素材と形の隣接点:YOHEI OHNO 大野陽平 interview

彼のデザインは「今ここにあるものではない何か」を志向している。これを読み解く、5つのこと。

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04 March 2019, 7:52am

2019インターナショナル・ウールマーク・プライズ(IWP)の受賞者発表セレモニーが華々しく終幕した翌朝、ウィメンズ部門のファイナリストである大野陽平と、ロンドンのトラファルガー広場近くのカフェで待ち合わせていた。「起きても悔しかった」と表情を歪ませるものの、飄々明快とした語りぶりはいつもと変わらない。インタビューの後には、世界中のリテーラーとの分刻みのアポイントメントが待っている。

YOHEI OHNOのスタートは2014年12月。彼が、文学服装学院とノッティンガム・トレント大学で学んで帰国した年だ。2016年のTOKYO FASHION AWARD受賞を機に海外でショールームを展開し、以後、AFWTでもショーやインスタレーションを行ってきた。元来は、衣服に用いられることのない意表を突く“素材”をファッションデザインの俎上におしあげ、建築やプロダクトデザインといった大野の嗜好性が見え隠れする、構築的でシャープなフォルムを追求してきた。この調和——もしくは不調和——が、YOHEI OHNOのオリジナリティのひとつなのだろうとずっと思っていた。そして、この日、話を訊くなかで浮き上がった5つのことが、それを確信に変えていった。

彼のデザインを紐解く手がかり、その1。大野がこともなげに引用した、敬愛するイタリア未来派を代表する画家、デザイナーのブルーノ・ムナーリの「デザイナーのやるべきことは素材と向き合うこと」という言葉。

彼のデザインアプローチは「素材を観察して、そこに新しい価値を吹き込む」ことだと言う。さらに、服飾史上の「この素材なら、この服を作る」というステレオタイプには決してとらわれることがない。「例えば、デニムだったらジージャンとジーパンを作る。そういう文脈はフラットにしたい。もっと自由に。『今、この素材を扱うなら、どういう形をしていたら一番“切れ味”があるのか』を常に考えているんです」。もうシグネチャーと呼んでも良い肩からスリーブにかけての大胆な膨らみ、胸元からヘムに向かう有機的なシェイプは、一度見たら忘れられない個性を放っている。

こうも語る。「ある素材に対して何を作るかという発想もあるし、自分のデザインに何の素材が合うのかという発想も両方あります。過去にあった何かの服をベースにしているわけではないので、いまだに僕自身も何がマッチするのかはわからない。探り探りやっているのが、服を作る楽しさだったりするから」。当然、思うようにフォルムが出ない時もある。それさえも予期せぬ形として受け入れながら、素材とフォルムの関係をおもむろに(きっと無邪気に楽しみながら)探っていく。「それが結果として、いろんな人にインスピレーションを与えるものであったらいいなと思っています」

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その2。素材のプライオリティ。これまでのコレクションの中では、ウール単体のイメージが突出していなかったYOHEI OHNOが考えるウールの特性は「造形力」だという。「仕立てた時に綺麗に仕上がるし、生き物の繊維なので、自由に形を作れて着やすい」。しかし変わらず、今も「どんな素材にも等しく魅力を感じている」と話す。

IWPファイナル大会のために制作した6体からなるカプセルコレクションは、デッドストックになっていたストライプ柄のサマーウール地をリバイバルすることから始まった。尾州で発見した30年前のもので、古めかしくも、懐かしい風合いがある。「ウールマーク・カンパニーのパートナーである中伝毛織さんとの協業です」。5パターン、5色。秋冬シーズン用に、オリジナルよりも少しだけ肉厚な生地に仕上げた。「滑らかで綺麗な表面になるのは嫌だったので、ドライな質感を残してほしいというニュアンスだけは伝えました」

この素材に直感的に惹かれた理由は「おじいちゃんが着ているような」感じ。きっとこの感覚は、2018-19年秋冬コレクションから引き継いでいるものだろう。「そのシーズンは、コーデュロイやツイードなど懐かしく、人のリアルな生活に近い素材を使いました。そういう素材の方が“服っぽくなく”、“プロダクト”のような自分の服とのコントラストが際立つと思って。IWPでやろうとしたのも、同じこと。古めかしさとモダンさが共存すると良いと思ったんです」

「プライズのファイナリストとして選んでいただいた以上は、ウールは使い続けていく義務と使命がある」と語る大野は、服のデザインにも、ブランドビジネスにおいても「導線」と「着る人との距離感」が欠かせないと話す——その3。

