クロンターラーの思春期:2018SS パリ・ファッションウィーク Day5

アンドレアス・クロンターラーが自身の故郷と生い立ちを讃えた一方で、Junya Watanabeは大自然に暮らすパンクを描き、Acne Studiosは、ヴィンテージショップへの旅へとわたしたちをいざなった。

by Steve Salter; photos by Mitchell Sams
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05 October 2017, 9:52am

「自分の名前も生い立ちも嫌いだった」と、アンドレアス・クロンターラーはショーノートで明かした。「マキシミリアンやアウグストゥスっていう名前だったらいいのにとずっと思っていた。出身地もなぜローマのような街じゃなかったのかって」。思春期に体験したことのある感情だ。今季のAndreas Kronthaler for Vivienne Westwoodコレクションは、デザイナーのクロンターラーが思春期に自分を受け入れた過程を題材にしてる。アンドレアスとヴィヴィアン・ウエストウッドがそれぞれのコレクションを手がけた2018SS。だからアンドレアスにとっては自然なテーマだったといえるのかもしれない。

Andreas Kronthaler for Vivienne Westwood

今季のテーマはチロル(アルプスに位置するオーストリア西部の州)で家族や友人に再会した夏のできごとから着想を得たという。アンドレアスの兄が所有する牧場を彼とヴィヴィアンは訪れた。アンドレアスは今回ナオミ、ドナテッラ、リアーナ、ミュージック、ウガンダ、フルール、そしてヴィヴィアンなど、兄が飼育している牛の名前をドレスにつけている。「ヴィヴィアンはわたしが助産をした牛なの」とヴィヴィアン・ウエストウッドは話してくれた。なぜその瞬間を撮っておいてくれなかったのだろう……。ヴィヴィアンとアンドレアスは友人で、オーストリア伝統装束ブランドTostmann Trachtenの創始者のゲクシ・トストマン(Gexi Tostmann)のもとを訪れている。そこでアンドレアスはチロルに古くから伝わる女性用伝統装束のディアンドルを、コレクションでクチュール制作することを思いついき、トストマンに制作参加してほしいと頼んだ。イギリスに戻ったヴィヴィアンは、ショーに向けて、サテンのドレスやスーツにハンドペインティングでグラフィックをほどこした。「色、花、感情をあらわにした踊りと歌、歓び、心からの幸せ」と最終フィッティングで初めて見たコレクションの全容をヴィヴィアンは説明している。

Andreas Kronthaler for Vivienne Westwood

これはアンドレアス・クロンターラーの服だ。彼の妻であり、クリエイティブ・パートナーであるヴィヴィアンがその世界観のファンであるのは驚くべきことではない。彼の作品に魅了されたファンは彼女だけではない。伝統と職人技巧に新たな風を吹き込み、奥深く、そして性別の概念を打ち破るこのコレクションに誰もが心を奪われた。『サウンド・オブ・ミュージック』の荘厳な景観に、画家フランソワ・ブーシェが描いた女神や、ブリューゲルが描いた動物たちが暮らし、セックスが香るストリートウェアが共存する楽園がショーで表現されていた。男性器をかたどった柄や、乳房がプリントされたTシャツ、布団にくるまれたようなモデル、そしてポルノスターのように淫靡なイヤリングまで、コレクションには欲望と情熱、そしてセックスが大いに香った。ショーは空想が現実、神話と真実が出会った、なんとも美しく混沌としていた。「僕は綺麗でカラフルなものが作りたいだけ」とアンドレアスは説明した。「ポジティブな気分と感覚を持ちたかったんだ」。問題が山積する現代社会に対するアンドレアスの姿勢を表したショーは成功を納め、観客は笑顔で会場を後にした。

Junya Watanabe

アンドレアスとヴィヴィアンがカラフルでセックスの香るショーを開催した一方でJunya Watanabe Comme des Garconsの渡辺淳弥は大自然のなかに作ったパンクたちのコミューンへとわたしたちをいざなった。パンクのムーブメントが世界を揺るがしてから40年以上が経つ。渡辺は世界を変えたパンク・カルチャーの考察を続け、今シーズンは「パンク」の概念からはもっとも程遠い環境で表現した——森林の中だ。「嵐から木々にいたるまで、自然をドレスという形に落とし込みたいと思いました」と渡辺はショーのバックステージで説明した。彼はMarimekkoとのコラボレーションで作り出した9種のプリントを自然のフォルムに造形した。それによりコレクション全体に自然と人間のあいだの関係性が露見した。もっともパワフルだったのは釘を巻き込んで作ったモヒカンヘア(今シーズンもっとも素晴らしいヘアだった)のモデルを起用したルックだった。岩の形をしたカモフラージュ柄のドレスにスタッズかついたチョーカーとブレスレットを合わせ、New Balanceのスニーカーにもスタッズが配されていた。ソフトとハード、自然と人工、そして攻撃性と平静が出会った作品だった。日本が誇る偉大なデザイナーは完全なる不協和の美をショーで表現していた。

Acne Studios

渡辺大自然に逃避したパンクの姫君たちを描いた一方でAcne Studiosは「ヴィンテージショップへの旅」を表現した。ショーはパビリオン・カンボンで行われた。観客席とコレクションを隔てていたビニールのカーテンが上がると、そこには『サタデー・ナイト・フィーバー』や『アメリカン・ハッスル』をスカンジナビアの視点から解釈したようなルックがあらわれた。「ファッション界の外側にあるものに興味があります」とAcne Studiosのクリエイティブ・ディレクター、ジョニー・ヨハンソンは話している。「それこそがAcne Studiosの精神。今季はアウトサイダーのあり方について探りたかったのです」。9時から17時まで働く日常から、ディスコのダンスフロアまで、ヨハンソンは理想の反逆児のあり方を1970年代に見出した。「楽しむために作られた個性的な服を偶然古着屋で見つけるような感覚です」とヨハンソンはコレクションを説明した。アイテムはどれも組み合わせ次第で光るものばかり。そこには「ドレスアップして、人生を謳歌しよう」というメッセージが込められていた。

Sonia Rykiel

このメッセージはSonia Rykielのコレクションにも響き渡っていた。「パールをまとった女性がパリ左岸へ」——ジュリー・ドゥ・リブランは今季のコレクションを言い表した。女性らしいエッセンスと左岸のスタイルを探った結果、なんと牡蠣がコレクションのモチーフとして使われることになった。デフォルメされたプリント、機能性に優れたジッパー、真珠のように虹色にきらめくイブニングドレスと、牡蠣モチーフに溢れたコレクションが見られた。さらに釣り三昧の日々に着想を得て6通りの使い方ができる牡蠣型のタックルバッグだった。「牡蠣は美しいものを生み出す神秘の生き物です。このコレクションは美がテーマなんです」とジュリー・ドゥ・リブランはショーの後、バックステージで語った。会場の中庭で行われたパーティには来客がひしめきあっていた。コレクションは牡蠣が象徴する女神と、真珠が生まれる神秘を表現し、茶目っ気に官能が香るSonia Rykielの女性像を体現していた。今後わたしたちは牡蠣を見るたびに、このコレクションと真珠の美しさを思い出すに違いない。