Instagram (@thedazzleclub)

メイクで監視社会に抵抗するアート集団〈The Dazzle Club〉:ポイントは顔を“分断”すること

北京に次いで監視レベル世界第2位の都市・ロンドン。およそ42万台のカメラが800万人の住民の日常生活を日夜監視している。そんな中、アーティスト集団〈The Dazzle Club〉は顔認証システム反対を訴えるパフォーマンスを繰り広げている。

by Moya Lothian-McLean; translated by Nozomi Otaki
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10 March 2020, 6:00am

Instagram (@thedazzleclub)

今年1月16日の夕方、ロンドンのグリニッジ地区を通りかかったひとは奇妙な光景に出くわしたかもしれない。顔に鮮やかな模様を描いた10人ほどのグループが、ひと言も発さずに雨に濡れた通りを進み、小ぎれいな家が立ち並ぶ新興住宅地や、何もない再開発地区を通り抜けていく姿を。

これはロンドンのINSANE CLOWN POSSEファンの集いではない。アーティスト集団〈The Dazzle Club(ダズル・クラブ)〉の月一度の活動だ。このグループのメンバーたちは、顔認証システム反対を訴えてフェイスペイントを施し、現代のパブリックスペースにおける監視への意識を高めるべくサイレントウォーキングを行なっている。今回、私も彼らの活動に参加させてもらった。

The Dazzle Clubは比較的新しいプロジェクトだが、アート、政治、アクティビズムを巧みに融合して感情に訴えることで、すでに大きな注目を集めている。

創設メンバーは、エミリー・ロデリック、ジョージーナ・ローランズ、アンナ・ハート、イーヴィ・プライスの4名。エミリーとジョージーナは、デュオ〈Yoke Collective〉として監視社会やサイバーフェミニズムをテーマに掲げ、パフォーマンス主体の活動やキュレーションに取り組んでいる。

いっぽうアンナとイーヴィは、より大規模なアーティスト集団〈Air〉のメンバーで、日常生活における人間存在のありようや「公共」の意味を模索している。この2つのグループが連携し、The Dazzle Clubを立ち上げた。

The Dazzle Clubが発足したきっかけは、2019年8月にロンドン市長のサディク・カーンがデベロッパー〈Argent〉に宛てて送った、キングス・クロス地区における顔認証技術の利用に疑問を呈する手紙だった。

「ジョージーナが最高のアイデアを思いついたんです」とアンナはThe Dazzle Clubの起源を振り返る。「カーン市長がArgentに書いた手紙を読みました。私は10年近くキングス・クロスで働いているので、すごく興味があって。手紙の内容をすぐにジーナに送って、これどう思う?って訊いたんです。そしたらすぐに『あなたたちがやってるサイレントウォークが好きなんだけど、〈サイレントDazzleウォーク〉をやるのはどう?』って返事が来ました」

団体の名前の由来は、顔を識別されないためのメイク〈CVダズル〉。アーティストのアダム・ハーヴェイが2010年に発表した、カモフラージュメイクの一種だ。ハーヴェイのルックブックのCVダズルは、単なるメイクに留まらない。モデルたちの髪は、顔から注意をそらすかのように様々な形に成型され、塗料の代わりにボディジュエリーを身に付けているモデルもいる。

しかし、The Dazzle Clubは、より実用的なペイントを中心としたメイクを採用している。彼らいわくダズリング(=目くらまし)のコツは、顔を〈分断〉することだ。

「顔の出っ張っている部分や影になる部分を曖昧にするんです」とジョージーナは説明する。「カメラは私たちの顔をピクセル単位で映し出します。鼻筋やおでこ、頬骨、口やあごまでくっきりと。だから、顔を平たく見せてわかりづらくしないと」

顔を認識しづらくするもっとも効果的な方法は、顔、口、鼻の上に、顔を左右対称に分ける太い線を引くことだ。そうすることで、顔認証ソフトウェアが私たちの顔のピースをつなぎ合わせ、ひとつの顔を完成させるのを防ぐことができる。

