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人間の本質を突くJenny fax、シュエ・ジェンファン

少女心をくすぐるファンタジーへ誘うシュエ・ジェンファンの世界は100%ハッピーではない。心の内に潜む裏の感情や危険な雰囲気も漂うからこそ、また見たくなってしまう。

by Aya Tsuchii
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18 April 2017, 4:55am

東京の夜を満喫できる池袋パルコ本館の屋上に広がる異国情緒漂うレトロフューチャリスティックな世界。今回のショータイトル「FALL」の意味を尋ねると、「10年ほど前に池袋パルコの屋上から飛び降りた人がいるんです」と会場に選んだ場所が持つストーリーもコレクションに組み込んでいる。「それと、いつもアドバイスを聞いている言語学の先生がいるんですけど、今回のコレクションについて相談をしていたら、俳優レスリー・チャンの要素に入れたら? と言われたんです。レスリー・チャンは私がずっと好きな俳優なのですが、彼も自殺しています。私自身、毎回コレクション前には死にたいと思うので、死を意識しました」

しかし、ジェンファンの作品は決してダークムード一色ではない。彼女が得意とするパステルカラーのAラインワンピースやチュチュのようなボリューミーなスカート、そしてサイケデリックなプリントのワンピースやブロンド少女の絵をパッチワークしたニットなども登場し、レトロ感漂う少女の世界を演出している。「50-60年代のアメリカからもインスピレーションを受けました。米ドラマ『マッドマン』を見ていて、当時のアメリカが持つ綺麗さに気がつきました。広告業界を舞台にしたドラマなのですが、登場する女の人は皆とても綺麗に着飾っていてパーフェクトライフを送っているように取り繕っています。でもその身なりとは裏腹に、うちに秘めたダークな部分も描写しているんです。そのギャップに興味をそそられ、今回のコレクションに落とし込みたいと思いました」。社会が生んだ溝や人間の複雑さと、汚れを知らないおとぎ話のようなファンタジーを絶妙にミックスしてみせるのがジェンファンらしい。そして、「パルコを会場に選んだのも、見晴らしが良くて、東京の大都会を満喫できる場所だったから。今回私がテーマに選んだのは50-60年代のアメリカだったけれど、パルコが打ち出すイメージとのギャップも面白いなって」と、背景や曲すべてを交えてコレクションを作り出すのだ。

今回、ハイウェストのワイドなパンツやテーラードジャケットといったマニッシュなスタイルや胸パッドを強調したブラトップなど、女性らしさやボディを強調したルックが目立つ。カラーパレットもパステルの中に、ヘリテージなチェックをミックスしていたり、どこか大人びた雰囲気に目が留まる。「頑張ってシンプルに作りました。1950-60年代の人たちが、当時に描いていたシンプルなフューチャリスティックを取り入れたかったんです。だからメタリック素材を使ったり、ブラトップを作ったりした。あとはメンズっぽさも出したかったので、マニッシュなスタイルを多くしました。私、実はスーツがとても好きなんです。意外に思われるけれど、1番好きなデザイナーはラフ・シモンズ。彼が過去にデザインした服をいっぱい持っています。本当は、常にミニマルなスーツをデザインしたいと思っているんです。でも、スーツを目指してデザインをしても全く違うものが出来上がってしまうのですが(笑)」。実は彼女が密かにこだわっているのがジャケットやスーツ。「今回もジャケットを1着作りました。毎シーズン1着はジャケットを取り入れているんですよ!もっと増やしたいけど、需要がないので、自分の趣味として1着はデザインしています」

