「他人に決めつけられるな!」ALYXの信念

ALYXのクリエイティブディレクター、マシュー・ウィリアムスが、ALYXのこれまでとヴィジョン、コラボする意図、そしてファッションショー開催の可能性について語る。

by Tim Neugebauer
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06 July 2016, 8:37am

先週、マシュー・ウィリアムス(Matthew Williams)とニック・ナイト(Nick Knight)が、ALYXの2017年春夏コレクション「SPECIAL PROBLEMS」を見事に表現したカタログを映像とプリントで発表した。シリーズの第2弾となるこの作品で、ふたりはリアルでもオンラインでも機能しうる創造をした。今回の作品にミューズとして選ばれたのはモデルのモリー・ベア(Molly Bair)。オンラインと実生活の両方で見せる彼女のパーソナリティが、ぎこちなさと親密さの入り混じるポートレイトとして展開されている。ALYXのクリエイティブディレクター、マシュー・ウィリアムスが、じっくり時間をかけること、そして我が道を行くことの大切さを語ってくれた。

──ファッションと音楽の業界で長く活躍されてきたあなたですが、いつ、どのような経緯でALYXをローンチしようと決めたのでしょうか?

17歳の頃からずっとやりたいと思っていたんだ。大学を中退してこの業界で働き始めてから、これまでやってきたことすべては、このブランドを立ち上げるためのものだったんだと思う。音楽業界から離れて、ファッションの世界に移りたかった。そこからすべては始まったんだ。

──なにか明確なターニングポイントがあったのでしょうか?

結婚して2人目の子供ができたことがきっかけになったね。その時、自分自身のプロジェクトを立ち上げたいと思ったんだ。コラボではなく、僕自身を反映するような何かをね。写真をのぞいて、それまで僕が作り出していたものはすべてがコラボだったから。

──ある意味で、自分の家を建てているようなものですね。

そう、その通り。

──テーマを掲げるのではなく、あなた自身をパーソナルに反映させたのが、このコレクションのヴィジョンなのでしょうか?

僕にとって妻は永遠のパートナーであり、永遠の女神なんだ。もう結婚して10年になる。僕たちにとってこのコレクションは、"現代のクラシック"。僕は女性にずっと大切にしてもらえるような服をデザインしたい。完璧で素晴らしいものを作りたいという姿勢が必要で、そこにファッションを進化させたいという情熱が加わって、初めて何かをクリエイトできる。今という世界において、それはきっととても時間のかかることだよね。僕たちがやろうとしていることを、誰もが見ることができる——今はそんな世の中だからね。21歳のときにやった仕事を、誰もが知っているんだ。すでに出来上がっている僕のイメージを打ち破ろうと、これまで努力したよ。今回は僕にとって、3つめのコレクションになるけど、自分を世界最高のデザイナーだなんて豪語するつもりはない。自分の色を見つけるには、厖大な時間がかかる。ドリス・ヴァン・ノッテンでさえ、10コレクションを試作してから、初めて作品を披露した。エディ・スリマンもラフ・シモンズも、僕と同じくらいの歳のときにブランドを立ち上げたんだよ。

──自分の色を見つけるということについて、服を超えてALYXの世界を構築することの重要性について聞かせてください。

"内面を投影する服"というアイデアを具現化したいという衝動こそ、僕がデザインを始めた動機だったんだ。心理学的に「服が内面を投影する」と聞くと、ひとは服を買いたくなるものらしいんだ。でも必要以上に買った服だって、それはそれで自身の投影だからね。身につけるひとによってそれぞれ違う意味を持つような、そんな服作りがしたいんだよ。僕が作る服には、ひとつひとつにパーソナルな思いや思い出が織り込まれている。その世界観の全体を伝えたくて、写真やハードウェアを使って表現しているんだ。ただ可愛いものを作れればいいとは思ってないんだよ。

──それがあなたの洋服には如実に表れています。美を超えて、ユースの反逆的な精神を祝福しているように感じられます。

今回のコレクションは「Natural Order」と名付けたんだ。法則が存在しない状態、アナーキーを表現したかった。自然の秩序は人間の法則よりも崇高なものだよ。フローラルのプリントもそこから着想を得たんだ。僕たちの服作りでは、インスピレーションはすべてパーソナルなもの。"Fuck You"とプリントされたシャツがあるんだけど、それはShorty's Skateboardsのものをベースにしてるんだ。元のシャツは祖母が買ってきたもので、学校に着て行って、注意してきた先生の前で裏返して隠されたメッセージを明かした思い出があるよ。ベルトは、テーマパークのシックス・フラッグス(Six Flags)にあるマジック・マウンテンから着想を得たんだ。ジェットコースターのシートベルトね。カリフォルニアでは、卒業時期に全校でテーマパークにいって卒業を祝うんだよ。だから、テーマパークは失われたイノセンスを象徴する場所なんだ。初めてのキスを経験した場所だったり、初めて酒を飲んで酔っ払った場所だったり、恐怖を克服できた場所だったりするんだよね。ジェットコースターに乗ってみなよ。ベルトはただのモノでしかないけど、僕はそこにひとそれぞれの意味を見出してほしいんだ。そんなに深刻にならずにね——なんだかんだ言っても、僕が作っているのはただの洋服だから。

──結局は何の意味もないと?