ただ、この目くらましは完璧なわけではない。サイレントウォークが始まる前にさっと試してみたところ、私の新しいスマホは何の問題もなく、私の顔にInstagramの〈BABES〉フィルターを施した。

しかし、The Dazzle Clubの狙いは監視技術を欺くことではない。彼らの目的は、アートを通して、民間企業と国の両方が目を光らせるなか、そもそも監視行為そのものが当たり前になっていることに疑問を呈し、そして21世紀という時代において変わりつつある、パブリックスペースに身を置き、移動することの意味を問うことだ。

ロンドンの監視レベルは、北京に次ぐ世界第2位だ。推定42万台の監視カメラが約800万人の住民の日常生活を見張っており、どういうわけかそれが当たり前になっている。

私はThe Dazzle Clubの1月のサイレントウォークの準備に加わり、イーヴィにメイクの手順を教えてもらった。彼女によれば「筆跡」のように、それぞれのアーティストに独自のスタイルがあるのだという。

私の顔には、赤、黒、オレンジのブロックでモザイク模様を描いてもらった。イーヴィ自身の顔には、原色の四角や線が描かれていた。どことなく見覚えのある模様だったが、その後パブにいた男性が彼女を「モンドリアン」と呼んだとき、ようやく既視感の理由がわかった。

メイクが終わると、彼らは午後6時半から始まる1時間のウォーキングのため、街へと繰り出した。クラブメンバー、ゲストアーティスト、その他の参加者たちが、完璧な沈黙を保ったままロンドン中心部を練り歩く。

これは決して適当な散策ではない。2019年8月以来、The Dazzle Clubは、英国のなかでも特に監視レベルの高い地域でウォーキングを開催してきた。ウォーキングには毎回完璧な振り付けが当てられるため、準備には最長で1週間かかり、毎月違うクラブメンバーやゲストアーティストが指導にあたる。

しかし、アンナも指摘したように、彼らがカメラや監視システムのそばを通り過ぎるのに、あえて振り付けをつくる必要はない。監視システムは至るところにあるため、逃れようとしても逃れられないのだ。

アンナはウォーキングの振り付けをするさい、その場所の景色の「対照的な要素」に注目するという。例えば、彼女が指揮をとったサザーク地区の裏通りでのウォーキングは、住宅の小さな戸口の低い位置に取り付けられた数多のカメラから始まり、バンク・オブ・アメリカやセント・ポール大聖堂など、権威ある大きな施設の階段で終わる。

また、イーヴィ主導で行なったキングス・クロスでのウォーキングで、彼女は最後に、一般公開していた映像のライブ配信をグラナリー・スクエアで中断した(この広場の様子は、設置されたカメラを通していつでもリアルタイムで閲覧できる)。

ジョージーナが再開発が進む私有地カナリー・ワーフでのウォーキングを計画したきっかけは、ある男性が同地域のチェーンスーパーTESCOで万引きをしたと誤解されたために、半年間カナリー・ワーフ一帯のすべての系列店への出入りを禁止されたというニュース記事だった。

「この男性はセルフレジで何かをスキャンするのを忘れてしまったせいで、この地域から強制的に追い出され、立ち入りも禁止されたんです」と彼女は呆れたように語った。「彼の職場はこの地域にあるので、毎日カナリー・ワーフに出入りしなければいけないんですが、彼はそれ以外のエリアに入れなくなってしまったんです。ここは私有地なので」

dazzle club

ウォーキングに参加してみて、The Dazzle Clubの活動の狙いを少しだけ実感することができた。ダズルメイクを施して通りへと踏み出せば、カメラを意識せざるをえないし、いったい誰が狭苦しい部屋で自分が街を歩き回る様子を監視しているのだろうか、と考えずにはいられない。

