死んでも、音楽を生かすために:the hatch interview

ライブや音源の衝撃が東京を中心に少しずつ全国に飛び火している札幌在住のポストハードコア、オルタナティブバンド、the hatch。彼らがハードコアの文脈を超越している理由を、司令塔であるボーカル&トランペットの山田ミドリの言葉から紐解く。

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apr 16 2018, 11:22am

筆者が札幌のポストハードコア、オルタナティブバンド、the hatchの存在を知ったきっかけは、OKAMOTO’Sのオカモトレイジが2017年4月にInstagramにポストした動画だった。下北沢SHELTERで行われた彼らのライブの一部分が収められたその動画は、時間にして1分にも満たないものだった。しかし、何かとてつもない音とパーフォマンスが東京の小さなライブハウスのステージでむき出しになっていることが迫真的に伝わってきた。ドラマーを除く3人のメンバーが上半身裸で轟音を響かせ、過不足のない筋肉をまとったボーカルの青年が恍惚の表情を浮かべながら咆哮している。次の刹那、青年はマイクをトロンボーンに持ち替え吹き鳴らし始める。動画はそこでストップする。その後、気になってYouTubeにアップされている別のライブ映像を観ると、一見、直線的な表現をしているこのバンドの音楽性が、その実、細やかなアンサンブルで成り立っていることがわかる。ボーカリストのシャウトを抜きにすれば彼らの音楽像に見受けられる構築美はハードコアというよりも、ジャズ的であり、クラウトロックやマスロックのような趣さえ感じられるものだった。そして、実際に音源を聴いてthe hatchがハードコアの文脈を飛び越え、比類なきバンド道を歩んでいることを確信する。

今回インタビューに応じてくれたボーカル&トロンボーンの山田ミドリを筆頭に、the hatchはギターのりょうけん、ベースのザキヤマ、ドラムの岩崎隆太郎の4人から成る。現在残っている結成時のオリジナルメンバーはザキヤマのみで、ミドリが加入してからthe hatchは大きく変化したという。

「もともとはもっと速弾きが多い激情型のハードコアバンドで、ほとんどの曲にブラスト(バスドラムとスネアを高速で打つドラムスタイル)が入っていたんです。俺はブラストが好きじゃないので、俺とりょうけんで曲を作るようになってから徐々にバンド全体の音楽性が変化していきました」

ミドリの音楽的なルーツを訊くと、なるほど、それはジャズにあった。サックス奏者の父のもとに生まれ、兄は現役のプロのジャズトランペッターだ。幼いころからジャズのレコードを聴き、家族で三管編成を組めるという理由で小学生のときに父からトロンボーンを託された。半ば強制的だったため、最初はトロンボーンを吹くことに消極的だったが、今では自らの音楽的な武器の一つであることを自覚している。高校生のときに札幌出身のオルタナバンドに興味を覚え、特にハマったのは同郷の伝説的なバンドであるKIWIROLLや極めて独創的な音楽性で事実上の活動休止中である今もカルト的な人気を誇っている54-71だった。

「今もそうですけど、リズムが他と違う音楽が好きなんです。数年前はブレインフィーダー周辺のLAビーツや生音のジャジーなヒップホップにハマってました。音楽はずっと好きですけど、中高生のときは友だちとバカなことばっかりやってましたよ。学校で局部を出したり、ゲロの早出し競争をやったり(笑)。中華一番はそういう遊びの延長という感じで始まったんですよね」

中華一番とは、ミドリが高校の同級生であり現在は踊ってばかりの国のドラマーでもある坂本タイキらと遊びの延長で組んだヒップホップユニットだ。彼らの向こう見ずでヤンチャなエピソードや非常に下劣でありながら奇妙な中毒性をはらんだ曲は、東京のインディシーンでも噂になっていた。しかし、まさか中華一番のトラックメイカーとthe hatchのフロントマンが同一人物だとは思わなかったのだ。ミドリは他にも現在は解散したがヘアアズというポップスバンドやHAPPENING STYLEというアバンギャルドなインストバンドのメンバーでもある。そのなかでもthe hatchは最も肉体性に富んだバンドと言える。

「the hatchのメンバーはみんな練習好きですし、かなり体育会系なんです。メンバーの中で僕が最年少なんですけど、とにかく俺がむちゃくちゃダメ出しをして、みんなで反復練習をしたりするんですね。そのあたりはハードコアバンドっぽくないと思いますね。俺はアーティストの人間性に全然興味がなくて、一貫して楽曲云々の前に音で音楽の好き嫌いを判断しますね。メンバーには譜面的な理解を深めてほしいと言ってます。小難しい曲ばかり演奏しているのに楽譜的な解釈がないと手グセで終わってしまうから。俺はそれが一番イヤなので」

調理師の専門学校卒業後、一時はフレンチの調理人として働いていたミドリだが、音楽に人生を賭すと決めてからは楽曲制作やミックス作業が最大の生き甲斐になった。そんなミドリが最初にトラックメイク=作曲を手がけたのが、2014年に発表した「中華一番のテーマ」だった。それから4年。今のミドリが最も集中しているのが、the hatchの1stアルバムに向けたレコーディングだ。

「自分が納得できる音楽を作れたらアウトプットする場所(バンド)はなんでもいいんですけど、今はアルバムのレコーディングがあるのでthe hatchに集中してます。いろんなバンドをやっているなかで思ったことなんですけど、メンバー全員が努力をすれば結果がついてくるって思えてるのは奇跡に近いんですよね。the hatchにはそれがあるんです」

そして、こんな言葉に、誰にも似ていないミドリという音楽家とthe hatchというバンドの核心があった。

「ずっと自分に自信がなくて、人に評価されても否定的なことを言っていたんですけど、友だちでもあるGEZANのボーカル、マヒトゥ・ザ・ピーポーにそのことを怒られて。それからは自分のことを天才だと思ってます。俺はデカいステージに立つためにバンドをやってるわけじゃないし、大人数に評価されなくてもいい。でも、どんどん枝別れてしていく音楽の分岐点に立ちたいと思うんです。有名になる自信はないけど、そういう存在になれる自信はめっちゃありますね。あとは、将来的に子どもを作る気がないので、死んでも自分の音楽が残ったらそれが最高ですね」

Credit


Text Shoichi Miyake.
Photography Shun Komiyama.
Styling Daisuke Deguchi.
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