男のビューティ革命

「男であること」の定義は、近年になり曖昧さを増している。男性にもメイクのトレンドが現れはじめた今、「真の男性性とは何か」という議論は今後ますます盛んになっていくだろう。メイクが自己表現の方法として確立されつつあるビューティの今に迫った。

by Maks Fus-Mickiewicz
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21 November 2018, 3:42am

男性が肌の保湿をするなんて、10年前であれば「それは女がするもの」と笑われたものだ。しかし、今は違う。まったく新しい流れが生まれ初めている。新しい男の美を体現する男性——美しさを際立てる方法ではなく、メイクアップを自己表現の方法として使うことも厭わない、そんな男性たちが台頭してきている。

日本では、髪を染め、カラコンやネイル、メイクアップなど様々な方法を用いる「ジェンダレス系」などのトレンドが主に若い男性の間に生まれている。そしてネットの世界には、現在16歳のルッキング・フォー・ルイス(Looking for Lewys)や17歳のバービーガッツ(BarbieGutz)など、数千人というフォロワー数を誇り、ビューティの世界にフレッシュで実験的なアプローチで挑むカリスマたちがいる。

男性ビューティの市場も急成長を見せており、メインストリーム化が進んでいる。Tom Ford BeautyのコンシーラーからCliniqueのディープクレンジング用ソニックブラシまで広く扱うMrPorter.comでは、2015年の男性ビューティ商品とグルーミング商品の売上が前年比で300%の成長を記録したという。また中国では、2010年以降、男性用化粧品の売上が20%も増えているそうだ。

男性ビューティは、もはやタブーではなくなっている——それを取り巻く状況に変化が訪れているのだ。そこには革新という大きな可能性を秘めた市場がある。InstagramやYouTubeといったプラットフォームが世界の数百万というユーザーをつないでいる今、希少と思われがちなこの美的感覚が、特にジェネレーションZ世代で普通のものとなってきている。

「メイクをする男の子というのはこれまでもいたんです。アンダーグラウンドだっただけでね」と、デザイナーのマティ・ボヴァン(Matty Bovan)は言う。ボヴァン自身も、保湿剤からコンシーラー、アイシャドウプライマー、シャドウ、カラフルなマスカラ、チーク、口紅、そして一風変わったビューティスポットを日常的に使用しているひとりだ。「今は誰でもスマホで写真を撮ってネットにアップできるでしょ。自分がやることで、見る人をインスパイアできる。それはとてもポジティブなこと」

この動きはメイクだけにとどまらない。メイクを楽しむ男性の多くは、デコやカワイイ系文化を取り入れることで、メイクを次なるレベルへと高めている。ジェイコブ・カシミール(Jakob Kasimir)はベルリンで写真の勉強をしていたが、彼に「撮りたい」と思わせてくれるような、"クレージー"な男性モデルを見つけることができず、不満を募らせていた。そこで彼は、自分自身が作品のモデルになれば良いのだと思い至った。それが、今や"インスタセレブ"の、キャンディ・ケン(Candy Ken)だ。ピンクのコンタクトにカラフルな眉が特徴で、キティーちゃんの世界観に生きるラッパー——これに、ニコラ・フォルミケッティ、そしてもちろん、ジェレミー・スコットが飛びついた。

「インターネットではみんな、自分というものを隠しておけない。そんな環境のもと、日々多様な人びとに触れることで、みんながよりオープンな心を育むことができるんだ」とキャンディ・ケンは説明する。「メイクが好きな男性はいつの時代にもいたと思うけど、自分を表現するためのメイクとなると、それができないというひとが多かったと思う。Instagramをはじめとするソーシャルメディアの登場は、僕たちのような人間がメイクを心から楽しむことができる機会を与えてくれた。それと同時に、自分と同じような情熱を持っているひとがたくさんいるんだということも教えてくれた。そんな状況に多くのひとが救われ、かつそういった情熱を持っている人たちに活気を与えているんだ」

ボヴァンもキャンディ・ケンも、道を歩けば訝しがられたりからかわれたりはするそうだ。しかし、世界的なブランドの数々は彼らを高く評価している。世の中の偏見に屈することなく男性メイクを自己表現の手段として取り入れてきた先人たちのおかげで、今、多くのブランドが、男性用ビューティ商品の新たなラインを開発したり、発信するメッセージの見直しを図っている。

例えばMACは、ニューヨークで最新トレンドを作り出しているピーター・ブラント(Peter Brant)とハリー・ブラント(Harry Brant)を起用して、ニュートラル・シャドウからコンシーラー、リップステイン、コントゥアリング・ブラシなど、新たな商品ラインを開発した。「"すべての年齢、すべての人種、すべての性別に"が私たちのモットーです」と、MACのグローバル・ブランド部長、カレン・バグリシ=ワイラー(Karen Buglisi-Weiler)はi-Dに説明した。

MACはまた、「トランスジェンダーの人々により良い人生を」という信条のもと、トランスジェンダーが日々直面する問題を追ったドキュメンタリーのプロモーション支援から基金活動にいたるまで、積極的な人権活動を展開している。ケイトリン・ジェンナーと生み出したスペシャルエディションのリップスティックは「Finally Free(やっと自由に)」という商品名で発売され、その収益は全額がMAC AIDS Fundsのトランスジェンダーイニシアチブに寄付されている。

