ジェニファー・ベイカー インタビュー前編:BOOKMARCの選書術

ファッションブランドが手がける書店として極めて異例ながら、今やカルチャーの発信拠点としても知られるBOOKMARC。NYと東京・原宿店のすべてのディレクションを務めるジェニファー・ベイカーに、BOOKMARCがスタートした経緯や独特なディスプレイ・レイアウトについて尋ねた。エクスクルーシブなロングインタビューを、余すところなく前後編で掲載。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Kodai Kobayashi
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07 December 2017, 9:06am

陳列された本の微妙なずれを丁寧に手直しし、大判の写真集を手に取り、ページをゆっくり陳列された本の微妙なずれを丁寧に手直しし、大判の写真集を手に取り、ページをゆっくりとめくる。その一挙一動をみていると、彼女の非凡な「本」への愛情が香ってくる——ブラックのパンツスーツ姿でひときわクールな彼女は、MARC JACOBSが展開しNYと東京の二店舗をかまえる書店BOOKMARCのグローバル・ディレクター、ジェニファー・ベイカーだ。滅多にインタビューに答えることのない彼女が、i-D Japanのロングインタビューに応えてくれた。「ショップのなかを歩きながらお話ししましょうか」

——BOOKMARCのディレクターに就任した経緯をお聞かせください。

13年前のことね。私はロサンゼルスにあるMARC BY MARCJACOBSでマネージャーとして働いていました。その頃はすべてのショップで本を扱っていて、私はブックバイヤーを兼任するようになっていました。2010年、本の評判がとても良いということで本屋をオープンすることになり、本のディレクターを専任するようになりました。

——BOOKMARCには時代やジャンルを超越して本が厳選されています。

まず何よりも信じているのは、私たちの直感が選ぶものであること。何が売れるかという市場調査はしますが、それぞれの本が私たちのブランドの歴史に整合するのかを常に自分に問いかけています。設立当初はファインアートや写真だけを扱っていましたが、BOOKMARCに訪れる方々は「まだ見ぬ本」を求めている実感がありました。今ではより広いジャンル、例えば、料理本や詩集、自叙伝、小説、そして稀少本も揃えています。

——ニューヨークと東京のセレクトは違うのですか?

もちろんです。東京では日本人作家の作品を選ぶ傾向にあるし、地域によって求められるものが違うのは当然ですから、その地のカルチャーも考慮しています。

——短い期間で数多くのエキシビジョンを開催していますね。

考え方は、本のセレクトとまったく同じ。私たちのブランドに合うかどうかが重要です。新人を紹介することもしますし、MARC JACOBSを好きでいてくれている人たちにとっての「ヒーロー」を扱うときもあります。短い会期になってしまう主な理由は、本の発売に合わせて展覧会をやることが多いから。特に9月〜12月は、本のリリースが重なるので必然的に短期間になってしまうのです。

——では現在、最も注目しているフォトグラファーはいますか?若くして才能のある人はたくさんいますよね。

トーマス・ギディングス(Thomas Giddings)は、ファッションフォトグラファーでも知られていますが、ファインアートの作品も撮っています。強いて言うと、オールドスクールなテイストですね。11月にはBOOKMARCで彼をサポートするので、より多くの人たちの目に触れることができたらと思っています。もう一人は、タイロン・ルボン。彼もエディトリアルを経て、ファインアートも手がけている。今、世界的にそういう流れがあって、私たちは彼らの動向をサポートしていきたいと思っています。

——つい最近から雑誌も取り扱うようになったのはなぜでしょうか?

その答えは明快です。雑誌は、現在という時代を呼吸しているから。スピーディーに文化を反映させるため。i-D Japanもそうでしょう?

——あなたにとって、上質な本とはどういうものですか?

自分自身の美徳に敬意を払っている出版者が、素晴らしい本を作ると確信しています。日本だとスーパーラボのホウキヤスノリさんほどプライドを持った本づくりをしている方はいないと思います。

——紙の質感や造形美……。物体としての「本」の魅力とはなんでしょうか?

それこそが、BOOKMARCの成功において最も重要なことなのです。本を展示するにあたって、最高のブックデザイン、私たちの言葉でいえば「予想外な要素」を求めています。そうした独自性を最大限に活かしながら、お店を訪れた人たちが目にして驚いたり、惹かれたり、あるいはセクシーにみえるように配置しています。

例えばこの本は、ダストカバーを取り外して展示しています。最も外見的な部分でいうと、表紙と裏表紙、背表紙。そのすべての要素をみて、その本の存在感として私たちが最も美しいと思える展示方法を選んでいます。

あるいはこのレイアウト。1冊の本の表と裏を少しずらして飾ったときに、ほら、1人の人間のようでしょ? アイキャッチーであることは大切ですし、私たちは遊び心も忘れません。

——店内もエキシビジョンのようですね。

そう言ってくれて嬉しいわ。私たちが働く会社は視覚的な部分を尊重するとてもクリエイティブな人たちの集まりですから、その伝統を守りながら豊かなディスプレイを作るようにしています。ブランドに一貫して流れている、マークが設定したクリエイティビティにおけるハイレベルな基準を下げることがないようにね。

——原宿店には80年代創刊当初の『i-D』のカバーも置いてあります。

このビジュアル自体が歴史的なものですし、グラフィックとしても目を引く素晴らしいものだと思っています。5年前からLAのアートブックフェアにも参加していて、アート作品を収集しながらポスターや写真の販売も始めています。そうした経緯で『i-D』の創刊号から12〜14号くらいを集めたのですが、それらがあまりにも素晴らしかったので、売るのではなくお店のアクセントとして使おうということになったのです。

——あなたにとって、本を読む最も理想的なシチュエーションとは?

旅のなかで読む本が好きですね。例えば、飛行機の中。誰にも邪魔されることなく本の世界に没頭できるじゃない?今回東京に来る機内で読んでいたのは、ジョーン・ディディオンの『60年代の過ぎた朝』。彼女の本は、とてもBOOKMARCらしいと思っていて、本当に美しいのよ。まもなく、彼女の甥っ子が制作した自叙伝的なドキュメンタリー『ジョーン・ディディオン:ザ・センター・ウィル・ノット・ホールド』がNetflixでリリースされるわね。その作品のプレミア上映がNYであったとき、彼女が登壇すると10分間以上もスタンディング・オーベーションだったそうです。彼女の存在を若い世代に知ってもらうには、これ以上にないタイミングですね。

後編へ続く。

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