バンドの始め方 byビーチ・ベイビー

音楽の世界で生きていきたい? アルバム『No Mind No Money』を引っさげて華々しくデビューを果たしたビーチ・ベイビー。メンバーのオリー・パッシュが、2016年にバンド活動をして暮らすことのメリット/デメリットを語ってくれた。

by i-D Staff
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14 October 2016, 1:40am

ロンドン発の4人組バンド、ビーチ・ベイビー(Beach Baby)は、過去3年半にわたり、バンドそのものの形態はもちろんのこと、このバンド独自のサウンドを模索してきた。過去半世紀に世界で生まれた音楽から広く影響を受けた彼らは、レーベルIsland Recordsからデビューアルバム『No Mind No Money』をリリースし、これからアメリカツアーとヨーロッパツアーを予定している。彼らの音は、大学を卒業して、社会の荒波を前にまだ人生を知らない年頃の感情を絶妙に表現している。孤独や無気力、うまくいかない恋愛関係などを誠実に歌い上げた曲ばかりだ。音楽チャートでトップ40も目前の彼ら。ツアーについて、そして2016年にバンドとして生きることについて語ってくれた。ミュージシャンを夢見る者たちよ!昼間の仕事を辞めてもいいかどうかというところまで来た彼らの言葉を聞け!

「いまミュージシャンを目指している若者の多くは、幼い頃から自分の音楽を録音したり動画を撮影して、それをYouTubeにアップしたりはしてこなかっただろうし、現代文明を駆使することなんかできず、定期購読している『Mojo』だけが技術やセンスを磨くための唯一の先生だったはず。ネット上にある数え切れないほどの音楽コンテンツの迷宮をたどって音楽センスを磨くんじゃなく、父親が持つ数少ないLPを父親と何度も繰り返し聴いて育ったはず——僕みたいにね。

今の音楽業界は、カリスマ性がものをいう時代。ソフトなシンセサイザーと絶妙にプログラミングされたドラム、厖大な量のサンプリングで作り出された音楽に、エゴと虚像が溢れている。でもそんな世の中でも、ギターバンドの音楽は死んでなんかいない!ジョージ・ハリスンのギターフレーズをマスターしようと部屋にこもって練習した日々は無駄にならない。いつかきっと、あの日々があってこその作品ができる。ここに、僕の『2016年版バンドとして生きるガイド』を披露しよう。

お金
「まず取り組むべきは、お金のこと。時間と労力の対価としてお金をくれる仕事を持った方がいい。音楽キャリアと真逆をいくアドバイスのように思われるかもしれないけど、理不尽な仕事は避けられないからね。時給7ポンドで、手袋もせずバターシー・テムズ・パスの植物を世話しなきゃならないような仕事に就いたとしても、落ち着いて、ただ自分に「ミック・ジャガーだってペットショップでアルバイトしてたんだから」って言い聞かせるんだ。
品位を傷つけられることなく高給で、かつツアーに出なきゃいけない事情なんかも理解してくれるような仕事があれば、もちろんそれが理想的。僕は、園芸とかウェイターとか、引越し屋の仕事がしっくりくるかな。華やかとは言い難い仕事だけど、それほどのスキルも必要としないから僕に合ってる。僕が持ってる唯一の特技なんて、ビートルズの曲の冒頭を2秒聴いただけですべてどの曲か言い当てられるぐらいのものしかないからね。想像力を使って仕事をするといい。うちのバンドのひとりは、女性向け大衆小説(タイトルは明かさないよ)のゴーストライターをやっていたし、もうひとりはイギリス国営医療サービス事業の精神科部門で働いてたよ。ロックスターになるための前段階では、仕事なんか選べない。世の中には怪しい仕事がたくさんあるけど、そんなものでもやらなきゃいけないときがあるんだ」

