Photography Alin Kovacs

没入型のランウェイでファッションの排他的な構造を壊すA-COLD-WALL* SS19

安全メガネ、耳栓、マスクも装着。サミュエル・ロスは自身へ向けられる期待の範疇にとらわれることを拒む。「自分の出自に目を向けるより、未来に向けた服をつくることのほうに関心があります」

by Steve Salter; translated by Aya Takatsu
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jun 18 2018, 7:46am

Photography Alin Kovacs

ヴァージル・アブロー(ファッション界でもっとも忙しく、もっとも生産性のあるクリエイターのひとり)とともに仕事をしたのち、サミュエル・ロスは自身の創造力を試す場としてのブランド、A-COLD-WALL*を立ち上げた。集学的でストーリー性に富むサミュエルのビジョンが進化してひとかどのブランドとなったことに業界から称賛の声が集まり、3年半前にアートプロジェクトとして始まったこのブランドは、今やLVMH賞の最終選考に残るまでになった。2017年NEWGEN賞のスポンサーシップを受け、ロンドンファッションウィーク・メンズでの2つのショーを披露したのち、ロスとそのチームは、観客の感覚を震わせるその没入型のランウェイで可能性を広げることを決め、ブランドのポテンシャルが制約を受けないのだということを示した。

27歳のサミュエルは、ファッションがどうなり得るか?という命題に挑み、その排他的なラグジュアリーさを排除する新世代デザイナーのひとりだ。2019年春夏コレクションでは、モデルたちが囲いをバラバラに壊し、その中から血まみれの裸の男が身をよじって出てくるオープニングから、フィナーレ後のデザイナーの挨拶に至るまで、それが明確に表れていた。観客――「ムーヴメントをサポートすべく」マンチェスターのパークライフ・フェスから飛行機で到着したばかりのヴァージル・アブローも含むーーのしかめ面は、ショーを目の当たりにして、A-COLD-WALL*ブランドの防護服を提供された感謝の意へと変わった。そのメッセージが持つパワーから逃れる術はない。過去は忘れよう、A-COLD-WALL*は未来にしか興味のないのだ。

「自分が心地いいと思う場所を離れ、より本当のアーティストに近づくことができました。なぜなら私は、社会的な物語が語られることを保証するためなら、喜んでリスクを負い、今自分が持っているものを犠牲にするからです」と、バックステージでサミュエル・ロスは話した。「そこには、単に私が服をつくるというよりもっと大きな意味があります。社会的な主張なのです。私は労働者階級の物語を語ることのできる、数少ないデザイナーのひとりですから」。そしてノーザンプトンで育ち、ロンドンに拠点を置く彼は、こうつけ加えた。「このことを、自分たちが創造するものに対する私自身の責任だと感じています」。サミュエルは2018年のイギリスのユースカルチャーが直面する現実に鏡をかざし、挑発し、また正直になることで、それを打ち崩しているのだ。

「あの構造体が持つ本当の目的は、バラバラに壊されることにあったのです。引き倒されたあの壁は、あの人々にもたらされた透明性を表現しているのです。人間のかたちと建築的な構造体はとても同義的で、関連しあっているーー人は育つ環境によって人生の選択を変えます。モデルを通じて私はそのような構造のエネルギーを映し出し、それが壊されるところを見せたいと考えました」。そのような構造は人に影響を与えるが、人を決定づけることはできない。人はそれを壊し、自由になることができるから。それがメッセージだ。

複雑でよく考えられ、ていねいにつくられた近未来的な服のコレクションは、演出などなくてもA-COLD-WALL*の変異をはっきりと示すことができただろう。服を通して、それらは増幅されていた。パフォーマンスと同じく、コレクションーータイトルは〈Human. Form. Structure.〉――は空間と構造のあらわな感情を被服的に表現したものである。その服が取り組むのは、構造体がどのように身体を入れ込み、保護し、祀るかということ。全体を通して、革新的な合理的合成物とリュクスな触感の製品が並行してならべられる。「服とアートです」。どのようにこのコレクションを表現するかと問われて、サミュエルはそう説明した。「ストリートウェアは、今このムーヴメントに使われるべき言葉ではありません。もちろんトラックスーツもありますが、その裏には知的概念と、それをつくるために必要なクラフツマンシップーーヴィンツェンツィオで、特別な手染め技法を用いてつくられましたーーが隠れています。その背後の思考プロセスには、ラグジュアリーがあるのです。ここで言うラグジュアリーとは、知性のことです」

ロンドンファッションウィークでは、デザイナーたちはまず、そのクリエイティヴな可能性を推し進め、そのあとビジネスとして展開していくという流れが多い。だがA-COLD-WALL*はこうした既存の流れには乗らず、今やそのビジネスが実験の基盤となっている。「ビジネスの成果が出て、昨年はメンズで350万ポンドを成すことができました。そのおかげで、改良し、挑戦することができるだけの資金を得られるのです。今、私には組織化されたチームや素晴らしいイタリアの工場とのつながりがあるので、服を通してもっと明瞭なアイデアを推し進めることができます。もう自分の故郷に結びついた憂鬱を描き出そうとはしていません。もっとユニバーサルな方法で困難について問うことの自由がもたらされたのです。自分の出自に目を向けるより、未来に向けた服をつくることのほうに関心があります」。サミュエルはこれまでに、メゾンでの役職を考えたことがあるのだろうか? 「たぶん、そのうちに。私は27歳ですから、急いではいません。そのあいだにも、私はただ、この物語が社会的視点からもきちんと語られることの保証がほしいのです」。A-COLD-WALL*が変わらずファッションの素晴らしき新世界をけん引し続ける今、サミュエル・ロスなら自身のラグジュアリーブランドでさえもつくりかねないと誰もが考えるだろう。

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Photography Alin Kovacs

This article originally appeared on i-D UK.