Stefan Cooke by Estelle Hanania and Gary David Moore

ファッション業界は、若手デザイナーを消費するのをやめよ

若手デザイナーへの支援は、才能の搾取になっている?

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maj 23 2018, 1:31pm

Stefan Cooke by Estelle Hanania and Gary David Moore

わたしたち〈1 Granary〉がロンドンでファッションを学ぶ学生たちの刺激的な作品をブログで紹介し始めてから5年以上が経つ。それ以来、わたしたちは、ゆっくりと、しかし着実に成長を遂げ、現在では、雑誌を刊行し、ショールームを構えるまでに至っている。すべては才能を見いだし、有望なデザイナーたちを世界に紹介するためだ。しかし、〈1 Granary〉の成長と時を同じくして、ファッション業界が新たな若手クリエイターを発掘しようとする動きも加速していった。若手デザイナーを対象としたコンテストが増加し、大手メディアが服飾学校の卒業制作ショーを取り上げるのも当たり前となっている。このような現状に、わたしたち〈1 Granary〉は「キャリアを始めたばかりの若手デザイナーたちにスポットライトを当てたことは、間違いだったのではないか?」と疑問を抱くようになった。

Charlotte Knowles by Danielle Neu and Emma Wyman

ファッション・レーベルの立ち上げにはさまざまな方法がある。SNSと最新テクノロジーによって、プロモーションの幅もかつてないほどに広がった。バイヤーやジャーナリストといった業界人たちの評価を気にせず、デザイナーが直接世界に作品を販促・販売することができるようになった。また、レーベルを立ち上げたいと願う若手デザイナーたちをターゲットにしたビジネスもも増えた。コンサルタントからPRまで、あらゆるファッション業界の職種は、「新たなスター」を売り物にして稼ぐことができる。有望な若手のデザイナーや気鋭のブランドにサービスを提供することで儲けられるのだ。しかし、こうした状況でデザイナー自身は実際に何を得られるだろう。そこで、若手デザイナーたちは商品として扱われているのだ。

Richard Quinn by Marie Déhé and Camille Bidault-Waddington

そこで重要な役割を果たすのがファッション・メディアだ。次なるスターを発掘したい彼らは、若手デザイナーやブランドが成長できる時間を与えることなく、早々に彼らの作品をカテゴライズし、発信してしまいがちだ。「もっともホット、最高にクール」などとネット上で謳われてしまえば、そこにはもう作品世界や作家性の奥行きに目が向けられる余地はない。エディターたちは“ファッション界の次なるスター”と煽って若手デザイナーたちを誌面で讃える。そんなプロモーション方法に少しでもあやかりたいファッション学校出身者たちは、学生ローン返済のメドもたたないうちに、レーベルを立ち上げてしまったりする。立ち上げてしまえば、もう失敗はゆるされない。一度判断を誤り、その後名誉を挽回できずに消えていったデザイナーは星の数ほどいる。立ち上げてすぐに話題になれば、多くのひとがすり寄ってくる。しかし、その多くはブランドが少しでも傾けば、無情なほどの速さで離れていく。盛んに持ち上げもするが、切り捨てるのも早い。ファッション業界は若手デザイナーを次々と消費やしていくのだ。

Chopova Lowena by Chris Rhodes and Lyson Marchessault

しかし、若手の才能への注目そのものが問題なのではない。業界を知らない若手デザイナーが自身の持つ価値を正しく認識することなく、盲目のうちに体制へと組み込まれてしまうことが問題なのだ。若手の才能がここまで取り沙汰されている現代だからといって、「彼らの存在がファッション業界により一層の多様性をもたらしてくれるのでは」と考えるのは、あまりに安易だ。新参ブランドの多くは、昔ながらの体制を真似ることしかできず、作品を制作し、それを見せ、売る新たな方法を実現できずにいる。誰もが新たな才能を見出して共に仕事をしたいと願いながらも、同時にわたしたちは、彼らに伝統あるブランドや著名なデザイナーたちが牛耳る業界にひざまずくのを強いているのだ。

Eftychia Karamolegkou by Pascal Gambarte and Anna Pesonen

また、ランウェイショーがコレクションを発表するのに最適な方法だと、若手デザイナーたちに信じ込ませてしまっている現場にも問題がある。たしかにショーは、ブランドが業界や顧客にコレクションの世界観やアイデアを伝えるのに適している。しかし、まだフランス語で「chaussettes(靴下)」と「chaussures(靴)」の違いも分からない若手デザイナーをパリに挑戦させることは(あらゆる意味において)自殺行為になりかねない。パリがファッション界最高のショー開催地であるからといって、若手デザイナーが先人たちと同じ道をたどる必要などないのだ。

若手デザイナーが実験と失敗を経験できる余地を与える——これこそが、わたしたちの推進していくべき支援の形なのではないだろうか? デザイナーが個々に持つアーティスティックな感覚を、学校卒業後も成長していけるチャンスを、わたしたちは彼らに与えなければならないのだ。「探求できるだけの自由」ということが大切なのかもしれない。成功のあり方がひとつしかなく、そこへの道のりも一本しか用意されていないようでは、デザイナーがアーティストとして成長できる余地など、どこに生まれるというのだろう?

Gabriele Skucas by Tom Ordoyno and Ellie Grace Cumming

こうした問題は、ブランドを立ち上げたばかりの若手のみに当てはまるものではない。ブランドで活躍する専属デザイナーたちにも当てはまることだ。既存ブランドのデザイナーとして働く人たち、また、いつか大手ブランドのデザイナーとして働きたいと考えている人たちも、健全なファッション業界にとって重要な存在だ。ファッションはひとりの人間によって生み出されるものではない。人びとが結束して初めて生まれるものだ。素晴らしい作品というのは、クリエイターたちが一丸となって作り上げた結果に他ならない。

現在のファッション業界に欠けているもの——それへのひとつの答えとして、わたしたちはVOIDを立ち上げた。〈1 Granary〉の活動の一環として、若手クリエイターたちに教育を与え、業界とのつながりを育んでいこうとする取り組みだ。彼らが出会い、さまざまな失敗を通して、新たな業界のあり方を探っていこうとするものだ。VOIDはまず、気鋭のデザイナー7人を選び、彼らに、7人の著名スタイリストと7人の著名写真家を引き合わせた。経験豊富なプロたちと、若手デザイナーを引き合わせることで、そこに“一生もの”となりうる関係のきっかけを生んだ。これは、従来はなかった形でデザイナーたちの世界観を打ち出し、ファッションウィークの過酷なスピードに飲み込まれる前に、彼らに十分な成長期間を与える、新たな取り組みとなった。

Laura Newton by Hiu Zhi Wei and Katie Burnett

インディペンデントの若手デザイナーたちに財政的な支援を提供する体制は、すでに存在しているし成果もあげている。だから、わたしたちがVOIDで目指すのは財政支援ではない。人びとの意識に問いかけ、ファッション業界に一石を投じる——それがVOIDの目指すものだ。そうやって、ファッションの制作から販促、そして消費に、もうひとつのあり方を模索していきたい。VOIDは新たなスターを生む“無情な体制”ではない。なにがなされるべきかを示し、その解決法を見出す取り組みのひとつのサンプルだ。

A special thanks to Jimmy Mof at, Sara Hemming, Jef erson Hack, Catherine Russel, Jo-Ann Furniss, Red Hook Labs, Spectrum Photographic, Chelsea Framers, London Framing.