〈バズ狙い〉が音楽業界を苦しめる理由

人気ポップスターがレコード会社を批判したTikTokは、2022年の音楽業界の実態を物語っている。

by Lucy Harbron; translated by Nozomi Otaki
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20 July 2022, 3:00am

Imagery via TikTok

今年5月の第4週は、音楽業界で働くSNSマネージャーにとって実に恐ろしい1週間だった。ホールジー(Halsey)がTikTokでレコード会社がバズるまで新曲をリリースさせてくれないと明かしたあと、TikTokがいかに音楽業界のマーケティングを独占しているかについて、ネット上で議論が白熱。同じくバズったこのツイートからもわかるように、フローレンス・ウェルチ、FKA ツイッグス(FKA Twigs)、 チャーリーXCX(CHARLI XCX)も同様の不満を訴えている。TikTokビデオを要求するレコード会社についてのキャプションには、会社の重役たちが女性ポップシンガーに馬鹿げた曲とダンスをパフォーマンスさせるため彼女たちの弱みを握っている実態が綴られている。その結果、ちょっとした騒動が巻き起こったが、チャーリーの「私は違う。ふざけて嘘をついただけ」というツイートで終結した。このキャプション自体がメタ的な〈バズ狙い〉だったと推測すれば(いわばマーケティングを食い物にするマーケティング)、業界の実態が私たちの想像以上に悪いということになるのだろうか?

この奇妙でわざとらしい無関心さは、インターネットに分断を招いた。長年ネットから距離を置いているフローレンス・ウェルチが突然歌のビデオを投稿するとしたら、レコード会社がそれを利用しない手立てはない。アーティストのスタイルに合わないことを理解していても、新たなマーケティングプランにTikTokを組み込むはずだ。すると、私のようなSNSマネージャーが、アーティストがトレンド入りしたハッシュタグや新しい曲をどのように活用できるか企画書を書き、どこかのオフィスからそれを投稿する。このようなプロセス全体が〈全員がTikTokをやるべき〉か〈TikTokが音楽業界を崩壊させている〉かに意見を二分し、SNSで暴露してレコード会社のデジタルチームと衝突するリスクを冒すかどうかは、アーティスト自身に委ねられた。

「自分はレコード会社の要求以上にTikTokを作っている気がします」と語るのは、「Soft Spot」が同アプリで10万回再生を突破したあとEMIと契約したPiri & Tommyのピリ(Piri)だ。SNSで人生が一変することは、自分自身が個人的に楽しんでいるか否かに関わらず、投稿を続ける大きな動機になる。ピリは今、1日平均2本のビデオを投稿しているが、トミー(Tommy)はもっと消極的で、月に2、3本しかビデオをあげていないという。「All I Ever Asked」や「So My Darling」などバイラルヒットを連発したレイチェル・チノウリリ(Rachel Chinouriri)も、彼女に同意する。「TikTokは自分の好きに使いたいと申し出たアプリのひとつですが、レコード会社がときどき引き合いに出したり、ハッシュタグを教えたり、トレンドについて打診してきたりすることもあります。でも、ほとんどは私に一任してくれます」。レイチェルにとっては、バズるチャンスがこのアプリの唯一のメリットだ。彼女は自身のアカウントを新たなフィンスタ(finsta:インスタグラムの裏アカウント)とみなしている。つまり個性を最優先し、音楽は二の次にしている。「自然体な自分としてプラットフォームをつくることができました。私としてはそのほうがいいです」と彼女はいう。しかし、拡大し続ける成功やファン層がまるでたった数日の休暇で消えてしまうかのように、彼女は「勢いを失う」ことへの不安からビデオ投稿をなかなか休めないと語る。その負の部分は決して看過できない。

アプリ利用者の大半を占める15〜25歳の若年層にあたるピリとレイチェルは、まさに自分が自分のターゲットオーディエンスといえる。いっぽう、Self Esteemとして活動するレベッカ・ルーシー・テイラーは、デジタルチームがラジオ局BBC Radio 6 Musicに対して同様の主流な超デジタル戦略をとろうとするなか、投稿のプレッシャーに苦しんでいるという。「今までもずっと感じていたし、次のアルバムのときも流行に遅れを取らないようにとプレッシャーを感じるはずです。でも、なぜ流行は若さに結びつけられているのでしょう? TikTokはそれを武器にしているように感じます。若さが至高であるかのように、ずっと若さに固執し続けているのです」。すべてのアーティストが「子どもたち」と同じことをするよう強要されるなか、非常に若いオーディエンスを擁するこのアプリへの執着が年齢差別へと傾いている現状に対するレベッカの不満は、もはや〈レコード会社はクソ〉という表面的な感情にとどまらず、より複雑な議論に発展しつつある。なぜレコード会社はこれほどまでに徹底的に全てのアーティストに同じ戦略を適用し、独自の作品、ファンベース、ブランドを擁する才能あるミュージシャンとしてではなく、SNSの商品や特的の市場に向けた有名人として売り込もうとするのだろう。

