アンソニー・ヴァカレロ:セクシーから遠く離れて

セクシーなウィメンズウェアを作らせたら彼の右にでるデザイナーはいない。しかし、彼の考える“セクシー”はそれほど単純なものではないようだ。今最も注目が集まるデザイナー、アンソニー・ヴァカレロにインタビューを行った。

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06 april 2016, 6:15pm

サンマルタン通りにあるバカレロ・ビルの最上階。キングサイズのベッドには黒いカバーがかけられ、隣には傾いた壁の下にはバルセロナチェアが置かれている。アンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)の寝室はモダンでシックだ。椅子に座りながら「マライア・キャリー式のインタビューはどう? あそこに横になって……」とベッドを指差して、目配せする。セクシーとエキセントリックについてのインタビューをするにはうってつけのセットだが、アンソニーはそのテーマに関する質問には食傷気味らしい。「おんなじことを何度もなんども答えなきゃならないんだ」とため息をつく。「"はじめからセクシーな服を作ろうと思っていましたか?""あなたが作る服はセクシーすぎると、あなた自身も感じていますか?"—いつもこう答える。"コレクションに取り組んでいるときは一切セクシーについて考えない。ラインと量感のことしか考えないんだ"ってね。どんな服も、女性が着るからこそセクシーになるんだ。でもほとんどの人は服の表層的なところだけ見るんだよね」

彼の作るシャープな服は、肌の露出が多くやはり女性的でセクシーだ。そのセックスアピールで自身のブランドAnthony Vaccarelloを一躍有名ブランドにまで押し上げ、今年はVersus Versaceのデザイナー職の座も射止めた。だが、彼自身のきわめて控えめな印象は、彼が作るセクシーな服のイメージからはほど遠い。過激な言葉を使い、挑発をしてくる典型的"セクシーデザイナー"とは一線を画している。例えば、彼のInstagramには華やかなファッション・ライフなど微塵もない。33歳のデザイナーがその時々にアップしたいと思った画像が非商業的にアップされているだけだ。「私生活をパブリックに発信したいと思うひとたちの気が知れない」と彼は言う。「自分をセレブリティだとも思わないし、実際にそんな生活も送っていない。毎晩がパーティだなんて生活はまっぴらだし、本当はショーが終わった後のインタビューもしたくない。自分の姿を見せたくもない。そういうのは性に合わないんだ」。長い沈黙の後、彼は笑い出した。

「でも、君に会えたのは嬉しいな!」

「物静かなひとこそ性的には倒錯している」というひともいるが、ヴァカレロはその最たるものかもしれない。作品には、彼が幼少期を過ごした80年代後半からの強い影響が見られる。「刺繍や大きなシルエットには惹かれなかったけれど、堂々とああいう服を着て、男性を恐れず生きる力強い女性には、強く興味を持っていたんだ」。彼は1982年、ブリュッセルでレストランを経営する父と会社で秘書をつとめる母のあいだに生まれた。ファッションの才能は読み漁っていた雑誌によって育まれた。彼は当時、ナオミ・キャンベルをはじめとするスーパーモデルたちに夢中だったという。思春期にさしかかる頃には、アメリカの『ビバリーヒルズ青春白書』や『メルローズ・プレイス』、オーストラリアの『Heartbreak High』などのテレビドラマが世界的人気を博し、MTVが若者たちの時代精神を代弁する時代−−"ポップカルチャー的セックス革命"の時代 −−がやってきた。

「90年代、テレビが人々に与えた影響は大きかった。テレビに触発される時代だった。セックスが"セックス"じゃなかった90年代、セックスが当時の"モード"じゃなかったあの頃が懐かしいよ。マドンナが写真集『セックス』を出して、トム・フォードがセクシーなコレクションを発表した(今でも『セックス』は本棚でも特別な扱いをしているんだ)。今はショッキングなものを見てもだれも驚かないだろ。皆んなが激しいものを作ろうとしているから、どれもがとてもフラットに、退屈に思えてしまう。でもそれは自然じゃないよね。みんな、セクシーなものに飽きてしまっているんだ。だから、セックスを隠す"ミニマリズム"や"ボクシー"っていうようなモードが生まれる。これも退屈だよね。超セクシーなものか、セックスを排除した世界観のものか。中間がないのはよくないよ。そこには個性もないしね」

セクシーさの絶妙なバランスに対する彼なりの答えは、緻密に構築されてきた世界観のなか、そして彼のみぞ知る"セクシーの暗号"のなかにある。それは"ほのめかしのセックスアピール"だ。「触るんじゃない、見ろ」—いや、むしろ「触らずに、考えろ」