そう、その通りだよ。ただ美しいモノがそこにあって、そこに僕はとてもパーソナルな意味を見出す。いろんなものについていろんな話ができるわけだけど、要は、コレクションに織り込んでいるのはサブカルチャー的なコードだってこと。ちょっとしたことが未知のエネルギーを洋服に吹き込んでくれるようなね。服を見たひとがそれをどう解釈しようと、何に着想を受けて作られたものか分かるかどうかにかかわらずね。アレキサンダー・マックイーンがかつて髪の束を服のラベルに付けたように——その服を作ったひとの魂が吹き込まれている、そういうものが好きなんだ。そこに象徴されるものを人々が理解できるかどうかは問題じゃない。服を見たひとがそれぞれ意味を見出すことができるようなものを作りたいね。僕にとって唯一大切なのは、服に独自の声、僕の声が吹き込まれてるってこと。僕は、作品を通して自分が感じることを声高に叫んでいる。人がどう思うか、服が売れるかはそれほど考えずにね。服を作ることが今、僕の人生には必要なんだ。毎日「生きてる」って感じるよ。家族との時間があって、あとは服作りをして——家族と一緒に服作りをする。

──このコレクションは特に思い出のモンタージュのような印象があります。

そう、ラベルにも思い出を込めたからね。この"A"は、バンドのブラック・フラッグ(Black Flag)のロゴから拝借したものなんだ。毎コレクション、こういうさりげないものを織り込むようにしてる。いつかファンが、こういうディテールを見て、「これはあのシーズンのもの」って話してくれるようになったらいいね。

──あなたの作品は、いまあるこの世界への反動ではなく、この世界をベースに作られたものなのでしょうか?

そう、その通りだよ。それが僕たちの作るべきものなんだと思う。そして、着るひととの関わりがそこに反映されるような服だね。ひとが服を着るのか、それとも服がひとを選んでいるのか——そういったものが見える服。でもこれはまだ3つめのコレクションだからね。5年後ぐらいにちゃんと基礎がでできていたら、そのときにはALYXに宿るDNAについて、もう少し話ができるかもしれないね。これが初めてのコレクションのようにすら感じるんだ。すべての要素を最高の水準まで持っていけたのは今回が初めてだったから。今年は、製造者やテキスタイルの専門家にそれぞれ得意とするものを作ってもらうことに注力したんだ。イギリス製のウールが使われているんだけど、これはイギリス軍が長年使ってきたものでね。それとスコットランド製のスーツはラックにかけられた状態でも素材感が際立っている。これは本物じゃないと出せない素材感。このコレクションにある作品はすべて"本物"なんだ。ラックに掛けられた状態で、そこに100%の世界観と存在感を持つものを僕は求めてる。それを実現するのに、2年もかかったよ。

──それ以上ですよね?

そうだね、本質的には11~12年かかっているかな。

──その間、あなたはファッション界でも音楽界でも多くの偉大な人々と関わってきましたが、どうやってあの独特のコラボレーション感覚を育み、保持してきたのでしょうか?

好奇心だと思う。自分が男性だということも大きく関係しているじゃないかな。男は自然と父親的な存在や年上の人に学ぼうとするから。それと、自分が持つ知識を未来のリーダーたちに継承していきたいという思いもあったし、コラボには世代を超えたコミュニケーションを生む力があって、それに夢中になったんだ。人生をエキサイティングに保つには、好奇心を絶やさないことが必要なんだよ。世界にも良いことだよ。そうでなければ、世界はダークで孤独で退屈な場所になってしまうからね。コラボをしていた現場では、みんながそういう考えで作品作りに挑んでいたんだよ。

──ALYXにおいて、コラボはどんな役割を果たしているのでしょうか?