同時に、ウォーキングを通して、ロンドンの本当の意味での〈パブリック〉な場所が急激に減りつつあることにも気付かされた。グリニッジを回るあいだ、私たちは〈偽のパブリックスペース〉を何度も通り過ぎた。これらの場所は一見すると公共の場のようだが、実際は民間所有者の土地だ(グラナリー・スクエアやバンクサイドなど、これらの土地は〈Privately Owned Public Space(私有の公共空間)〉を略してPOPSと呼ばれている)。

標識が立っている場所もあるが、大抵の場合は、私たちは無意識のうちに、所有者が定める規則の対象となっている土地に足を踏み入れている。彼らにはその規則を公表する義務はなく、いつでも任意で変更できる。

ロンドンの監視レベルは、北京に次いで世界第2位だ。推定42万台の監視カメラが約800万人の住民の日常生活を見張っており、どういうわけかそれが当たり前になっている。しかし、民間企業と国の両方がすでに街全体を見張っている監視技術のさらなる強化を目指すなか、近年さまざまな問題が指摘されている。

問題が明らかになったのは今年1月下旬、ロンドン警視庁が犯罪防止のため、街全体にリアルタイムの顔認証システムを本格導入すると発表したときだ(欧州委員会は乱用の危険があるとして、当面のあいだ同システムの使用禁止を検討している)。

人権保護団体は、すぐにこの技術の不正確さなどの問題点を指摘して怒りをあらわにした。もっとも憂慮すべきは、白人以外の顔を誤認識する可能性が非常に高いという、システムに組み込まれている人種バイアスだ。

マサチューセッツ工科大学が発表したある研究では、顔認証ソフトウェアの誤認識の確率は、明るい肌色の男性が0.8%なのに対し、暗い色の肌の女性の場合は34%に跳ね上がる。第三者機関の報告によれば、ロンドン警視庁独自の顔認証システムは誤認識の確率は81%にのぼる。

これらの懸念点に加え、顔認証システムの普及は基本的なプライバシーの権利を侵害し、あらゆる個人が常に監視下に置かれる〈デジタル全展望監視システム(digital panopticon)〉をつくりだすことになるのでは、という不安も引き起こす。

The Dazzle Clubは、自らの活動が国家との熾烈な闘いに繋がりかねないということをよく理解している。カナリー・ワーフでのウォーキング中にも、メンバーたちは何度も警備員に止められ、質問を浴びせられていた。今後のウォーキングでも同様のことが起きると想定し、彼らは今、チームに常駐の法務アドバイザーを迎えることを検討している。

次回のコラボレーター候補も、物議をかもすトピックを扱うアートに参加することで在留資格に影響が及ぶのではないかと不安に思い、グループの活動に匿名で参加することを希望しているという。The Dazzle Clubは、彼らのように、監視技術にアートで対抗することで脅威に晒される危険性の高いひとびとの声を取り入れたいと考えている。

「このテーマにおいて、“白人以外”のアーティストとコラボするのはとても重要です」とアンナは主張する。「でも、活動を広げる前に、まず必要なのは資金です」

彼らは資金調達の方法を探りながら月一度のウォーキングを続け、彼らなりにプロジェクトを発展させていく予定だ。彼らは、ウォーキングは小規模に留めようとしているが(参加者について「10人が活動するのにいちばんちょうどいい人数なんです」とアンナ)、メディアの注目が集まれば参加者が増えることも想定し、チケットシステムの導入も考えている。

また、ロンドン地下鉄でのパフォーマンスも検討しているという。それでも活動の中心は、フェイスペイントを施して行なう1時間のウォーキングだ。

「私たちの活動はまだ始まったばかりです」とアンナは最後に述べた。「これがどんな未来に繋がるのかはまだわかりません。でも、私たちは自分たちのために、それを模索するための場所をつくったんです」

The Dazzle Clubは毎月第三木曜日にミーティングを行なっている。次回のウォーキングは3月19日に開催予定。

This article originally appeared on i-D UK.

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