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      film Sogo Hiraiwa 8 December, 2016

      『アズミ・ハルコは行方不明』:松居大悟監督インタビュー

      地方都市に充満する閉塞感と若者の漲るエネルギーをめくるめく映像表現で描いた『アズミ・ハルコは行方不明』。ポップアートでもあると同時に現代社会への痛烈な批判にもなっている次世代“青春映画”の傑作がここに誕生した。

      『アズミ・ハルコは行方不明』:松居大悟監督インタビュー 『アズミ・ハルコは行方不明』:松居大悟監督インタビュー 『アズミ・ハルコは行方不明』:松居大悟監督インタビュー

      突如、街中に拡散される女の顔のグラフィティ・アート。無差別で男たちをボコる女子高生のギャング団。OL安曇春子(28歳)の失踪をきっかけに交差していく物語。地方に暮らす「アラサー」「ハタチ」「高校生」の三世代の女性たちの生き方を克明に描いた山内マリコ同名原作小説を『アフロ田中』(12)や『私たちのハァハァ』(15)などの松居大悟監督が映画化。蒼井優、高畑充希、太賀ら実力派の俳優陣に加え、音楽は環ROY、劇中アニメーションをひらのりょうが手掛けるなど、若き才能たちが結集した。「各ジャンルの異端児たち」と「映画らしくない映画」を作りたかったと話す松居大悟監督に共作していくことの楽しさ、学生時代に過ごした田舎の匂い、映画におけるSNS表現について話を訊いた。

      『アズミ・ハルコは行方不明』を映画化しようと思った理由を教えてください。
      3年前にプロデューサーの枝見(洋子)さんと出会って意気投合し「何か一緒にやりたいね」と言っていて、だけど何がいいんだろうと考えていました。そのときちょうど、山内マリコさんの『アズミ・ハルコは行方不明』が出版されて。当時、枝見さんも僕も主人公の安曇春子と同じ28歳でいっきに気持ちが盛り上がって決めました。もともと山内さんの小説は好きだったし、この作品がすごく映像的だなって。

      例えばどんなところですか?
      春子は行方不明になるのに、彼女のイメージはどんどん拡散されていきますよね。それを映像で見せたらもっとワクワクするし、グラフィティが広がっていくのも見たいなと思いました。春子が行方不明になる場面も視覚的に消えるほうがスリリングですし。

      女性が書いた原作を映画化するにあたって難しかったことや気を使ったことはありましたか?
      これまでにも何度か、若い女性が登場する映画を撮っているんですが、そのときに自分では分かる訳ないのに、その女の子のキャラクターに同化して作ったことがあったんです。そこでたどり着いた場所がすごく面白くて。だから今回も抵抗や不安はありませんでした。むしろ、枝見さんや主演の蒼井優さん、制作に関わった人に同年代の女性がいたのが心強かったです。それぞれが思っていることを言いあって作品に反映されていくのが面白かったんですよね。このチームで一緒に走りたいという気持ちは強かったです。

      台本段階や撮影現場で女性陣からのアドバイスはありましたか?
      アドバイスというか……ダメ出し(笑)。台本段階での打ち合わせはあるんですけど、そのときの熱量がすごいんですよ。「もっと女性はこうだから」っていう確信がすごくて。僕はそれを跳ね返すようなこともせず、「おお、そうかも」ってその熱量に乗っていきました。そういうやりとりは台本、撮影、編集すべての段階でありましたね。

      以前から周りの人と一緒に作品を作り上げていくスタイルだったんですか?
      いや、本当に最近ですね。それと今回は特にそういうやり方をしたというのもあります。劇団や初期の"モテない男"の映画を撮っていたときは自分があれこれ決めて、みんなに合わせてもらうような作り方をしていました。だけど、あるときからそのやり方に疲れてしまって。

      それはどうしてですか?
      自分が目指しているものを作って、それを見てもらい、感想を言われるっていう表現活動の一連に行き止まりを感じました。そのときに一方的に好きだったことをきっかけに、クリープハイプのミュージックビデオを作ったんですよ。彼らが歌っているのは女性の心情だから、こっちが合わせていくしかなかった。だけど、それがすごく面白くて。そのMVを見た人の反応もそれまでとは全然違いました。心から分かりあえる人と共作するって面白いなって思ったのはそのときからですね。

      その感覚が今作の制作にも活かされているわけですね。
      そうです。でも、やっぱり企画の始まりの頃は"監督が決めないんですか感"はすごくあるんですよ。指示がないとみんな走り出せないし、不安になるから。そうすることもできるけれど、それで決めてしまうのがイヤだから言わないようにしていました。みんなが自発的に意思を持ち始めるのが好きなので。

      劇中で描かれる地方がリアルでした。同級生がドラッグストア、レンタルビデオ店、コンビニで働いていたり、春子の家は三世代が一つ屋根で暮らしていたり。監督はどんなところで育ちましたか?
      出身は福岡市です。実家は九州で一番栄えている街にあるんですけど、中高は田舎にある学校に1時間半かけて通っていました。僕の思春期はそこにあります。商店街にはシャッターが降りていて、学校は声がデカいやつが勝ちみたいな。カツアゲされてました(笑)。

