「自分を笑えるようにならなくちゃいけない」ゾーイ・クラヴィッツが『ハイ・フィデリティ』に持ち込んだ、彼女の人生スタンス

女優、ミュージシャン、モデルと多方面で活躍するゾーイをガス・ヴァン・サントが撮影。『ビッグ・リトル・ライズ』や主演を務めた『ハイ・フィデリティ』の想い出を語ってくれた。

by Jess Cole; photos by Gus Van Sant; translated by Nozomi Otaki
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25 September 2019, 9:32am

仕事と文化は、人間の体験の基礎である。私たちは働くことで人生に目的を持たせ、文化を通じて重荷を下ろし、生きていることを実感する。しかし、常に斬新さが求められる世界で、ゾーイ・クラヴィッツはいかに自分のペースを保っているのだろう。

「時には一歩後ろに下がって、私たちは今いる場所にずっと留まるわけじゃない、ということを思い出すことも必要」と彼女は語り始めた。「もし私たちが仕事のことしか考えなければ、大事なものを見落としてしまう」

ゾーイは健全な創作活動のために、ゆとりを持ち、人生を満喫することを大切にしている。心を落ち着けて生きることは、私たちの自己、他者、文化との関係への理解を深めるうえで必要不可欠なのだ。

しかし、彼女が忙しい毎日を送っているのも事実だ。演技の仕事以外にも、Yves Saint Laurent Beautéのアンバサダー、モデル、歌手、脚本家、プロデューサーとして幅広く活動している。これまでに出演した映画は28本。つい先日、HBOのエミー受賞ドラマ『ビッグ・リトル・ライズ』シーズン2の撮影を終えたばかりだ。

それでも、ゾーイのエネルギーは健全さを失わない。彼女はブルックリンの質素なアパートで暮らし、ポーカーフェイスでジョークを飛ばし、Instagramにはウィットに富んだ投稿をして、両親への愛を公に宣言している。

今年6月には、パリにある父レニーの家で俳優のカール・グルスマンと結婚式を挙げた。

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Zoë wears all clothing Gucci resort 2019. Bandana stylist’s studio. Earrings (worn throughout) model’s own.

私たちがゾーイにインタビューしたのは、彼女の最新作の撮影の休憩時間だった。1995年のニック・ホーンビィの小説『ハイ・フィデリティ』を原作とするドラマシリーズで、彼女は主役を演じる。原作の主人公は男性だが、ドラマ版では女性に変更されている。

名前こそロブからロビンになったが、30代半ばのレコード店オーナーで、ポップカルチャーとポップミュージックにどっぷり浸かっていて、現実から目を背けがちなところは同じだ。まさに今の時代にぴったりな作品になるだろう。

本シリーズは、このデジタル時代に欠かすことのできない文化と人間関係の交差を描くに違いない。現代の私たちが住んでいるのは、アルゴリズムと、それらが創り出す文化が無限に反響し続ける空間。コンピューターが観るべき映画、聴くべき音楽、付き合うべき友人をキュレーションする時代だ。

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Jumper and trousers Vetements. T-shirt vintage from What Goes Around Comes Around NY. Necklace model’s own.

ロブは、半ば強迫的にあらゆるもののトップ5リストを作成することで、混沌とした世界に秩序をもたらそうとする。私たちの文化の消費の仕方は、本作が執筆された90年代半ばから劇的に変化したが、ロブの習慣は、私たちがポップカルチャーを自らの現実感の証拠として用いていることを強く想起させる(ちなみに、ゾーイによる〈今の時代を象徴する曲トップ4〉は、ニーナ・シモンの「22nd Century」、ウィリアム・オニーバーの「Atomic Bomb」、アイク&ティナ・ターナーの「Workin’ Together」、デヴィッド・ボウイの「It Ain’t Easy」だそう)。