様々な要素が支離滅裂に絡み合って出来上がるJenny Faxのコレクション。インスピレーション源について尋ねると、「いつもインスピレーションは、映画やドラマが多いんです。YouTubeやNetflixなどをいつも見ています。時間がある日は1~4本観ちゃいます。どんなに疲れていても、寝る前に毎日1本は観ます。サラリーマンで言うところのビールみたいな感覚ですね。映画が私にとっての1日のご褒美。同じ映画を何回も見ることもありますよ」と映画やドラマの存在の大切さを語る。そして彼女のコレクションの特徴でもある独特な少女らしさは恐らく彼女の記憶や思い出から表れるのだろう。「いつも幼い時の思い出や記憶をコレクションに取り入れています。わたしの記憶にある私のお母さんや妹の姿や思い出が多いですね。今回のコレクションでは、登場人物に男性を入れたかった。なので、私に一番近い存在であるお父さんを表現しました。台湾人は欧米に憧れがあるんです。私のお父さんもその1人でした。体型は典型的なアジア人なので背も高くはないけれど、ゴットファーザーに出てくるイタリアのダブルスーツに憧れを抱いていて、よく着ていたのが印象的です。その光景を思い出すと面白くて笑ってしまいます。彼の着ていたスーツの形は、大きな肩パットが入った懐かしい形のスーツ。台湾製のものだったので、イタリアのスーツと言っても、台湾の人が想像する"イタリアンスーツ"だったので、縫製もイタイア製のものとは全然違うから見ていて面白いし、当時のトレンドもわかるので興味深いです。」と笑って話す。そして何より彼女が大切にしているのが、迷信だという。「縁があって繋がったりすることってありますよね。今シーズンで言えば、私の死にたいという思いと、会場での事件、そしてレスリー・チャンの自殺の話。そうやってたまたま起こる不思議な現象は、迷信だと思い、大切にしています」。時彼女にはどこか子供らしさが残っている。子供が抱く好奇心や、やんちゃな一面が見え隠れする。ファンシーな小物やシールが好きで集めているが、その一方で着たい服はラフ・シモンズという、彼女自身も様々なものがミックスされているのだ。様々な国で経験を積み、いろいろな刺激を受けてきた彼女は「19歳まで台湾で育ちました。その後、フランスやベルギーでも勉強していたので、ヨーロッパのファッションヒストリーやコスチュームを見て感動しました。本当になんて素晴らしいんだと思ったんです。その一方で、ラフ・シモンズのようなモダンな服も近くで見ていたので、とても影響を受けていまいた。私がこれまでの人生で見つけたたくさんのものを混ぜ合わせたものが私のブランド」と、彼女にしか作りだせないJenny Faxの世界。素直に好きなものは好き。それが何よりも彼女の強みだと思った。

パリで2年半、ベルギーで5年間ファッションの勉強をした彼女が日本でjenny Faxを立ち上げたのは2010年。パリでデザイナーの坂部三樹郎と出会い、それから18年の月日が経つ。「パリやベルギーで過ごした後、日本に移住したのですが、日本に来た時からブランドを立ち上げたいと思っていました。でも私は自分のやりたいことをコントロールできない性格で、それをわかっている三樹郎には、ブランドを持つのはまだ早いと言われて。なので、初めはMIKIO SAKABEを一緒に手掛けていました。経験を積み、そろそろかなと思い、日本に移住してから3年目にJenny faxを立ち上げました。今もミキオ・サカベも手掛けながら、Jenny faxもやっていて。MIKIO SAKABEでは、素材やディテール選びを2人でやっています。Jenny faxは自分でやっているけれど、私は常に自信がないので、いつも彼に相談し、アドバイスをもらいながら作っています」とパートナーとして助け合いながら2人3脚でやってきた様子を話す。

コレクション前は、いつも死にたいという思いに襲われるという彼女は、「スケジュールを立ててもスケジュール通りにいくことはまずありません。いろいろな刺激を受けて、どんどん足していきたくなるんです。気分の浮き沈みも本当に激しいので、テンションの上がり下がりの差に自分でも疲れちゃうんですけど。コントロールできないんですよね」と話す。しかし彼女がデザインすることをやめることはない。「洋服が好きです。わたしは4人兄妹だったので、とても裕福な家族ではありませんでした。服や靴も必要な分しか買って貰えなかったのを覚えています。高校も家政学校に入っていたので、着たい服を自分で作っていました。デザイナーをなんで続けているのかはわからないけれど、でもこの仕事を辞めたらと考えたこともなく、専業主婦も向いていない。やっぱりみんなどこかスペシャルでありたいんだと思います」

そんな彼女は今、多くの人が心に秘めているダークな部分を体現するのが好きです」。ただただハッピーな人間もいなければ、そんな人生もない。外見の美しさだけではなく、様々な複雑な感情を持ち合わせている人間の本質に興味を抱き、描写し続けるジェンファン。彼女が何を作り出しても、そこにブレはない。幸せの裏に存在するもう一つの感情それが見えるからこそ興味が沸き、面白いと思うのかもしれない。

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Portrait Photo by Fumiko Imano

Credits


Photography Jus Vun
Text Aya Tsuchii