KOHH WEARS JACKET YOHJI YAMAMOTO. NECKLACE AVALANCHE. BELT UNDERCOVER. JUMPER AND TROUSERS MODEL'S OWN.

KOHHのしなやかな生き様

日本のヒップホップ・シーンを飛び出し、宇多田ヒカル楽曲への客演参加など、突出した存在感でその名を世界に鳴り響かせるKOHH。今や時代の寵児たる彼の魅力に迫った。

by Bundai Yamada
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23 June 2017, 7:40am

KOHH WEARS JACKET YOHJI YAMAMOTO. NECKLACE AVALANCHE. BELT UNDERCOVER. JUMPER AND TROUSERS MODEL'S OWN.

KOHHの名が世界中に拡散されるきっかけとなったのは、2015年1月1日YouTubeで公開された韓国のラッパー、キース・エイプの『It G MA』へのフィーチャリング参加だろう。特に公開から約2カ月間は、世界中でほとんど1分ごとにKOHHの名がツイートされる程だったという。また翌2016年は、フジロックフェスティバルへの参加、宇多田ヒカル、フランク・オーシャンの客演楽曲の発表、パリコレでデビューしたFACETASMのランウェイを歩くなど、躍進的にKOHHの名が流布した記念碑的な一年だったと言っていい。ジャンル、シーン、国境……様々な地平を縦横に飛び越えるKOHHだが、徐々に大きくなる自身の活動のフィールドについて、今なにを思うのか。

「俺は何が大きくて何が小さいかがよくわからないんですよ。みんなが勝手に俺の存在が大きくなってると思ってるかもしれないけど、俺にはまったくその自覚もない。『え、別に俺だよ』みたいな」

ラッパーになる前は「彫り師になりたいと思っていた」というKOHHは、喉元のマルセル・デュシャンのモナリザや手の甲のニコラ・テスラをはじめとして、露出された肌という肌が印象的なタトゥーで覆われている。最近入れた顔面のものまで含め刺青だらけの派手な風貌が目をひくが、KOHHは決して「圧」を感じさせる存在ではない。物腰は柔和で、むしろこれほど肩の力が抜けたアーティストも珍しい。

「俺は知名度やセールスより、"ウケる"とか"おもしろいから"とか、自分の"好き度"が大きいほうがいいなあと思いますね。曲でも誰かに何かを伝えたいみたいなのもまったくないです。自分に伝われば良いというか、自分がブチ喰らうような曲を作りたいですね。金がほしいと思ったことはありますけど、こうやったら売れるだろうなみたいなことを考えたことはないです」

そうKOHHは言う。だが、現実には好き嫌いのジャッジだけで仕事を選別するのはいうほど簡単なことではない。作品を売るためにアーティストもできる限りのことをするべきという考え方は、こと日本では疑うべきではない不文律のようなものだ。プロモーショントークとして「仕事を選ぶ」と公言するアーティストはいくらでもいるが、その大抵は「多くの人に伝えたい」という美辞を建前に、時代の気分やメッセージを込めた制作に腐心することになる。そうした作品群はどうしてもある種の陳腐さをまとい、戦略に消費されてしまう。KOHHの音楽は、そういった地点の遥か遠くで鳴らされているものだ。

「リリックはその日そのときの気持ちって感じで、そのときはいいと思っても数日経って聴いたらくだらないと思うこともあるし、どこかで自分の曲がたまたま耳に入って、"ここいいなあ"と思うことはあります。でも俺の曲に関して"これはクラシック"と言えるほどの曲はまだないですね」

KOHHのこうした発言は、卑下や謙遜からではないだろう。KOHHが制作でつまらないと思うのは「これはすでにやった」と感じるときだという。そうであれば自身の過去作に惹かれないのも、彼にとっては当然なのかもしれない。しかし、これまで自身の楽曲やインタビューでも語ってきたように、幼くして父親を亡くし(未だに本当の死因はわからないという)、薬物中毒だった母親の元「家族で食卓を囲んだ記憶はほとんどない」という環境で育った過去と、現在の活躍を思えば、彼の音楽が生活を激変させたのは間違いないはずだ。その変化をKOHH自身はどう受け止めているのだろう。

「昔やりたいと思っていたことが叶っているなあと感じることはありますね。そうなると思っていたからですかね。俺はそうなったらいいなと自分で思ったことを無理だと思ったり、無理な理由を探したことはないです。ただ、"そうなったらいいな"のまま、今までずっときています」

こうした言葉を聞くと、なぜ彼の音楽が世界中で広く聴かれているのか頷ける気がした。初期衝動を微塵も減じることなく信じ続ける力ーーそれこそ全世界に共通する真のアーティストの資質だというのは、あまりに短絡した結論だろうか。本インタビュー中、この先行き不安と言われる時代、耳を傾けるべき人間がいるとしたら、それは誰かと質問を投げると、KOHHはこう応えた。

「耳を傾けるべき人ってより、耳を傾けなくてもいい人なんているのか? それは誰なんだみたいな感じっすね」

この言葉に対する答えは見つからないが、ともあれそれは他の誰でもないKOHHという人間の根源的な魅力を伝える不思議な奥行きを持つ言葉だった。

Credits


Photography Chikashi Suzuki
Styling Lambda Takahashi
Text Bundai Yamada
Photography assistance Reiko Touyama
Styling assistance Yasuaki Oikawa

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