ヴァージル・アブローによる初の日本でのショーケース。ルイ・ヴィトン メンズ春夏2021コレクション
ファッションの転換期にヴァージル・アブローが新たなアプローチとして選んだのは〈旅するファッションショー〉。中国・上海に続く第2の寄港地は日本の首都、東京の新たな玄関口「東京国際クルーズターミナル」だった。
Louis Vuitton Mens Collection by Virgil Abloh Spring Summer 2021
ヴァージル・アブローがルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターに就任し、5回目となるコレクションを、東京で発表した。このショーのために、ルイ・ヴィトン社は専門家の意見を取り入れ、万全のコロナ対策に取り組み、イベントを実現させた。ヴァージルが航海にたとえる本コレクションは7月にパリを出航し、上海そして東京へと回遊してきた。今回会場となったのは臨海副都心にある東京クルーズターミナル。東京ではコロナ禍にともない、久しぶりのイベントへのアテンドとなる観客も多く、以前は当たり前だったイベントへの参加や人々との交流を、慣れないレギュレーションに戸惑いつつも満月のもと楽しんだ。








私の願いは、伝統的なラグシュアリーコードに自身の進歩的な価値観を吹き込むことです。
ニュアンスは、皮肉的な言葉と同時に、理解しがたい場合があります。毎シーズン、私のチームは「ヴァージル_・_アブローの語彙集:用語の自由な定義とアイディアの説明」をアップデートしています。「I」の項目にある「Irony」は、「ルイ_・_ヴィトンにおいてのヴァージル_・_アブローの存在」と定義されています。あらゆる意図やニュアンスを込めて、私はフランスのラグジュアリーメゾンの一員である黒人男性として、自分が直面したリアリィティを明らかにしてきました。私は自らの責任を十分に理解しています。教えを説くというよりも、手本となって先導し、未来の世代のために扉の鍵を開けたいと願っています。
(ヴァージル・アブローによるマニフェストより)

ファーストコレクションの「ザ・ウィズ」に始まった継続的なコレクションテーマである「少年時代」。子供のように純粋な視点を通して世界を見るという造形的アイディアは、今回自身のルーツであるガーナ共和国、そしてアフリカ芸術にも向けられた。それは黒人によるイマジネーションが大胆かつ堂々と視覚化されたものだとヴァージルはいう。ガーナとエチオピアの国旗の色、ガーナの染織物であるケンテクロスや、細身で鮮やかな色の組み合わせのスーツスタイル、そして人形でできたアクセサリーやモチーフが大胆にスーツやコートに乗っかっている。またスカ、2トーンなど音楽をインスピレーションとしたシルエットや、ストリートとの融合に満ちたバラエティーに富むコレクションは約120体に及んだ(8月に行われた上海でのコレクションから約60体が加わった)。ヴァージルと彼のチームは遠隔でのディレクションとなり、キャスティングやスタイリングは全てZOOMによって参加していたという。




また、このショーでヴァージルはファッション業界が直面する過剰生産の問題へも具体的に取り組んだ。彼は自宅待機中のチームに「ホームワーク」を出し、過剰在庫素材を利用して新しいデザインを生み出したり、前シーズンのデザインに少しアレンジを加えるなど、アップサイクリングの概念にもとづいたアイテムを約80点制作した。
東京のショーのためのサウンドトラックのために書かれたカレブ・フェミによる詩、そして朗読の『brother』はこのショー全体を通して流れていた。音楽は今回のために制作されたオールスターアンサンブルによる楽曲とそのライブ映像が使用された。それらを映像のコラボレーションとし三池崇史監督がこのショーのために『ゴム人間』と題された映像を制作した。これはヴァージルからの熱望によりかなりタイトなスケジュールで制作された特別な映像だという。東京を愛する彼らしいエピソードだ。これほど多くの要素やコラボレーターをひとつのコレクション、またはファッションショーにまとめ上げられるデザイナーのは、現代においてヴァージル・アブロー以外に見当たらないだろう。
今回のコレクションの航海における寄港地・東京に向けてヴァージルは、多文化主義や歴史的な異文化交流の記憶を讃えていた。
ルイ・ヴィトンでのキャリアの第二章目に入った彼は今回のコレクションでいつもの「ヴァージル・アブロー語彙集」に加えて前述のマニフェストを発表した。地球温暖化や新型ウイルスのパンデミックが世界的な課題として浮き彫りになったいま、ファッション業界に求められる価値観も大きく様変わりしている。今後のブランドのありかた、方向性を明確にいち早く示したヴァージルの視点を東京で見ることができたのは非常に価値のある体験だった。










Text Kazumi Asamura Hayashi