彼の2015年秋冬「アメリカーナ」コレクションはまさにそれを体現していた。

フリンジには金属が使われ、星のモチーフは装飾的な形を与えられているが、いたるところから"心地よいポルノ"がにじみ出ている。「アメリカーナ」は、アンソニーがドナテッラ・ヴェルサーチに見出されVersus Versaceのデザイナーを務めるようになってから2シーズン目のコレクションだ。2006年にベルギーのラ・カンブル国立美術学校を卒業、同年にイエール国際モード&写真フェスティバルで賞を受賞した後、彼はFENDIで起用された。そこへドナテッラからVersus Versaceのデザイナー就任の打診があり、2009年に自身の名を冠したレーベルを立ち上げ、2011年にはANDAM賞を受賞した。

「スマートフォンの画面に"ドナテッラ・ヴェルサーチ"と表示されるのはまだ慣れない。だけど、彼女と電話で話す関係にあるのはすごく光栄だっていつも思っている」と彼は目を輝かせた。では、彼はドナテッラとカクテルを飲みながら人生や愛について語ったりするのだろうか? 「それはないよ、プロフェッショナルな関係でいたいんだ。彼女はあくまでもボスだから」。"セレブリティ文化と親和性が高い美学を持ちながら、自らはその文化とは距離をとる"という姿勢において、故ジェンニ・ヴェルサーチと共通する素質をバカレロはもっている。といっても、彼の大親友はアンジャ・ルービックだが。「アンジャは友達だからね。僕の服を着せたいからという理由でモデルたちに近づいたりはしない。セレブリティだからといって特別扱いはしないよ」

ドナテッラと彼は二人とも、ジャックラッセルテリアを飼い、溺愛している。そして、彼らの作る服がもっているセクシーさが何を意味するかを追求しつづけるその姿勢も共通している。

彼が作り出す美には深い社会的メッセージが隠されているのだろうか?

「ないよ」

政治には積極的?

「そんなことはない」

投票はするのか?

「しない」

宗教的信条は?

「ないよ」

なにか信じているものは?

「蝶が持つ力みたいなもの? そうだな……自分。いや、信じているものなんてないな」

90年代はテレビの時代だった。当時の若ものは、テレビから流れる陳腐な独善的メッセージをただただ浴びせられて育った。アンソニーのシニシズムはそんな中で形成されていったのだ。信条や大義をもたずに生きる—それは(レディ・ガガは特別として)この世代が辿り着いたひとつの「在り方」なのだ。彼が作るセクシーなミニスカートにも、この世代以前には存在しなかった独自のフェミニズムが確かに織り込まれている。「女性は、セクシーに見える服を着ているからといって旦那をセックスに誘っているとは限らない。セックス自体にそれほど興味がなく、しなくていいとまで思っているかもしれない。自分でするのが好きなのかもしれないだろう?」。そう言って、彼はクスッと笑った。「誰かのために生きてるわけじゃない。そういう女性、僕はいいと思うんだ。女性が自分自身のために生きるっていうのは簡単なことじゃない。女性への待遇がいいとは言えない時代だしね。それに時々考えるんだ。セクシーな服を作るひと、セクシーな服を着るひとたちがもしかするとそんな風潮を作っているんじゃないかって」。

こういった受け答えはもちろんレトリカルなものだ。男らしいテーラリングや、女性服の男性的フォルム化など、近年のファッション界における流れについて訊けば、アンソニーの答えは真逆だからだ。「悲しいことだよね。不思議でもある。女性の体はやはり女性の体で、胸や陰部はそこにあり続けるわけだから。だけど、女性がセクシーな服を着るのは、自身を守る術なのかもしれないね」。90年代にスーパーモデルやマドンナを見て育ったデザイナーたちの多くがそうであるように、彼は自身が考えているよりもずっと確固たる自分の考えを持っているようだ。「服を作っているとき、女性をモノとして見たりはしない。僕が思い描いているのは、"ひとがどう思おうとかまわない"っていう姿勢の女性なんだ。自分に、そして自分の体に誇りをもってる女性。セクシーさを過剰に打ち出さなくてもセクシーな女性をね」

@anthony_vaccarello

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Amy Troost
Fashion Director Alastair McKimm
Hair Esther Langham at Art + Commerce using Oribe Haircare
Make-up Hannah Murray at Art + Commerce using Topshop Beauty
Nail technician Ami Vega at Marek & Associates
Digital technician Nick Rapaz
Photography assistance Henry Lopez, Darren Hall
Styling assistance Lauren Davis, Katelyn Gray, Sydney Rose Thomas
Hair assistance David Colvin
Make-up assistance Jen Myles
Casting Piergiorgio del Moro at DM Casting
Production Matthew Youmans at M.A.P.
Model Andreea Diaconu at IMG
Andreea wears all clothing Anthony Vaccarello. Earring stylist's own.
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.