ラビリンスが明かす、Valentino 2022年秋冬クチュールショーの舞台裏
スペイン広場でのショーの翌朝、『ユーフォリア』プロデューサー/シンガーが、観客を魅了したパフォーマンスについて明かした。
Image courtesy of Valentino
ローマの穏やかな金曜の夜。Valentino 2022年秋冬クチュールコレクションのショーで、一度聞いたら忘れられない呪文がスペイン階段をくだり、広場全体に響き渡った。台座の上で見事なパフォーマンスを披露したのは、英国人歌手/プロデューサーのラビリンス(Labrinth)。脳内に直接響く音色、軽快なダンス、アコースティックバラードが、美しいシンフォニーを織り上げた。
クリエイティブディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリから依頼を受け、ラビリンスはオーケストラの編曲者アレックス・バラノフスキとともに本コレクションの音楽を手がけた。彼が同メゾンのサウンドトラックを担当するのは、今回が2回目だ。「以前も、僕のショーでラビリンスの音楽が聴けることをとても光栄に思いました。ミラノでのショーは格別なものになりました」とピエールパオロは語る。今回のショーの彼の声明は、新たな始まり──コレクションそのものの核となるコンセプト──を中心としていた。
「ラビリンスの音楽は非常にエモーショナルで、分類するのは難しいです」とピエールパオロはいう。「その両方の特徴が、彼の作品を、僕の耳と心に馴染み深いものにしているのです」。規範に基づく批判への拒絶は、メゾンの「評価することなく理解する」というマニフェストにも共鳴する。ラビリンスが手がけたドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』のサウンドトラックに言及し、ピエールパオロはオートチューン、ドリルミュージック、そして映画的な手腕で繋ぎ合わされた機知に富んだフックを通して、アイデンティティと成長というテーマを扱う彼の巧みな能力を指摘した。「ラブは音楽と共に、そして音楽を通して詩作をしています。それは希望の詩です。これこそが、今の僕たちに必要なものだと思います」
まさに、壮大な詩のようなショーだった。波打つトレーン、甘いピンク、花柄のフリルが階段を下ってラビリンスの音のタペストリーと一体となり、その行進はピエールパオロのウィニングランと2012年の楽曲「Beneath Your Beautiful」のライブバージョンで幕を閉じた。今回i-Dは、パフォーマンスの翌朝の彼に、FaceTimeでインタビューを敢行。タイトなスケジュールにもかかわらず、彼は意気揚々と、目を輝かせながら語ってくれた。

──昨夜はどんな気分でした? 今も余韻に浸っている?
マイクに向かって歩きながら、「これは大成功に違いない!」って感じだった。数週間前から、ずっと準備を進めてきた。もともとのアイデアは、オーケストラのアレンジを加えた、ファッション体験のためのサウンドトラックを作るというものだった。音楽が映画的な、サントラみたいな役割を果たすファッションショーは今まで見たことがない。昨夜のアフターパーティーで、いろんなひとがこんな曲をファッションショーで聴いたのは初めてだと言ってくれて、本当に嬉しかった。
──今回のサウンドトラック制作の出発点は?
何よりもまず、キャットウォークを歩くスピードと調和する音楽を意識した。ピエールパオロは優しい、愛のエネルギーを感じられる音楽を希望していた。ファッションショーでは、EDMやハウスなんかが好まれる。僕も大好きだからエレクトロニカやテクノの要素も取り入れたかったけど、同時に優しく、ロマンティックな方法でアプローチするにはどうすればいいかを考えた。
──最初のトラックに、「あらゆる美しいものが私に向かってくる。そして私はあらゆるものに立ち向かい、それを私の中でひとつにする」という歌詞があります。これは新曲からの引用ですか?
いや、それは実は妻のマズ(Muz)が書いたんだ。

──本当に?
ショーの数日前に、彼女に頼んで書いてもらった。彼女は、母親として、そして人として感じたことを、電話で友だちに話していた。自分が気づいたことや、進化や成長を恐れなくなったときに、自分の中に穏やかな気持ちを見出せた、ということをね。それを聞いて、ピエールパオロと僕が話していたことにすごく近いと思ったんだ。だから、マイクに向かってその思いについて説明してほしい、と頼んだ。ピエールパオロも気に入った。彼は以前「ロマンスが欲しい」と言っていたんだけど、妻こそが僕が考えるロマンスなんだ。彼女が(ふたりの子どもの)エーテルや成長について話していると、ピエールパオロと同じことを言うんだ。
──「Thunderclouds」や「All For Us」、カニエの「God Is」など、あなたのサウンドは作品によって全く異なります。どのように使い分けているんでしょうか?
メソッド演技みたいな感じだよ。僕にとって、ヒース・レジャーは偉大な存在だ。もしくはダニエル・デイ=ルイス。映画で彼を観ると、「一体どうやって完全な別人になったんだ?」と思う。音楽もそれと同じだと思ってる。ファンクミュージシャンになりたければ、YouTubeでファンクアーティストを見て、オーディエンスや彼らの服装を見る。そのアーティストのヴァイブスに合わせて曲を書くこともある。カニエとコラボしたときは、彼に独特のエネルギーを感じたから、それに合わせて曲を書いた。LSDのときは、クリエイティブだけど、あまりシリアスになり過ぎない3人のアーティストを見て、そういう雰囲気の曲ができた。
──ピエールパオロはValentinoの遺産を保ちながらも、ファッション業界に現代性と多様性の精神をもたらしていることに定評があります。それを音楽でどのように表現していますか?
特定の環境やシーンには、独自の慣習が生まれることがある。ファッションショーでどんなものを見るのか、僕たちは行く前から大体わかってる。誰かが背景でエレクトロニックミュージックとかEDMを流したり、奇妙な交響曲が流れたりする。それが少し『ズーランダー』的すぎるように思えたりもする。ピエールパオロみたいなひとの場合は、「よし、そんなものは考え直そう。人びとに理解されなくても、未来に目を向けて、さまざまな肌の色や体型のモデルに登場してもらおう」となるんだ。僕自身も音楽に対して同じことを思ってる。

──『ユーフォリア』からビヨンセの『The Lion King: The Gift』、ナンバーワンソングまで、あなたの作品はとても幅広いですね。ファッションに興味を持ったきっかけは?
それも僕が何かを見出すひとつの手段に過ぎない。昨夜のコレクションもそうだけど、僕はいろんなものから音楽が聴こえるんだ。変に思われるかもしれないけど、木を見ても曲が聴こえるし、水を見ても完成したひとつの音楽が聴こえてくる。
──今回の楽曲を制作する前に、コレクションを見たことはありましたか?
いや、ピエールパオロの指示に従って作っただけ。1曲めでモデルたちがおりていくのを見て、マジで歌ってる途中で止まりそうになったんだ。「うわ、めちゃくちゃクールだな!」って思って。でもすぐに「おい、お前は今歌ってるんだぞ、歌詞を忘れるな」って言い聞かせた。
──あなたの作品がショー全体の一部になっているのは素晴らしかったです。
そうだね、僕はリアルタイムでそれを実感したよ。

Credits
All images courtesy of Valentino.