「アートと音楽は、私たちの親友になる」とゾーイ。「でも、閉鎖的な考えにも陥りがち。私にはこの音楽しかない、このアートしかない、って」

「私たちは自分を笑えるようにならなくちゃ」とゾーイはいう。「生きるということ自体の皮肉さに、もっと時間をかけて向き合うべきだと思う」

これは、彼女が初めて製作総指揮を務める『ハイ・フィデリティ』の脚本執筆プロセスに持ちこもうとしている考えのひとつだ。ジョン・キューザックが主演を務め、ゾーイの母リサ・ボネットと共演した2000年の映画版は、舞台を原作のロンドンからシカゴに移し、それでいて米国のブラック・ミュージックへの言及をすべて削除してしまった。しかも、シカゴが舞台にもかかわらず、現地のハウス、テクノシーンに関する文化的レファレンスが一切含まれない。ポップカルチャーへのノスタルジーには、オリジナルへの目配せや引用する物語の信ぴょう性が欠かせないということに、改めて気づかされる。

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Jacket Prada resort 2019.

今回のドラマ版はニューヨークを舞台に、中心となる女性たちの共同の取り組みを通じて、映画版よりもはるかに多様性に満ちた現実を描く。「協働と譲歩は、それ自体がアートなの」とゾーイ。「とても難しいことだけど、大切なのは調和を見出し、引き下がるべきタイミングと、自分が闘う価値があると思う何かのために闘うべきときを見極めること」

結局のところ、文化は私たちと世界との関わりだ。異なる視点を表現し、今とは違うの現在、あり得るかもしれない未来を探る手段なのだ。文化の力をゾーイほどユニークなかたちで体験したひとは数少ないだろう。父はロックミュージシャンのレニー・クラヴィッツ、母は女優のリサ・ボネット。あまり知られていないが、彼女の祖母のロキシー・ローカーは、1970年代のシットコム『The Jeffersons』で、ヘレン・ウィリスという、米国のテレビ番組史上初めて国際結婚している役を演じた女優だ。

「私の家族はみんな愛に満ちている」とゾーイは打ち明ける。「子どもの頃は、どんなひとになりたいのか、どんなアートを創りたいのか、っていつも訊かれていた」

ゾーイはこの10年間、その〈アート〉を通じて、映画における女性像、そして有色人種の女性像にまつわる新たな文化的な語り口を切り拓いてきた。両親の知名度があっても、決して簡単な道のりではなかった。ちなみに、昨年の興行収益ランキングのトップ100入りした映画のなかで、台詞のある黒人キャラクターは、全体のわずか2.5%だ。

「私は自分の直感に従ってる」とゾーイはいう。「でも、誠実に思えない物語にははっきりノーと言うことにしてる。そういう女性を演じたくない、とか、そんなふうに有色人種の女性を描いてほしくない、と感じたときはね」

スクリーンで女性の誠実な視点を表現したいという彼女の想いは、ゾーイが2007年、『幸せのレシピ』で長編映画デビューを果たして以来、徐々にバラエティ豊かな大役へと発展していった。インディ映画『Yelling to the Sky』(日本未公開)のいじめに遭うティーンエイジャー、スウィートネス・オハラや、『ハリー・ポッター』シリーズで最も重要な有色人種キャラクターであるリタ・レストレンジ(『ファンタスティック・ビースト』シリーズ)を演じ、『ビッグ・リトル・ライズ』ではボニー役として圧巻の演技をみせた。

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Shirt and trousers Coach 1941 resort 2019. Tank, necklace and hat Saint Laurent by Anthony Vaccarello resort 2019. Belt R13 resort 2019. Shoes Prada resort 2019.

