16歳の異色ラッパー、Rich Chigga

YouTubeにあげたMVが600万回再生を超えるジャカルタ出身のラッパー、Rich Chigga。16歳とは思えない鋭いラップと独特のスタイルで世界中の人々の心を掴んだ。今回、i-Dは世界から熱視線を浴びるインドネシアの麒麟児の素顔に迫った。

|
jul 22 2016, 2:55am

ローカルとグローバル。かつて、そこには高い壁があり、広い世界を夢見る音楽家たちはその壁を乗り越えるユニバーサルな感覚を獲得するために幾多の試行錯誤を繰り返してきた。しかし、ネットを介して、人と人が国境を越えて繋がり、時差なく情報が共有されるようになったことで、近年、欧米中心のグローバルな音楽シーンにユニバーサルな感覚を持った非欧米圏の若き才能が飛び出してゆく、そんな驚くべき現象が増えつつある。

欧米で圧倒的な知名度を誇る韓国のキース・エイプ、日本のKOHHは、その好例といえるラッパーだが、今年2月にYouTubeで公開した「Dat $tick」が再生回数600万回を越えるバイラルヒットを記録中のRich Chiggaことブライアン・イマニエルはインドネシア・ジャカルタ出身、それも16歳という若き天才ラッパーだ。

「僕は、2012年くらいからTwitterでコメディアンとして活動を始めて、去年からYouTubeのようなプラットフォームを用いて、コメディ動画を公開するようになったんだ。そしてコメディと平行して、A$APモブやヤング・サグ、$UICIDEBOY$のようなヒップホップをずっと聴いてきたこともあって、タイラー・ザ・クリエイターのように、ラッパーとして、コメディと音楽が共存した曲を作ってみたくなった。そこでEDMのトラックを作ってる友達が作ったトラップのトラックでラップした「Dat $tick」を今年2月に発表したんだ」

最新のトラップビートで巧みにフロウさせる彼のラップは、インドネシア語ではなく、流暢な英語。曲を聴く限りは、アメリカ在住のニューカマーなのかと錯覚するが……。「実はアメリカに住んでたことも、行ったこともないんだ。でも、僕は学校に通わず、家で勉強するホーム・スクーリングの生活をしていて、毎日、家で見ているYouTubeの動画を通じて英語に触れるようになった。そして、その後、Twitterを通じて知り合ったアメリカの友達とSkypeで話しているうちに、英語で話したり、ラップ出来るようになったんだ」

その研ぎ澄まされた言語感覚も驚きだが、自身でプロデュースしたというミュージックビデオのインパクトがまたすさまじい。ピンクのポロシャツにカーキのショートパンツ、リーボックのウェストポーチという、どう見てもナードなスタイルに身を包んだ彼が、本場顔負けのトラップミュージックを披露している映像は、観る者に違和感と共に強烈な印象を焼き付ける。「ミュージックビデオは、最初、今時のBボーイらしいスタイリングにしようと思ったんだ。でも、そこで自分のコメディ精神が発揮されたというか、この映像をより多くの人に見てもらうにはどうしたらいいか考えた時、ピンクのポロシャツとウエストポーチっていうスタイルでラップとギャップを持たせたほうがいいんじゃないかなって。結果として、周りから『軽くくすぐりながら刺されるような映像だね』って言われたから、狙い通りのリアクションが引き出せたと思うよ」

シリアスなのかズレてるのか、はたまたジョークなのか。すぐには判断出来ないギリギリの表現をニコリともせず形にしてみせる独特な笑いのセンスとプロデュース能力は、彼のコメディ動画にも一貫して感じられる突出した才能だ。「『Dat $tick』がどうしてバイラルヒットを記録したかというと、コメディアンとしての活動を通じて、世界各地にTwitterのフォロワーが沢山いたことが大きくて。曲を発表した瞬間に1000回くらいリツイートされて、それがさらに翌日朝起きたら、KollegeKiddっていうブログの紹介記事を経由して、あれよあれよといういう間にどんどん拡散されていったんだ。ジャカルタはEDMシーンの影響が大きくて、小規模なヒップホップシーンもあるにはあるんだけど、インドネシア語ではなかなか世界には広がらないよね。僕が英語でラップしているのは、もちろんインドネシアに限らず、より多くの人に聴いてもらいたいからなんだけど、その一方でアジア人であることやインドネシア出身ということを自分のブランディングに使いたくないんだ。僕自身、英語のラップはもともと備わっている普遍的な表現として捉えているし、いい曲さえ作れば、国籍に関係なく受け止めてもらえると思ってるよ」

そのヒットが偶発的なものでないことの証明は、今後の活動にかかっているが、ラップを始めてまだ1年程度という16歳のリッチ・チガは、先頃、韓国からアメリカ進出を果たしたキース・エイプやアトランタのファーザーのマネージメントと契約。彼の目前には無限の可能性が広がっている。

「実は僕のミュージックビデオを気に入ってくれたゴーストフェイスが『Dat $tick』のリミックスを買って出てくれたんだ。今回、来日したのは、そのミュージックビデオの撮影だよ。内容は……見てのお楽しみってことにしておこうかな(笑)。今後の予定としては、9月くらいにEPを出そうと思っているんだけど、音楽と平行して、コメディアンとしての活動も続けるよ。ただ、僕はネット人格を作り上げるように、実際の自分より強く大きく見せることには全く興味がないし、今後も遊び心に溢れた面白いことをやりたいね」

Credits


Photography Ko-ta Shoji
Text Yu Onoda