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Matty Bovan

「"男らしさ"と"女らしさ"の定義、そしてそこに生まれてしまう境界線を問い、なくしていくこと。それが私たちの活動の根幹です」とMACのアーティストリー部門コスメティックディレクターのテリー・バーバー(Terry Barber)は説明する。彼はまた、今シーズン、メンズのロンドンコレクションでジェンダーの中性がトレンドになってきていると話す。

SiblingやJ.W. Anderson、Charles Jefferyは、メンズとウィメンズの作品をミックスしたショーを行ったり、従来の"男らしさ"と"女性らしさ"の概念を無視した服作りをすることで、男性も女性も合わせてジェンダーをひとつの美として表現した。「深い眉と汚れた目周り、赤みを帯びた肌など、ジェンダーを融合した新しい世界観がそこにはあった」とバーバーは言う。「綺麗な男もハンサムな女も、あっていいんです」

ということは、女性のマーケットにこそ次なる男性ビューティのトレンドがあるのかもしれない。女性のビューティ市場では、先進的なインフルエンサーたちの影響もあり、"完璧なメイク"などという概念はもはや古いものとなっている。メイクにおける"完璧さ"にかわる重要な概念として、いま台頭してきているのが、"自己表現"という考え方だ。「メイクは、スキンジュエリーとしての役割や、その時限りのタトゥーのような役割を果たすものとして考えられるようになってきている」とバーバーは言う。「ただ目やまつげ、リップに化粧をほどこすというのは従来の女性的アプローチ。そこへきてメイクで装飾をするというアプローチは、ジェンダレスで表現的でしょう?」

蛍光色のアイシャドウはさすがに難易度が高いが、それでも、男が自らの顔を"描く"ことが普通の趣味となるときが来るなどと、誰が想像しただろう?

メイクアップアーティストであり人気ビューティYouTuberであるジョーダン・リバティ(Jordan Liberty)は、ラインストーンとメイクを使って顔を美しいスカルへと変貌させる方法や、ローズカラーのスモーキーアイの描き方を動画で大人気となった人物。彼自身も、自らの顔にメイクをほどこしていた時期があったという。

「中学生のときにコンシーラーと出会ったんだ。にきびに悩まされ続けた忌々しい年頃にね」とリバティーは言い、コンシーラーがあったからこそ自分に自信が持てたのだと説明する。「YouTubeにアップしているビデオではそれなりにメイクをしているけど、実生活ではほとんどしない。でも完全なスッピンで外に出ることは絶対にない」

リバティ曰く、現在、メイクやグルーミング(身づくろい)に興味を持つストレート男性が増えているのだそうだ。「素晴らしいことだよね。男性が"男であること"への自問に悩むことなく、古典的な"男らしさ"の概念から脱却できているんだから。自己表現というのは、もはや"女々しい"男の子たちのためのものじゃない。みんなのためのものになりつつあるんだ」

しかし、ビューティに興味を持つ男性たちにはまだ心配事が残されている。「"この目の色やスキンカラー、洋服に合う'ベスト'なカラーは?"って訊かれることが多いんだけど」とリバティは言う。そんな質問へのアドバイスは?「正直なところ、メイクって90%は個性で、残りの10%はメイクをどう施すかにかかっているんだ思う」

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Genking via Instagram.

日本の保守的ブランドである資生堂ですら、ジェネレーションZをターゲットとした『High School Girl?』キャンペーンを展開し始めた。ネタバレになってしまうが、このキャンペーンでは、ジェンダーの境界線を問うような動画が製作・公開されている。可愛い女子高生たちが集う教室へと女教師が入ると——映像が逆再生され、それら可愛い女子高生たちが実はメイクやウィッグを施した男の子たちだった、という動画だ。

これは、長きにわたり「石鹸と水だけで十分」というマインドであり続けた男性のビューティ観に、大きな変化が訪れていることを如実に物語っている。もうメイクは女性的なものとすら見られていないのだ。

「今は、"反対のジェンダーをターゲットとして従来の製品をアピールしていくか、それとももともとジェンダーを問わない製品をアピールしていくか"という時代。資生堂も、この時代の変化はもちろん感じています」とShiseido Menの製品部長、岡村倫太郎氏は言う。「私たちはこれを、単にコスメの分野で起こっている消費者トレンドだとは思っていません。社会的な大きなシフトにおける小さな一部分であると思っています」

岡村氏は、ここ10年でファッションに興味を示す男性が急増した世界的トレンドや、社会における女性の台頭についても語っている。「より多くの女性に囲まれて生活することで、男性は自らの容姿への興味が湧いてくるわけです」と岡村は説明する。「"女性がパートナーを選ぶ"という局面も急増していますから、男性は魅力的であろうといっそうの努力をしなくてはならないわけです」

メイクを試してみたいというストレート男性が増えているという現状は、そこに新たな"男らしさ"や"男であるということ"の概念の台頭を示している。もしくは、芸術性が祝福され、"シワも魅力"という男のおごりは古いものとされて、自己表現が皆に受け入れられる、真にジェンダレスな未来がそこにあることを示しているのかもしれない。

「自分がなりたい自分になれるということ」とキャンディ・ケンは言う。「力がみなぎるような、美しく楽しい時代。毎日同じルックスなんて退屈すぎるでしょ!」

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Credits


Text Maks Fus-Mickiewicz
Photography Benjamin Ehrenberg
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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