      ええ! カツアゲされる側ですか?
      された側(笑)。山内さんの『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』を読んだときに、その当時の"匂い"をめっちゃ感じたんですよ。映画でもその"匂い"は絶対に感じてほしいと思って——原作を読んだときの匂いを観た人が感じられるようには意識して作りました。

      地方における車社会のリアリティも感じました。
      親の車でばあちゃんの家に行くとき、僕ずっとダッシュボードを見ていて。絶対みんな前を見てないでしょう(笑)。目線はそんなに上じゃないだろうと。

      固有名詞の小物にもこだわっていますよね。
      そうそう。スィートブールは安いのに大きくてお腹ふくれるからよく買ってました。使いたいけど使えなかったものも結構ありました。曽我(石崎ひゅーい)が飲むピルクルも本当はリプトンにしたかったんですよ。僕がずっと500mlのミルクティを飲んでたから。

      原作と違って、映画では時系列をシャッフルした構成になっていました。あれはどういう意図で?
      この映画を春子と愛菜(高畑充希)の物語にしたいと思ったんです。2人は年齢こそ違うけど、同じ小さな町に暮らしていて、恋人に捨てられたり、理想に近づけなくて苦しむ。あの小さな町では消えたいと思っても、どこにでも知り合いがいるし、消えられない。そうなったときに、春子のセリフにもある「消えて生きる」ってことがいいなあと。「どう行方不明になるか」じゃなくて「行方不明を通してどう生きるか」を描きたかったから、時系列をシャッフルしました。

      時系列通りにしたら春子(蒼井優)がすぐにいなくなってしまいますよね。
      そうそう。そうしたら「アズミ・ハルコは行方不明」みたいな映画になっちゃうじゃないですか(笑)。タイトル通りの映画にはしたくなかった。

      ©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会

      『Variety』誌では「女性たちが搾取され、服従されているミソジニックな社会に対するプロテスト映画だ」というレビューもありました。この映画はフェミニズムの文脈でも語られそうですよね。
      うーん、どうですかね。僕はどっちでもないというか、ニュートラルなので。原作が持っているフェミニズムの要素は強いので、むしろ僕があんまりそっちにいかないようにはしていましたね。僕が男だし。女性に限定することなく、人間讃歌にしたほうがいいなとは思いました。

      画面にSNSのタイムラインが流れる表現が印象的でした。前作『私たちのハァハァ』でもSNSの表現がありますよね。
      ごく自然に使っていますけどね。今の時代を描いていて、ない方がヘンだろうと。邦画を観ていても、現代が舞台だとそれは気になります。

      監督とプロデューサーが若いというのはこの作品にとってすごく幸福なことだなと思いました。
      でもだからこそ、クランイン前は大変で。直前になって年長者が離れていって制作が頓挫しそうになりました。でもその分、熱い人が集まってきてくれて、なんとか制作できるようになりました。みんな30歳前後で若手じゃないけど、立場もそんなに上じゃない。だからこそ気持ちがすごく大事だった。気持ちで補填してなんとかギリギリできたって感じです(笑)。

      音楽は環ROYさん、アニメーションはひらのりょうさんと出演者以外も豪華な顔ぶれですよね。先ほどの『Variety』誌には「ひらのりょうのアニメーションは、マンガ表現の伝統において長らくフェティッシュや性の対象にされてきた"日本の女子高生像"を転覆させる試みのようでもあった」と書かれていました。
      ふたりは単純に好きだったんです。環さんはラッパーなのに全然ヒップホップっぽくないし、ひらのさんの作品は日本のアニメっぽくないじゃないですか。この映画も、"映画らしい映画"にはしたくないなって思っていたので、各ジャンルの異端児たちと作れたら面白いなと。

      「劇伴音楽:環ROY」ってすごいですよね。
      オファーしたとき「おれラッパーで、歌ってる曲も自分で作ってないよ。トラックメイカーは別にいるから」って言われて(笑)。知ってたけどお願いして、今回は本人にトラックを作ってもらいました。

      ラストシーンとその直前のシーンとの緩急のつけ方がとても印象的でした。最初からあの流れだったのでしょうか?
      ラストは変えました。編集する段になって、編集の女性に「ラストはこれじゃないほうがいいと思う」と言われて揉めました(笑)。こっちは脚本段階から1年以上かけて考え抜いた上で撮影もしているし、ありえないって。だけど、彼女の言う通りにしてみたらすごく良くて「これをラストにしよう」と決めました。

      やっぱり松居監督は周りの意見に耳を傾けるんですね。
      単純にそうしたほうが面白くなったんですよ。

      i-D読者に一言。
      自分のLINEの一番多いグループチャットに「『アズミ・ハルコ』観にいこう」って投稿してください(笑)。

      アズミ・ハルコは行方不明
      12/3(土)より、新宿武蔵野館ほかロードショー
      配給:ファントム・フィルム

      Credits

      Text Sogo Hiraiwa
      Photography Yoko Kusano

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      Topics:film, culture, japanese girls never die, haruko azumi is missing, daigo matsui, yu aoi, mitsuki takahata, ryo kase, mariko yamauchi, ryo hirano, roy tamaki, huwie ishizaki, taiga

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