服を縫ってくれる工場の職人やハードウェアを作ってくれる人たち、関わっているすべての人と、彼らの信条すべてがALYXにとって、とても大切な力になっている。誰のどんなプロジェクトであっても、コラボは重要な役割を担うと思う。外から見れば、誰かひとりがものを作り上げているように見えるかもしれないけど、ものづくりは供給プロセスのようなもの。コミュニケーションから製造まで、皆がプロジェクトを信じて関わるものなんだ。

──ハイキングブーツメーカーのRowaや、他にもDickie'sやAlphaなど、有名ブランドとコラボをしようと思い至った理由を教えてください。

最初に就いた仕事が製品管理だった。だから、僕にとってはすべてが製品ありき。今回は、最高度の製品を作りたいと思ったんだ。イタリアの工場でボマージャケットを作ろうと思ったら、そこでも魂を込めて製品を作りたい。かといって、"Alphaっぽいもの"やフェイクは作りたくない。それなら、Alphaと作ろうと。Dickie'sのシャツに使われている生地についても同じだよ。生産までよくこぎ着けたなと思うよ。

──本物を作りたいと?

そう。それこそがこのブランドのDNA。アイテムはどれも、これから何年もずっと着ることができるものばかりで、"今"という時に意味を持って何かを主張できる服だと思う。シャツはサンセット大通りにあるSuicidal Tendenciesのタトゥーショップからアイデアを得たんだ。僕が足首にSuicidal Tendenciesのタトゥーを入れた店なんだけど、そのショップではみんながそのシャツを着てるんだ。僕と妻のお気に入りの作品だよ。安物の生地でできているけど、着心地も良くて安価に抑えられる。僕の服を着たいと思っても、2,000ユーロのジャケットは買えないという人もいるはずで。だったら、100ユーロのシャツも作ればいいと思ったんだ。

──若手のファッションデザイナーたちへのアドバイスをお願いします。

自分の心に従うことと、自分の声を見つけるということかな。他人に自分を定義させちゃけない。だってさ、過去の作品を知ってる人たちは、誰も僕がALYXみたいなプロジェクトを手がけるとは思わなかったはずなんだ。でも僕はやってのけた。そこを評価されているんだと思う。他のチャンスもたくさんあったかもしれない。それまでやっていたことをそのまま続けると思っていた人も多かったかもね。だけど、それは僕の心の声に反することだったんだよ。心の声は今やっている"これ"をやれって言っていた。だからやったんだ。

──心の声に従ってコレクションを作り、今ではあなたはLVMHプライズのノミネートで最後の8人に選出されています。それについてはどう感じていますか?

あのプライズ自体が素晴らしいと思う。日の目を見ないかもしれない若いファッションデザイナーたちが、ああして承認してもらえるチャンスを与えられる場なわけだからね。エキスパートが若手の才能を認める、業界でも世界でも初のプライズだよ。エキスパート100人の投票によって決まるというプロセスも、公平だしね。エキスパートたちに作品を説明しなきゃならないんだけど、そりゃ素晴らしい感覚だよ。彼らとの会話や助言は何物にも代えがたい。

──それはブランドにどのようなインパクトを与えるのでしょうか?

もちろん、参加ブランドはいずれも違う環境にあって、なかにはメゾンで働いた経験があって業界のシステムを熟知しているデザイナーもいる。一方で、家でこつこつと服作りをしているような、生産の基盤が築けていないデザイナーもいるわけだよね。彼らと自分を比較することはできない。僕にとっては、エキスパートたちとの交流がもっとも大事だった。これから、僕のビジネスを可能なかぎり伸ばしていけるよう、彼らから学びたいね。

──"これから"といえば、あなたは『W Magazine』誌とのインタビューで、今後のシーズンでのショー開催にも意欲を見せていますね。

ニューヨークに移住したときは、Instagramはもちろん、カメラ付きの携帯電話すらなかった。ファッションショーは一部のひとたちが見て、それが話題として耳に入ってくるだけだった。みんな躍起になって会場にもぐりこもうとしたんだ——服がどうスタイリングされているのか、服がどんなふうに動くのかを生で見たい。会場の音楽を聴いて、会場を満たすエネルギーを生で感じたいってね。昔のシステムが正しかったというつもりはないけど、今また人々がファッションショーに熱狂するような状況をどうにか作れないか考えているんだ。それができているブランドもあるけど、決まったシステムがあってこその興奮というものは失われてしまった。自分にとって何が正しいのか——どんなプロセスが自分に適しているのかを、僕も探さないといけない。僕はエモーショナルな服を作っていきたいし、それをエモーショナルに伝えていきたい。自分のなかで答えが明確になるまで、ものづくりを続けるのみだね。

──ランウェイでのコレクション発表はALYXのゴールのひとつではあるのでしょうか?

そうとも限らないよ。ショーという概念に新たな形が生まれるかもしれないし、新たな発表の形が生まれるかもしれないだろう?

Credits


Text Tim Neugebauer
Images courtesy of Alyx and Nick Knight
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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