運転
「僕は運転免許を持っていないんだ。頑張らなかったからじゃなく、どちらかというと運転試験への病的な恐怖感があって、試験に5回も落ちたんだ。だから、ここで言うことには矛盾が生じる。それを覚悟で言う。
誰もが知るところだと思うけど、バンドと車のあいだには誰にも入り込む余地のない関係があって、それは時間という概念が生まれる前から存在する愛憎関係なんだ。テレビ番組『フレンズ』のロスとレイチェルみたいな関係で、喧嘩ばかりしてるけど最後には落ち着くところに落ち着く。バンドのメンバーたちと良好な関係を保ちたいと思うなら、何十時間何百時間っていう移動時間を、"運転すること"で貢献するところから始めるといい。
僕のように運転で貢献ができないなら、助手席での貢献もまたひとつの手。そこで求められるのはとてもシンプル——「寝るな」ということだね。それと、データ通信のプランは、それなりのものにしておかなきゃならない。月2GBのプランじゃ、キングストン・アポン・ハルのクラブAdelphiに着くまでひと晩Googleマップを使っただけで規定通信量を超えてしまうからね。長距離移動の車内で楽しめるゲームをひとつやふたつ知っていれば、なおいい。僕たちは「セレブリティ・フィルム・テニス」っていうゲームを車中でよくやるんだけど、これは良い時間つぶしになる。ルールは至って簡単で、まず男優や女優をひとり挙げて、その俳優が出演した映画のタイトルを、ラリー形式で言っていくというもの。これ、ラリーを続けていくうちに、人の脳の暗い奥底に眠る記憶が呼び起こされて、強烈なバックハンドが繰り出されたりするんだ。たとえば、ジョニー・デップが90年代中期に友情出演した『夜になるまえに』が頭をかすめたり……このことはどうしても言いたかったんだ!これを思い出してゲームに勝ったのがあまりにも嬉しかったから!」

ライブ
「見に行くべきだよ!多くのライブを生で見てこなかったことは、僕がずっと後悔してること。でもね、『お前のためにマイクをセットするのに3秒費やすぐらいなら、いっそのことアンプを焼いてしまいたい』とでも言いたげなエンジニアにサウンドチェックで小突き回されながら暗いスペースを行ったり来たりしなきゃいけないプロの生活を送っていると、わざわざ火曜の夜、雨の中をシェパーズブッシュのライブハウスGinglikまで行くなんて考えただけで萎えちゃうってものなんだ。まず、もとは公衆便所だった場所をライブハウスにしようなんて考え自体が正気の沙汰じゃない。それでも、やっぱり楽しめることはあるし、行けば学べることもある。他のミュージシャンに出会えたりもするし、楽しい話が聞けたりすることも、演奏のコツを教えあったりできるときもある。ときには本当に心でつながれる人に出会えたりもして、ちょうどスケジュールが空いていてノースサーキュラー北部環状線ツアーに同行してくれるキーボーディストに出会えたりすることもあるからね!それでもまだ腰が重いというなら、アーティストの発掘を目的にライブ会場に来てるレコード会社関係者がいるってことを考えてみるといい。デビューアルバムでダブルLPを出せる話が舞い込むかもしれないよ。まあ真面目な話、やっぱり自分のヒーロー的存在のアーティストが生でパフォーマンスするところは絶対に見ておいたほうがいい。そのアーティストが、君に曲を書いてみたいと思わせてくれた原点なんだからね」

趣味
「eBayって知ってる?知らないなら、君たち引きこもりミュージシャンに、eBayっていう不毛の極みを紹介するよ。eBayなんかにハマってるミュージシャンがいたら、そいつにひとつアドバイスをしたい。ペットでも趣味でも恋人でもなんでもいいから、家から君を引きずり出してくれる存在を見つけるべきだ。70年代ヴィンテージのユニヴォックス・ハイフライヤーが映ってるパソコン画面から引き剥がしてくれる存在を見つけるべきだよ。ユニヴォックス・ハイフライヤーがいけないっていってるわけじゃない。あの時代に作られた楽器としてはもちろん価値が高いものだし。でも、そんじょそこらのミュージシャンが手に入れられる価格ではないし、なにより同棲してる彼女と結んだ「もうギターは買わない」っていう約束にも反する。個人的には犬の散歩がすべての問題の解決になるような気がするよ。僕のPayPalアカウントが健全な状態に保たれるし、『カシオトーン入札終了までの残り時間○○分』っていうあの表示で昂った神経を鎮めてくれるから!」


「とにかく書き続けること!ミュージシャンにとって、曲に代わるものはないんだから!スキルと才能、そして自分の曲を書いてレコーディングできる環境を与えられるということは、ミュージシャンにとって幸運以外のなにものでもない。誰にも奪わせてはいけないものだ。バンドのメンバーたちの音をよく聴いて、自分が書きたい音楽を曲にするんだ。もし君がやらなければ、もっと音楽に情熱を傾けた他の誰かが君の機会を横から奪うはず。音楽に傾ける情熱と、その精神を持ち続けることこそが、成功するのに最も重要なことだと思う。そんな情熱やモチベーションが薄れてきてしまったら、必死でギターを練習した実家のベッドルームに戻って、原点に立ち返ってみるべき時なんだと思う」

Credits


Text Ollie Pash
Photography Lily Rose Thomas
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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