「自分より下の世代で、2万円のワンピースでも高いという子もいる。彼女たちが良いものに出会うための導線はブランドやデザイナーが作るべき」。たしかに「若いもんは上質なものを知らないから」という年寄りじみた論理を言い放ちたくない。「少し生地の質を落としてでも価格設定を下げたりして、ブランドのテリトリーに入ってもらいたい」のだという。

その一方で、「“いわゆる普通の服ではない”と言いながら、まったくわけがわからないものは取り入れられないじゃないですか。ジャケットっぽくポケットをつける、とか。ちょっと“それっぽく”することはデザインする上で意識しています」と話す。服のディテールに分かりやすい記号を配して、門戸を広げるイメージだろう。「袖を通してもらう機会を増やすことは、ウールの素材や魅力を肌で知ってもらうことにつながる。着る人との駆け引きが僕のデザインにはあるんです」

ブブランドを象徴するシルエットを巡る、その4。「昔のデザイナーは代表的なシルエットを持っていますよね」と言う。クロード・モンタナのドレスといえば構築的なフォルム、ムッシュ・ディオールならばニュー・ルックといった具合だろうか。「そう。それが今は新しい気がしているんです。情報の流れがこれだけ早い中で、1シーズンだけやっても何も印象に残らない。長く継続するなかでしっかりと形作りながら、定着させていくことが必要だと思っているんです」。現代。濁流のように玉石混淆のビジュアルが氾濫するなかで、半年ごとに刷新されるブランドイメージはYOHEI OHNOには不要なのだろう。それは、常套手段や定型に流されないブランド独自の“時間軸”を持つということなのだと思う。「そうですね。時間をかけてイメージを作っていくことと、時間をかけて一流のものを作っていくことが大事。昨年LAILA TOKYOで、アントワープ6のマリナ・イーが発表したコレクションを良いなと思ったんです。あれは、微調整を長年繰り返しながら“時間の蓄積”が生んだ洋服だったから。そうしていくうちに、だんだんとデザインとして普遍なものに近づいていくんじゃないかと思っているんです」

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デザイナーとしてのアティチュードに迫る、最後のクォート。ウィメンズのデザイナーを志すきっかけは、かつてニコラ・ゲスキエールがバレンシアガで発表したSF的なコレクションだということ。「日本では、もはや誰でも簡単にファッションデザイナーを名乗れる。その中で“ファッションデザイナーの勉強をしてきた”自分のような人がちょっとダサいかもしれないと思った時期があったんです。だって、DJの勉強をしてDJになった人なんていないじゃないですか(笑)」。だが、彼は「自分がファッションデザイナーから何を与えられたか」という初動に立ち返った。

「ゲスキエールが2007年にTRONをテーマにメタリックな甲冑をデザインしたフューチャーなコレクションには、野郎が好きなガンダムとかの世界観があって。価値観が変わるほど衝撃的でした」。それは、豪華絢爛なパリコレ・ウィメンズの世界とは一線を画していたという。「それを着ている女性が決して“マネキン”には見えず、むしろ活き活きとしていました。男性にしかつくれない女性の姿もあると気づいたんです。ゲスキエールがそうであったように“今あるものじゃないもの”を示すのが、僕が考えるファッションデザイナーの仕事なんです」

2019-20年秋冬コレクションでは、ブランドを「立体的」に見せるため「3パターンのビジュアル」を制作したという。「ブランドはルックを撮るものだという常識もフラットにしたい」。彼は、デザイナーとして、ブランドとして、未来を思わせる何かを示さなくてはいけないと語調を強める。例えば「未来の生活や、洋服からみえ始まる“人間像”のようなもの」。3つの違う視点から、1つのコレクションを多角的に見たときに浮き上がってくる何かが確かにある。未来予測をした数万字に及ぶ論文を何時間もかけて読むよりも、“軽妙に”未来像を描くことができるのもファッションなのだ。

「僕は、単純にへそ曲がりでもあって(笑)。現行のものを簡単には受け入れたくないという気持ちもあります。未来はテクノロジーじゃないと思っているし。“今ここではない何か”を探っていくと、結果的に未来そのものや新しい可能性についての示唆に結び付くと思っているんです。例えば、IWPのコレクションも含め、僕が今、古めかしいものや民芸品などに興味が向かっていることでさえも」。現在形の彼のステイトメントは、「Back to Primitive」と言い表せるのだという。あぁ、何と心をくすぐる言葉だろうか。