるし、頭が良くて一緒にいても楽しいから仲良くしてた。だけど、家族からは「洗脳されちゃうから会わないで」って言われて。それでも私はこっそり会い続けて、中学生のときに「おばちゃん、この宗教、カルトって呼ばれてるんだよ。知ってる? 頭いいのになんでそんなところにいるの?」って聞いたの。そしたら、「騙されてるのはわかってる。だけど、そうしなきゃいけないんだよ」って。

点子:どうして?

:夫が死んでも1週間もすれば、それまでどおりにご飯を食べて、寝られるようになる。愛している人を失ったあとも普段どおりの生活ができてしまう自分が許せなかったし、気が狂ってしまいそうだったからって。それであえて新興宗教というわかりやすい場所で、気が狂ったパフォーマンスをすることで生き延びていたって。

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映画『ガーデンアパート』

点子:海ちゃんが撮ったことを知らない人には、この映画の監督は年齢不詳だろうなと思った。若い人は、恋愛とかパーティを描いた自伝的な物語だったり、自分についての映画を撮ることが多いから。でもこの映画は、叔母さんが重要なキャラクターとして出てくる。中年の女性の考え方や心情をわかってないといけないから、監督は成熟してみえる。

:私は小学生のころから、40代みたいな感覚で生きていた気がする。だからといって、家族や仕事のことを考えるわけでもなく。クラブで死ぬほど遊び続けるけど、それでも40代である、みたいな。

点子:社会が押しつけてくる年齢の規範に抗うのは大事だと思う。「今あなたは学生だからこうしなさい」とか、「いい歳なんだからこれはしないほうがいい」とか。年齢についてのルールは沢山あるけど、それを無視して生きるのが、私たちができるいちばんの反抗だと思う。

:年齢に抗って生きることはパンクだよね。だけど、『ガーデンアパート』でイケてるババアと一緒に妊娠を扱っているのは、女性の身体を持ってしまっている以上、どうしても年齢に応じてできることとできないことがあると思ったから。そのことにどう折り合いをつけて生きていくか、それが課題だった。

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点子:ファスビンダーの『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』に出てくるペトラもおばさんだけど、かっこいいよね。ファスビンダーはいちばん好きな映画監督かもしれない。

:本当? 私も大好き。好きすぎて、この映画のチラシにも書いたくらい。

点子:ファスビンダーの劇をやりたいなぁと思ってる。

:私もLAMDA(ロンドンにある有名な演劇学校)に通ってる友達と先週、ちょうど同じ話をしてたところ! 一緒にやろう。


『ガーデンアパート』は6月7日(金)-13日(木)テアトル新宿を皮切りに全国順次公開。

◇作品情報
ガーデンアパート
英題:The Garden Apartment
2018年/日本/77分/カラー/16:9/ステレオ
監督・脚本:石原海
共同脚本・プロデューサー:金子遊 アソシエイト・プロデューサー:中村安次郎
出演:篠宮由佳利/竹下かおり/鈴村悠/石田清志郎/石原もも子/稲葉あみ/彩戸惠理香 /Sac/Alma/森雅裕/奥田悠介/塚野達大
音楽:Cemetery/戸張大輔/Scraps 撮影:チャーリー・ヒルハウス 録音:川上拓也 美術:三野綾子 スチール写真:ヴァンサン・ギルバート/黒田零 ヘアメイク:藤原玲子 スタイリスト:塚野達大 スタッフ:奥田悠介/太田明日香
配給・宣伝:アルミード/ Filmground