Photography Mitchell Sams 

未知なるファッションへの旅:Louis Vuitton 19SS

二コラ・ジェスキエールが、ロケットの旅でパリ・ファッションウィークを締めくくった。

by Osman Ahmed; translated by Nozomi Otaki
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okt 11 2018, 7:49am

Photography Mitchell Sams 

2019年のパワーファッションとは、一体どんなものか? Louis Vuittonの2019年春夏コレクションで、ニコラ・ジェスキエールは、この問いを前面に押し出した。刺激的、魅惑的、革新的としかいいようがない本コレクションを、ジェスキエール自身は「エンパワーする」と言い表している。しかし、この表現では力不足だ。なぜなら、「エンパワー」という言葉はマーケティングや広告業界で散々使い回されており、権利を剥奪された女性を〈エンパワー〉できそうにない商品の、単なるキャッチコピーに成り下がったからだ。

ファッションは自らの役割を心得てしかるべきだ。しかし、ジェスキエールが発表した最新コレクションは、問題意識が高く自信に溢れたクールな女性が夢でも現実でも着たがるであろう服を、力強く提案した。つまり、まごうことなき最高のファッションだ。

ジェスキエールのショーは、パリ・ファッションウィークを華々しく締めくくった。舞台はルーブル美術館のロココ調の噴水を突っ切る、ストロボが照らす殺風景なトンネル。打ち上げ準備に入ったロケットのなかに足を踏み入れたかのようだ。ルック自体にも、火を噴き出す宇宙船、火星のようなカリウムの湖(実際はソルトレークシティーでドローンが撮影した写真)、未知なる宇宙の旅を連想させる工業的な風景のコラージュなど、様々な宇宙のモチーフがあしらわれていた。おそらくジェスキエールは、地球滅亡後に私たちが移住せざるを得なくなった星を表現したのだろう。もしくは、デザイナー集団〈メンフィス〉スタイルのカラフルな80年代風プリントを通して、レトロ・フューチャリズムへの愛を掘り下げただけかもしれない。

ショーのなかでとりわけ目を引いたのは、多くの観客が男性と見間違えた中性的なモデルがまとう、立体的で幅広の襟の折り紙のようなスーツ(メンズコレクションのディレクター、ヴァージルもうかうかしていられない)、そしてシャープなシルエットを際立たせる、大きく膨らんだスリーブだ。スリーブはこのコレクションのひとつの見どころで、ルネサンス時代を思わせる格子編みのスパンコール、細かなパイピングの入ったボリューミーなシフォンスリーブ、クラゲのようなフリル、ナイフプリーツなどがルックを引き立てた。「これは鎧ではありません」。ショーのあと、ケイト・ブランシェットやアリシア・ヴィキャンデルなどのセレブに囲まれたジェスキエールは、このように説明した。「鎧というより殻に近いです。もちろん、身体を守ることに変わりはありませんが」

立体的なジャケットやコクーンコートは、一見レザーのような質感だが、実は両面接着のラバーでできている。ヴィトンを象徴する固くて重いレザーに代わる軽い素材だ。「服にパワフルなかたちを取り入れたかったんです。服の構造に動きや流動性を持たせるのにいつも苦労しますが、このふたつは身につけるうえでとても大切な要素です」とジェスキエール。大人気の〈プティット・マル〉のハンドバッグも、ルービックキューブ風の箱型のバッグや、より大きなブリーフケースとして生まれ変わった。さらに、ジェスキエールが手がけたBalenciaga2008年春夏コレクションの武士の兜のような帽子を彷彿とさせるハットも登場した。この2008年の帽子は、1967年のクリストバル・バレンシアガによる未来的なウェディングヴェールから着想を得ている。

今季のヴィトンは、ファッションの未来へ向かうロケットを操縦するのは自分だ、というジェスキエールの宣言を体現しているかのようだった。ここ数年、そして今もなお不安の種がつきない業界に、彼が放った会心の一撃だ。ストリートウェアの台頭によるものづくりの衰退、相次ぐクリエイティブ・ディレクターの退任、エディターを脅かすインフルエンサー、創造性を押し退けるブランディング。ジェスキエールは、このような問題とは無縁なデザイナーであり続けている。常に時代へのアンテナを張りめぐらし、揺るぎないヴィジョンを抱き続ける彼は、デザイナーのなかのデザイナーだ。今年春にはヴィトンとの契約を更新したので、しばらく退任の心配はなさそうだ。ジェスキエールは、これからも未知の世界へと私たちを導いてくれるだろう。

This article originally appeared on i-D UK.