「私にとって一番の問題は、(TikTokの内容を) 個人的なものにしなければならないことです。今までは何もしなくてもよかった自分の一部を、突然売り込まなければならなくなったんです」とレベッカは訴える。「それがTikTok的に〈成功〉しなければ、『ああ、私のこの部分はイマイチなんだ』とショックを受けることになります。ありのままの自分を切り売りしていいはずがない。音楽、商品、ライブ、パフォーマンスで勝負するべきしょう……(中略)でも、今はそういうものは重視されないんです。それが自尊心に与える打撃にもっと目を向けるべきです」

レイチェルとピリはどちらもTikTok肯定派だが、その悪影響も実感している。「アーティストとして、あらゆるプラットフォームが自分を売り込むためだけのものになっています。承認を求めて不安定になり、なかにはタチの悪いひともいるので、すごく人目を気にするようになります」とレイチェルは打ち明ける。悪意のあるコメントは、ピリにとっても決して目新しいものではなく、自身の男性のパートナーと比べて嫌がらせを受けやすいと語る。「半分の投稿は嫌がらせを受けます。同じような内容を男性が投稿したとしたら、トミーですら、私に比べて圧倒的に好意的な反応をもらうことが多いです」。個人的なコンテンツに重きを置くことの影の側面に注目すると、女性が自信を持つことを〈目障り〉とみなす人びとの長年の問題が顕在化する。「女性は存在するだけでヘイトを向けられます」とピリは続ける。「曲を宣伝するためにビデオを何本か投稿すると、『君は曲を台無しにした。もう二度と聴かない』などと言ってくるひともいます」

これこそが、Twitterでの議論で見落とされている点だ。よりアクセスしやすく、よりデジタルに、そして曲を宣伝するために裏側の生活をもっと公開するべきというアーティストへのプレッシャーが増すにつれ──レコード会社がそれを強要しているにしろ、そうでないにしろ──不安に満ちた領域へと足を踏み入れることになる。このプレッシャーは、女性に特に顕著に現れる。自分を売り込むために投稿数を増やしながらも、女性は自信満々になり過ぎない程度に魅力的で、目障りにならない程度に面白くあるべきだとする社会の需要を満たさなければならない、という諸刃の剣だ。業界のトップはTikTokの力を吹聴し続けながらも、アーティストにかかる余計な負担を背負うためのサポートや基盤を提供していない、もしくはプライベートを守ると謳いながらももっとオープンに、自分をさらけ出すように要求しているところがほとんどだ。全てはアーティストのファンの再生回数を稼ぐために。

集中力の持続時間が減り続け、世論が一瞬で移り変わるデジタル空間において、アーティストのキャリアをこれほど薄っぺらいものに賭けることは、果たして本当に有益なのだろうか。アーティストを一口サイズのキャッチーな映像に要約するショートビデオを活用したがる風潮は、芸術的な成長にも希望をもたらさない。「私の曲のどれかがTikTokでバズって突然オーディエンスが倍になったとして、それはそんなに素晴らしいことに思えるでしょうか」とレベッカは語る。「その達成感はどれくらいリアルなものなんでしょう。その影響力は、私自身が受け入れがたい方向性へとアルバムを変えるくらい長続きするんでしょうか」。オンラインの見知らぬ人びとの意見に、他人のキャリアに多大な影響をもたらす力を与え、芸術的価値の枠を超えた要素をより重視することで、私たちはミュージシャンを尊敬されるアーティストから、大衆の気まぐれに左右されるポップカルチャーのセレブへと変えてしまっているのだ。

「この問題はどうすれば解決できるでしょうか?」とレベッカは問いかける。「(TikTokは)活用できれば素晴らしいツールですが、長期的に見ればその損害は計り知れません」。TikTokから莫大な利益を得ていて、投稿への過剰な要求になんの不安も感じていないアーティストにとっても、このアプリの影響力はスタジオから役員室、SNSまであらゆる場所を席巻している。新人アーティストが一夜にしてヒットチャートを独占すれば、レコード会社は(実際は違うのに)こんなに簡単なことなのか、と思い込み、全てのアーティスト──その多くはTikTokの登場以前にキャリアを築いた人びと──に同様のバズでの成功を期待する。このようなプレッシャーの犠牲になるのが、個人の私生活と自尊心だ。「昔はタバコは体に悪くないと思われていたのと同じです」とレベッカはいう。「今の状況はその音楽版で、私たちアーティストが60代や70代になれば、重度の根深い〈副作用〉に悩まされることになるでしょう」

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