mars89 Photography by Shiori Ikeno

パリコレデビュー、トム・ヨークと共演。mars89に訪れたドリームストーリー

UNDERCOVER 2019-20 AWコレクションの音楽を担当したマルチな音楽アーティストMars89。社会と音楽を繋げるミュージシャンの身に起きたドリームストーリーとは。

by Saki yamada; photos by Shiori Ikeno
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14 February 2019, 10:44am

mars89 Photography by Shiori Ikeno

Mars89が突如日本の音楽シーンを騒がせた。「フィーリングが合う人のレーベルから出しているだけ」、そう語るMars89が2018年9月にイギリス・ブリストルのレーベルBokeh VersionsからセカンドEP「End of the Death」をリリース。このEPを皮切りに多くのクリエイターを虜にするUNDERCOVERのコレクション音楽の制作が決定、エレクトロミュージックの名門レーベルWarpがプレイリストでピックアップ、さらにはトム・ヨークのプレイリストにも抜擢されるなど、ミュージシャンにとって夢のような出来事が次々と彼の身に起きた。

ブリストルのインディペンデントラジオ「Noods Radio」でも番組を持つなどDJ、プロデューサー、パーソナリティとして自分の信念と好きなものを曲げずに活動してきたMars89に、音楽に対するスタンスや誰もが羨むドリームストーリーについて聞いた。

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── Mars89の好きな世界観と言えばディストピア小説やホラー映画などダークな雰囲気を纏っているイメージがあります。そういうものを好きになったキッカケはありますか?
「どうして暗いなものが好きなのかは分からないけど、反逆者の物語が好きなのかも。そういえば両親がクリスチャンだったり仏教系の幼稚園に通ったりと、何かと宗教との接点が多かった気がする。いわゆる反抗期も反抗の対象が親じゃなくて宗教だった。それもあって宗教や哲学書を読むようになって、ブッダやキリストが当時その土地を支配していた権力やルールに反抗した人、つまり反逆者だったって知った。みんなが当たり前だと思ってたルールとかに意を唱えて弱者のために立ち上がったキリストやブッダのスタンスはすごく好き。だけど、その後についてくる宗教っていうのは今じゃ本人の意思とはかけ離れすぎてる感じがして、違うなと思うようになった。ダークな雰囲気が好きな理由の回答にはなってないよね。いわゆる中二病的な感じかな(笑)」

── そういった反逆精神は自身の音楽活動にも影響を与えていますか?
「自分の場合、レベルミュージック(=社会権力に抵抗する音楽)としてやってる部分がある。パンクとかレゲエ、HIPHOPなんかを聴いて育ったってのもあるし。社会とか権力、圧力みたいなものと戦うための音楽ってのを意識してる部分もあるし、自分にとって音楽やカルチャーは社会と一直線になってるから、自分を取り巻く社会や政治が悪くなっていくほど音は激しくなっていくかも」

── レベルミュージックの中で好きなアーティストは?
「例えば80年代の日本のパンクとかすごい好きなんだけど、JAGATARAっていうバンドが歌詞やスタンス、スタイル込みで大好き。JAGATARAが活動してた80年代ってバブルだったし経済上向いてるっぽいみたいなところがあったと思うんだよね。で、いわゆる今でいうシティポップっぽい音楽って沢山生まれたじゃん。ちょっとドリーミーでバブリーでキザな感じ。そういう時代の中でJAGATARAの音楽ってもっとワーキングクラスっぽくて、みんな景気良いって言ってるけど自分のところまでは全然回ってこないし、正直どうなの?みたいな感じがあったんじゃないかなって気がする。歌詞とかも目線がすごくストリートでかっこいい。僕の場合は歌詞とかないけど、権力と戦ってる人たちの原動力になるような、それをBGMにしながら戦いに行くぐらいの曲が作れたらなって感じもある」

── JAGATARAは1982年にアルバム『南蛮渡来』を発売しているんですね。Mars89とSuiminが2人で主催しているオルタナティブなパーティ『南蛮渡来』の由来はここから?
「そう。本来の貿易的な意味とアルバムタイトルと両方。クラブで流れる音楽といえばUSかUKの曲って感じだった頃にそれ以外のエリア、主にアフリカや中南米、カリブの音楽をUSやUKの曲と同等に扱おうってコンセプトのパーティーとして始まって、今はジャンルって枠組みからはみ出た突然変異的なサウンドにフォーカスしてる。ある意味反逆的なのかな」

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── Bokeh Versionsからリリースした最新EP「End of the Death」は全体的に音がドライでパワフルな印象がありました。
「最近”チル”って価値観と共にドリーミーでフワフワした感じが流行ってた気がする。僕は安っぽい現実逃避みたいなのが苦手というか嫌いで、現実を突きつけるような感じが欲しかった。現実逃避してる人が沢山いると権力者にとって有利だから、出来ることをやらずにチルばっかりしてるのは好きじゃない。ミュージシャンでも現実逃避のための音楽を作ってる人は多いと思うし、現実逃避をしなきゃいけないということ自体が現実の状態を物語ってると思うんだけど、僕はもっと現実感がある感じというか、現実としっかり向き合う助けになるようなものを作りたい」

── EPの1曲目「End of the Death」で使っている声のサンプル「6 millions ways to die. Choose one(600万通りの死に様がある。一つ選べ)」はまさに現実を突き付けた感じがします。
「あれは有名なレゲエシンガーのカッティ・ランクスのネタ。あのパワーが欲しくて、でもすごい大ネタだからサンプリングするか迷った。結局使っちゃったんだけど」

