『ザ・シンプソンズ』がファッションについて教えてくれる7つのこと

人気アニメ番組『シンプソンズ』が、放送開始から30周年を迎える。そこでi-Dは、アメリカでもっとも愛されているこの一家が、服の持つ力を物語ったエピソードを紹介する。

by i-D Japan
|
16 May 2017, 8:50am

全身を黄色い肌に覆われ、4本指でアゴなしの、中西部に暮らすアメリカ人たちを描いたアニメ番組『ザ・シンプソンズ』。登場人物たちはいつでも同じ服装だが、なぜだかファッション界とは密接な関係にある。マーク・ジェイコブスがキャラクターのタトゥーを入れたり、ジェレミー・スコットが2012年秋冬コレクションでデザインに取り入れたり、『Harper's Bazaar』ではシンプソン家の面々がパリを歩くという企画まで組まれたりと、なにかとファッション界から愛され続けてきた。シンプソンズ側もまた、ファッションを愛してきた。『ザ・シンプソンズ』のクリエイターたちは、ストーリーにファッションを織り込み、キャラクターたちが服を使って罪滅ぼしをしたり、キャラクターに活気を与えたり、ときには誘惑に用いられたりと、ファッションの力を各所で表現している。パリ・ファッション・ウィークを扱ったエピソードでは、カプリ・カーゴパンツの魅力が過大評価されすぎているという勘違いもあったが......。

アメリカのバラエティーTV番組『トレイシー・ウルマン・ショー』でのデビューから、今年で30周年を迎える『ザ・シンプソンズ』。シンプソン家がファッションの力を世界に見せつけた過去のエピソードを振り返ってみよう。

「スプリングフィールドの階級闘争」回のChanelスーツ
『ザ・シンプソンズ』とファッションの関係性を語るうえで、マージとChanelの関係を避けて通ることはできない。その短くも情熱的な関係は、マージが在庫処分をする店でピンクのChanelスーツを見つけることから始まった。世紀の大値引きでスーツを購入したマージだが、このスーツを着ると、周囲が彼女に向ける視線ががらりと変わる──Chanelスーツ姿でガソリンスタンドに寄り、車に給油していると、そこに居合わせたかつての級友からスプリングフィールドのカントリークラブに招待される。スプリングフィールド最大の社交界に、マージは招待されたのだ。

服装が持つ力を思い知ったマージは、「同じ服を着て行くわけにはいかない」と、当のスーツを自らの手で繰り返しリメイクするようになる。しかし、ミシンの事故が起き、スーツはあえなくズタズタに。パニックに陥ったマージは、シンプソン家の全貯金をはたいて、定価でChanelのドレスを購入する。じきにマージは、いかに視野が狭くなっていたかを自覚し、彼女と家族とのあいだに分裂を招いたのがファッションだったと気づく。購入したばかりのドレスを返品し、マージは本来の生活と本来の自分を取り戻す。現実世界でわたしたちがマージと同じ行動をとるかは意見が分かれるところだろうが、このエピソードは、「本当の自分でいること」の大切さをわたしたちに教えてくれた。

「チーム・ホーマー」回 変色する制服
シーズン7のこのエピソードでは、バートが"宿題反対"とプリントされたTシャツを着て登校したことで、学校に暴動が起きる。これを重く受け止めた校長スキナーは、生徒たちに制服の着用を義務づける。スローガンTシャツが持つ力を見せつけるエピソードでもあるが、この回の要となるのは、自己表現の手段としての服を奪われた生徒たちが変化していくさまだ。毎日同じグレーの服を着させられることで、生徒たちからは歓びの色が消えていく。雨が降り、濡れた制服がカラフルに変色したときに生徒たちは活気を取り戻す──これが、色がいかに大切かを生徒たちに思い出させるできごととなった。

「スプリングフィールド・コネクション」回 コピー・ジーンズの危険性
シーズン6で、マージは、シンプソン家が暮らす町スプリングフィールドに奉仕しようと、警察官になる。警官として、スプリングフィールドに横行する偽ジーンズ生産のケースを追うマージ──捜査を進めると、違法ジーンズ製造がシンプソン家のガレージで行われていることが判明。ホーマーが毎週開催しているポーカー・ゲームの集まりが犯罪行為の温床となっていたのだ。この事実が、マージとホーマーのあいだに亀裂を生むことになる。追い詰められた犯人たちは、自らが作った偽ジーンズをプーリーとして使い、ジップラインで逃げようとするが、そこはやはり偽ジーンズ──その粗悪な品質のおかげでジップライン半ばにしてジーンズは破れ、犯人たちは御用となる。このエピソードのメッセージは明確だ──偽物でお金を無駄にするなということだ。

「ホーマー軍曹」回 白スーツが象徴するもの
カントリー音楽の新星ラーリーン・ランプキンのマネージメントを仕事として始めるホーマー──そこでホーマーは、マージとの関係を試されることに。ラーリーンはホーマーに恋心を抱き、気持ちを表したいと真っ白なスーツをプレゼントする。ホーマーの普段着から対極にあるようなセンスのスーツは、ホーマーと妻マージのあいだに膨らむ距離感の象徴となり、また、ふたりの結婚生活におけるラーリーンの壊滅的存在感の象徴となる。ホーマーはスーツとラーリーンを捨て、マージのもとに戻る。

「クラスティ最後の誘惑」回 タートルネックの力
キャリア再起を目指すクラスティは、それまで用いてきた衣装やメイクをやめ、よりシンプルな装いでの活動を思いつく。現代のコメディアンたちと同じような格好とパフォーマンスで自らを刷新して、新たなコミュニティに溶け込もうとするクラスティ。そこには、異質な世界に溶け込む際に服装がいかに大きな役割を果たすかが如実に描かれている。また美的感覚の変化がクラスティのクリエイティブな変化を促し、彼に自信を与える様子が描かれている。しかし最終的に、クラスティは、どれだけスポーツコートやジーンズで着飾っても、生まれ変わった自分に馴染むことができず、結局は本当の自分を変えることなどできずに終わる。

「とことんパパ」回 ピンクのシャツ
シーズン3のこのエピソードは、服装のチョイスがいかにわたしたちの人生を変えてしまうか、そのもっとも絶望的な例を描いている。マイケル・ジャクソンのゲスト出演が最大の話題となったこの回だが、ホーマーが精神病院に収容されるという展開がストーリーの主軸となっている。収容の理由は、ホーマーがピンク色のシャツを着て出社したから──バートの赤いキャップを白物と一緒に洗ってしまったため、すべてがピンクに染まってしまったのだ。現代は、Gucciをはじめ、ランウェイで首元にリボンが配されたブラウスがメンズでも一般的になっている。だから、このエピソードでピンクのビジネス・シャツがこれほどに問題視されるのは少し不思議にすら感じるが、それは、今が一般男性にも色のチョイスが認められる時代になったということの証しなのかもしれない。

「24+1匹のグレーハウンド」回 ファーの本当の代償
バーンズがスーツを作ろうとサンタズ・リトルヘルパーの仔犬たちを盗もうと画策するシーン──ここでバーンズは、ミュージカル調のキャッチーな曲を披露するだけでなく、毛皮の取引の残酷な現実も世界に明かしている。エピソード自体は、もちろん観ていて楽しいが、動物たちの尊い命が失われて初めて、わたしたちが着る毛皮やレザーがあるのだという事実を、まざまざと見せてくれてもいる。

Credits


Text Wendy Syfret
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.