タトゥーを入れ、ウエストまである髪をブレイズに編み込んだボニーは、白人の富裕層が暮らすカリフォルニア州モントレーで唯一のアフリカ系の母親。他の母親たちはみんな彼女より歳上の白人だ。彼女の夫のネイサン(ジェームズ・タッパー)も裕福な白人で、その地域のリーダー的存在であるマデリン(リース・ウィザースプーン)の元夫でもある。

このような背景があるにもかかわらず、ボニーの人種は、他の白人キャラクターからも、ボニー自身によっても一切言及されない。このようなボニーの姿は、白人が多数派を占める場所でのアフリカ系女性の在りかたを象徴している。彼女は白人の不安を和らげるような落ち着いた空気をまとい、近隣に住む夫たちからは性的な視線を向けられる。

ゾーイはおそらく自身の実体験に基づいて、ボニーの感情の奥深さ、真に迫ったキャラクターを完璧に表現している。それこそがゾーイの才能なのだ。彼女は深みのある女性を演じ、キャラクターをステレオタイプに押し込めず、挑戦的で新たな次元へと推し進める力を持っている。

問題は、ポップカルチャーに登場するキャラクターが多面的になるいっぽうで、オーディエンスとのあいだに発展しうる繋がりが、複雑かつ直感的なストーリーを拒絶する脚本によって、短絡化していることだ。

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Jumper MM6 Maison Margiela resort 2019. Hat and necklace Saint Laurent by Anthony Vaccarello resort 2019.

「いち部のひとにとっては、多様性は単なるトレンドなのかもしれない」とゾーイは指摘する。「でも、それが現実のひとだっている」

この現実を表現したいという想いは、ゾーイが自身のカーリーヘアを受け入れるまでの体験にも通じている。「自分の髪を変えなければ、受け入れてもらえない、仕事をもらえない。ずっとそう感じていた」と彼女は回想する。

数年前、アフリカ系のひとびとが生まれたままの髪を受け入れようという〈ナチュラル・ヘア・ムーブメント〉を始め、数百年に及ぶスティグマに立ち向かった。その最大の成果が、ニューヨークとカリフォルニアで新たに制定された、職場における髪型の差別を禁止する法律だ。

「自分の髪を愛することを学ぶのは、本当にすばらしいこと」とゾーイはいう。「いろんな薬品を使わなくても、自分の好きな髪型でいればいいってことに気づいた」

確実に前進はしたものの、今もなお特定の社会的状況において、特定のアフリカ系の髪型が〈受容〉されていないことに、私たちは向き合わなければならない。ゾーイはここ数年、高さ約15センチのブレイズのお団子ヘアから、流れるようなボックスブレイズ、エクステを編み込んだブレイズまで、様々なヘアスタイルでレッドカーペットに登場している。ゾーイが新たなスタイルで姿を表すたびに、アフリカ系の髪型は〈当たり前〉へと一歩ずつ近づいているのだ。

さらに重要なのは、これが白人が多数派を占める場所で行われているだけでなく、自らの髪型を長らく異常なものとして描かれてきた、多くのアフリカ系が目にしているという事実だ。「私には、ありのままの私でいる責任があると思う」とゾーイは明言する。「いつも言ってることだけど、私はみんなに私みたいになりたいと思ってほしいわけじゃない。そうじゃなくて、自分らしくありたい、と思ってほしい」

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T-shirt vintage from What Goes Around Comes Around NY. Trousers Gucci resort 2019. Sunglasses Valentino. Shoes Prada resort 2019.
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All clothing Gucci

Credits


Photography Gus Van Sant
Styling Alastair McKimm

Hair Nikki Nelms at Impaq Beauty using Maui Moisture and ghd
Make-up Nina Park at Forward Artists using YSL Beauté
Nail technician Casey Herman at The Wall Group using Germanikure
Photography assistance Roy Beeson, Ian Rutter and Alex Hopkins
Digital technician Andrew Katzowitz
Styling assistance Madison Matusich and Milton Dixon III
Tailor Martin Keehn
Make-up assistance Naoko Kitano
Production Iconoclast Image
Producer Una Simone Harris
Production assistance Devon Davey and Ben Dobson
Retouching 4C Imaging
Shot at Red Hook Labs with thanks to Digital Capture Solutions
Casting director Samuel Ellis Scheinman for DMCASTING.

This article originally appeared on i-D UK.

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