── 現在、その反逆心はどこに向いていますか?
「政治も社会もクソなのに、気が付かない、というか目も耳も閉ざした人が多い。さっきみたいに現実逃避してる奴らが夢の世界にいる間に、権力持ってる奴らが次々自分たちに有利なように進めていっちゃうでしょ。現実逃避中の奴らの目が覚めた頃には、かなりやばい状況になってるかもしれないっていう焦りもある。社会ってものがあるはずなのに人は内向きに孤立してて、政治と市民もすごく離れてる。片っ端から胸倉つかんで起きろ!周りを見ろ!って言いたくなる(笑)。お昼にローカルな定食屋とか行くと、店のテレビで論点のおかしいニュースとかゴシップネタがセンセーショナルに流れてて、それを食い入るように見てる人たちがいるからやばいなって思う」

── DJを始めてから約10年、ダンスミュージックシーンにどのような変化があったと思いますか?
「僕がクラブに行き始めた頃ってキツネ・メゾンのコンピレーションとかが流行ってて、パーティもニューウェーヴっぽいフレンチエレクトロが主流だったらから、オシャレしてる人しかクラブにいないぐらいな感じだったけど、その後インターネットミュージックの反逆があってオタクっぽい人が多くなってファッションも好きな人がクラブから激減した。ファッションも音楽もアートも全部カルチャーだから、今はもっといろんなタイプの人が関係なく一緒に楽しめる空間になって欲しいなって思うし、その波は今バッチリ来てると思う」

── そうしたらUNDERCOVERのショー音楽は良い機会だったんですね。
「デザイナーのジョニオさんも80年代のパンクとか好きで、嗜好が似てるみたいだった。たぶん僕が好きな音楽をジョニオさんの世代はリアルタイムで楽しんでたんだと思う。半年前には全然面識もなかったんだけど、リリースしたEPを聴いてくれて、クラブにも遊びに来てくれた。Contactでやってた『解体新書』っていうパーティでDJしたときに。そこで初めて会って連絡先を交換して、オススメの映画を教えてもらったりしてたら、ショーの音楽興味ある?って連絡をもらった」

── 制作はどのように進めましたか?
「声をかけてもらった段階でコンセプトは映画『時計仕掛けのオレンジ』で、絵型もあって、会場も決まってた。キューブリックって基本的にクラシックしか使わないから『時計仕掛けのオレンジ』のサントラを自分なりのサウンドで作り直そうって思って作った。テーマ曲と主人公のアレックスが好きなベートーヴェンの第九番をサントラから引用して、合間を映画のストーリーに合わせて埋めていく感じ。あの映画に漂う暴力性とか狂気みたいなところをノイズやインダストリアルな音で表現した」

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── 今回、コレクションの現場に行って何か思ったことはありますか?
「ファッションだけじゃなくて、音楽や演出も含めてレビューできるメディアがあったら面白いなって思った。今まで見に行く機会があまりなかったから写真しか見てなかったけど、実際には写真の向こう側にものすごい世界が広がってたから、そこを取り上げないのはもったいないと思う。バンドが生でライブしたり演出が素晴らしかったショーもあれば、音楽とファッションがミスマッチだったってショーもあるんだけど、ファッションメディアは服やスタイリングの話だけだし、かと言って音楽メディアはショーに行かない。だからトータルでレビューできたほうが面白いんじゃないかなって思う。ブランドが持ってるトータルの世界観っていうのをもっと大事にすることによって、音楽の側にもファッションの側にも影響や発見があるんじゃないかな」

── UNDERCOVERのショーにはトム・ヨークも遊びに来たんですよね。さらにヴァージル・アブロ主催のパーティ「Sound Design」ではZomby、ロー・ジャック、Benji Bなど名だたるDJと共演、まさに夢のような時間だったと思います。
「ショーが終わった後、バックステージでジャイルス・ピーターソンやトム・ヨークに曲を褒めてもらったのは本当に嬉しかった。そのあと蕎麦屋で打ち上げがあったんだけど、そこでの2人からの質問が、あのシーンのあのサウンドに使ったディストーションはなんてプラグイン?みたいなのばっかりで2人とも少年みたいなところがあってリラックスして接することができた。翌日にConcrete Parisでやったパーティーもすごく盛り上がってDJしてて楽しかったよ。DJ中にいろんな人がブースに入ってきて肩組まれたりハグされたりした気がする。ホテルに戻って鏡を見たら首にでかいキスマークが付いてた(笑)」

── 今後のヴィジョンは何ですか?
「ひたすらその時に自分が面白いと思うことをやる。音楽制作に関して言うと、ショーの音楽を作ってすごく楽しかったし、映画のサントラとか舞台とか何か雰囲気を求められる場面の音楽をやりたい。DJとしてダンスミュージックで今の今の今興味があるのは、プリミティブなパーカッションが入ってる冷たい音楽。Nkisiっていうアーティストの世界観にすごくハマってるんだけど、彼女の音楽はダークでトランシーなレイヴサウンドにインダストリアル要素が少し混ざって、そこにプリミティブなパーカッションが入ってる。僕が最初サウスアフリカのゴムにハマったのも、今まで聴いてたアフロミュージックって太陽、大地、みたいな暖かい雰囲気が多かったけど、そこに現れた荒々しさ、冷たさみたいなものがすごく衝撃的でストリートを感じた。ああいう感じにはずっと興味があると思う。やっぱり暗いのが好きなのかも(笑)」

https://soundcloud.com/mars89

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