野中モモ評:『パーソナル・ショッパー』

フランスの巨匠オリヴィエ・アサイヤス監督最新作は、華やかなファッション界と殺人事件が交差するミステリー。“エレガントな衝撃”でカンヌを揺るがし監督賞を受賞した本作を、翻訳家でライターの野中モモがレビュー。

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maj 11 2017, 12:15pm

©2016 cg cinema – vortex sutra – detailfilm – sirena film – arte france cinema – arte deutschland / wdr

オリヴィエ・アサイヤス監督が『アクトレス ~女たちの舞台~』に引き続き女優クリステン・スチュワートと組んだ、ファッショナブル・ミステリー・ゴースト映画である。何だそれはと言われても、その通りだから仕方がない。監督に実績があって旬の美人女優がいれば説明に困る変な映画も日本で公開される!

クリステンが演じる本作のヒロイン、モウリーンの職業はパーソナル・ショッパー。とあるセレブリティの女性に雇われている。ハイブランドのブティックやプレスルームを回って新作をチェックし、世間の注目を浴びる雇用主のために服や靴やバッグやアクセサリーを揃えるのが仕事だ。しばしば「買物代行人」と訳されるが、日本においては個人付のスタイリストと言ったほうがイメージしやすいかもしれない。
セレブである雇用主は忙しく、パリの自宅を留守にしがちだ。モウリーンは鍵を預けられて、誰もいない部屋に新たに入手したアイテムを届けている。彼女はネットのニュースの写真で、どこかの街でフラッシュを浴びる雇用主の姿をチェックすることにより、自分が仕事をうまくこなしていることを確認する。おそらく10年、20年前には存在しなかったであろう、現在だからできる働きかただ。
そんなモウリーンは(突然だが)霊感の持ち主でもあった。彼女は双子の兄を亡くしたばかりで悲しみに暮れ、彼からのメッセージが届くのを待っている。そんな折、iPhoneに差出人不明のショートメッセージの着信が。彼女の行動を把握しているようなメッセージについ返信するうちに、モウリーンは危うい事件に巻き込まれてゆく。

©2016 cg cinema - vortex sutra - detailfilm - sirena film - arte france cinema - arte deutschland / wdr

まずお伝えしておきたいのは、宣伝にはクリステンが豪華なドレスを着ているショットが採用されているが、それはヒロインが隠された欲望に一瞬身を任せた姿だということ。この映画の大部分では、Tシャツに革ジャンといった少年のような(しかしおそらく物はすごくいい)カジュアルスタイルで街をゆく「イケメン」寄りのシャープな美貌をたっぷり楽しむことができる。自分はバイセクシャルであると公言して数々の女性と浮き名を流し、マニッシュなスタイルでファッション・アイコンとしても熱い注目を浴びている現在のクリステンのファンには嬉しいはずだ。
そして、iPhoneのSMS(ショート・メッセージ・サービス)をはじめ、スマートフォンで見るYouTubeの動画やビデオ通話など、現在のコミュニケーション・メディアが映画内で重要な役割を果たしているのも特筆すべきポイントだろう。人とのつながりが希薄な生活を送りながらスマートフォンに届く謎のメッセージに翻弄されてしまうヒロインの経験は、とても現代的だ。アサイヤスはこうした今日の大衆化されたテクノロジーをふんだんに使いつつ、ヴィクトル・ユゴーの降霊会やヒルマ・アフ・クリントの絵画といった19世紀の神秘体験の事例に言及し、科学では解明できない世界の気配を捉えようとする。死者と生者は混ざり合って、目に見えないものも確実に「ある」。ひょっとしたら、ここでクリステンを見つめている私たちがおばけなのではないのか?

筆者はオリヴィエ・アサイヤスの作品を熱心に追ってきたわけではないが、90年代から2000年代初頭にかけて、ジュディット・ゴドレーシュ、ヴィルジニー・ルドワイヤン、マギー・チャンらの美女(美少女)たちの魅力を引き出した作品群は楽しく鑑賞していた。特に1910年代に人気を集めたルイ・フイヤード監督のサイレント映画『レ・ヴァンピール吸血ギャング団』のリメイク計画をめぐる、マギー・チャンが本人役を演じたメタ映画『イルマ・ヴェップ』(1996)は大好きな作品だ。あれもいまにして思えばフィルムからデジタル映像へと時代が大きく動く時代だからこその手触りがあった。そんなアサイヤスが、いまもなお新しいメディア環境とそこに生きる人々の感覚を意欲的に写し取ろうとしていることが嬉しい。だから未来に面白い思いをするために、新しい映画は常に観ておかなければならないのだ、とも言えるだろう。

パーソナル・ショッパー
監督・脚本 オリヴィエ・アサイヤス 製作 シャルル・ジリベール オリヴィエ・アサイヤス 出演 クリステン・スチュワート ラース・アイディンガー シグリッド・ブアジズ アンデルシュ・ダニエルセン・リー タイ・オルウィン 5月12日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー

関連動画 :  「見えざるもの」に導かれて:『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー

Credits


Text Momo Nonaka