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      film Takako Sunaga 7 November, 2016

      杉咲花、表現することを止められない

      杉咲花の芝居の魅力は、エモーショナルでみずみずしくてパワフルな芝居である。ときに大きな負荷を伴うそのスタイルと、自分を支えてくれる存在について、最新作のテーマを交えて語る。

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      『湯を沸かすほどの熱い愛』を試写室で観た帰り道、泣き疲れた脳に何度もこだましたのは、幸野家の長女・安澄を演じた杉咲花が、宮沢りえ演じる母親の双葉を「おかあちゃん」と呼ぶ声だった。このシンプルな一言に、安澄の喜び、哀しみはもちろん、怒り・安心・幸せ・焦りなど、さまざまな感情を込める杉咲の表現力には誰もが圧倒されるだろう。杉咲は、NHK朝の連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で演じた三姉妹の末っ子役や、美味しそうに中華料理を食べるCook DoのCMなど、健やかに育った娘キャラの印象が強い。それも彼女の魅力のひとつだが、映画作品で彼女はまた違った顔を見せる。2015年の『トイレのピエタ』でも『湯を沸かすほどの熱い愛』でも、大切な人を亡くす女子高生役を、小さな体からエネルギーを暴発させて演じている。「私はまだ、身近で大切な人を亡くしたことがないので、この2本の作品に出て"もしも母親が死んだらどうしよう……"と、ものすごく考えるようになりました。怖くて眠れなくなったりもします。でも、考えないよりも考えたほうがいろいろなことを大事にできるから、いいことなんだろうなと思ってます」

      母親の双葉を演じる宮沢りえを「おかあちゃんは本当に素敵な人でした。撮影に入る前に、『何回やっても大丈夫だから。私に気を使わず、何回でもやってね』って言葉をかけてくださったんです」と振り返る。確かにこの言葉には、杉咲の芝居の性質と安澄という役をかけ合わせたときに生じる試練を想像した宮沢からの、最大限の思いやりが込められている。なぜなら先述したように、杉咲の芝居は桁外れにエモーショナルなところが魅力である。技術ではなく、役柄にのめり込んで感情を表現するため、きっちりと同じ芝居を繰り返すことはほぼ不可能だ。「何度も同じ芝居をやれたらいいなと思うんですけど、なかなか難しくて……。カメラが私だけを撮ってるときも、おかあちゃんは何回だって同じ芝居をしてくれて、何度も助けてくれました」。撮影を進めていくにつれ、中野量太監督は安澄のシーンに関してはテストをやらずに、いきなり本番のカメラを回すようになっていったという。「ありがたかったです。でも、そうしてもらったのに1回で決められなかったこともあって、自分の力不足を実感しました」

      幸野家に関わる人に、双葉が愛を伝えていく様子が『湯を沸かすほどの熱い愛』にはあふれている。例えば、双葉と安澄がドライブ途中にヒッチハイクをしている青年(松坂桃李)と出会い、双葉が彼をハグするシーン。それまで見えない鎧で武装していた青年は、一瞬にして鎧をハラハラと脱ぎ去るのである。人と人が触れ合うことの大切さと底力を見せつけられた。「自分の実人生では、照れくさくて、なかなかできないので、素直に人と触れ合える関係ってとても素敵だと思います。私は安澄が、いじめっ子たちに隠された制服を取り返して、それを着て家に帰って、おかあちゃんに抱きつくシーンがすごく好きです」

      INNER KNIT AND KNIT CARDIGAN MIUMIU.

      肌と肌の触れ合いにかぎらず、ものを通したぬくもりも、この映画からは伝わってくる。「学校に行きたくない」とごねる安澄に双葉が「ハンカチ持った?」と聞き、「持ってない」という安澄に自分のハンカチを手渡す。ハンカチというよりもハンカチーフといったほうがしっくりくるフワフワとした美しい布を、教室の自分の机に広げて、顔を埋める安澄。あのとき、安澄は1枚の布から伝わる母親の香りから勇気をもらい、なんとか世界と戦っていたのだと思う。「匂い、嗅いでました!」と笑顔を見せながら、杉咲は、ハンカチを机の上に広げるアイデアは、彼女から監督に提案したと教えてくれた。「"この方がよくなるかな"と思いついたら、提案したりもします」

      彼女は作品づくりにのめり込むと、「こうしたい」「ああしたい」という思いを止められなくなってしまうときがあるという。「映画のようにみんなでひとつの作品を作り上げる過程が大好きです。ひとりで絵を描くことも、写真を撮ることも好きです。朝から仕事があるのに部屋の模様替えを始めてしまって、明け方まで止められなくて後悔したり、絵を描き始めると完成するまで水も飲まなかったりします。自分が納得するまで没頭して出し切りたいのかもしれない。それは、ひとりでやっている限り問題ないんですけど、大勢が関わっている作品のときは、私が"もっともっと"と追求することが必ずしもプラスではないので、難しいです」

      スマホに保存してある彼女が描いたアクリル画は、無心になって絵の具を塗り重ねていることが明らかな、色彩豊かな抽象画だった。3時間くらいで一気に描き上げた作品は、誰に見せるわけでもなく、部屋の隅に放置されているという。「人に見せたいとかは、考えないです。自分が描きたいから描いて、スッキリして、終わり」というものづくりの姿勢は、彼女の一球入魂の芝居のスタイルにも共通する。インタビュー中も、周囲の雑音に一切左右されることなく、質問に対して集中して言葉を紡ぐ。本人は「すぐに切れてしまうんですけど」と恥ずかしそうに笑うが、恐るべき集中力の持ち主であることは間違いない。

      今年の春に高校を卒業し、「自分にはこれしかできないから」と、女優業に専念し始めた彼女はさっそく朝ドラの現場に入り、半年以上かけてひとつの作品を撮り終えた。これは、短期集中型の彼女にとって、貴重な経験だったという。「高畑充希さんをはじめ、みなさんと本当に仲良くなれました。でも、ハイペースでどんどん撮影していきますし、毎日同じ場所で過ごしていると疲れてくる瞬間もあったので、そこでどうやったらいいお芝居ができるのかを探る作品でした。だから今の心境は"やっと終わったー"というのが正直なところです(笑)。今は、次の現場が楽しみです」。感受性と集中力、そして表現力を兼ね備えている18歳が、公私共に経験を積み、安定感と技術を手に入れる日が恐ろしい。

      Credits

      PHOTOGRAPHY SOPHIE ISOGAI 
      STYLING YOKO MIYAKE 
      TEXT TAKAKO SUNAGA
      Hair and make-up Rie Suda at Nu Yard
      Styling assistance Norie Kurakata and Miyabi Nara

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      Topics:film, hana sugisaki, actoress, interview, fashion interviews

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