ミュージシャン8人が語る「青春の一枚」

本誌のお気に入りミュージシャンたちが「10代の私を虜にした一枚」について語ってくれた。

by Zio Baritaux
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07 April 2016, 3:55pm

Photography Olivia Rose

音楽以上に私たちを郷愁に誘うものはあるだろうか。懐かしい歌を聴けば、それをどこで最初に聴き、自分がそのとき何を着て、何を感じたかまでを瞬時に、鮮明に思い出すことができる。それが何十年も前の記憶であってもだ。

TLCの「Creep」を聴けば実家の自室でシルクのパジャマを着て踊りたくなり、K-Ci & JoJoの「All My Life」を聴けば、中学の実らなかった初恋の記憶が蘇る。人によって曲は違えど、音楽は私たちの記憶を呼び起こし、その曲を聴いていた当時へと瞬間移動させてくれるのだ。そこで本誌は、私たちお気に入りのアーティストたちに「あなたがこれまでで最も影響を受けたアルバムは?」と訊いてみた。返ってきた答えには、彼らの感性を育み、アーティストとしての原型を形づくった、そして彼らの青春そのものでもある音楽が溢れていた。

マベル:デスティニーズ・チャイルド『The Writing's On The Wall

「初めて本当に感動したアルバムは、デスティニーズ・チャイルドの1stアルバム『The Writing's On The Wall』だったわ。このアルバムを聴くと私の姉、タイソンのことを思い出す。彼女が私に聴くように勧めてくれたの。このアルバムの曲にダンスを付けて、デスティニーズ・チャイルドの一員になりきったりした。このアルバムでハーモニーの美しさに目覚めて、それは今作っている音楽にも形となっているわ」

Photography Zahra Reijs

セヴダリザ:ジャネット・ジャクソン『The Velvet Rope

「6年生の最後、地元のタレントショーに出場したんだけど、黒いキャットスーツを着て、ジャネットの「I Get So Lonely」をやったの。審査員は目を丸くしてたわ。選ぶ曲が不適切だってね。でも、あの曲が持つエネルギーや考えを掘り下げていくような私の性格を考えてみても、選んだのはとても自然なことだったと思う。あのアルバムには2年くらい夢中だったわ。最初に聴いたときはいまいちよく解っていなかったけど。「このアルバムはすべてが素晴らしいんだ」って頭では分かっていても、自分の人生と重ね合わせることができなかったの。ジャネットが曲に込めた思いや経験の多くを、私はこの28年間で生きて経験してきた。16年前には想像もしなかったわ。傷ついたことがあるひと、いま傷ついているひと、いままで自分を不良品みたいに感じたことがあるすべてのひとなら誰でも自分を重ね合わせることができる—『The Velvet Rope』はそういうアルバムなのよ。矛盾に満ちた人間を代弁したアルバムとでもいうべきかしら。『The Velvet Rope』は人生と共に少しずつ包装を開けていくプレゼントみたいなものよ」

Photography Alex Aristei

ザ・ガーデンのフレッチャー・シアーズ:キリング・ジョーク『Killing Joke

「覚えてるかぎり、最初に感動したアルバムは、キリング・ジョークの『Killing Joke』かな。子供心にも、息ができないほどに感動したのを覚えてる。アルバム中の「Total Invasion」は衝撃的だった。「怖い」っていう感覚もあったけど、聴くたびにものすごい勢いでアドレナリンが出るのを感じたんだ。この曲は兄と僕にとって決定的だった。この曲はキリング・ジョーの楽曲のなかでも異質なんだ。自分が何をやりたいか、どんな風にしてやっていきたいかを考えさせてくれた。垣根もなければ限界もない—時を超えて作られていくもの、それが音楽だと教えてくれた曲だよ」

Image courtesy Aurora

オーロラ:アーネ・ブルン『Temporary Dive

「レナード・コーエンのベストをよく聴いていたけれど、アーネ・ブルンの『Temporary Dive』も本当によく聴いたわ。あのアルバムは何度も何度も私を闇から引きずり出し、助けてくれた。リリースされた頃は歌詞の内容こそ理解できなかったけれど、なにか語りかけてくるものがあった。まだ8歳だったと思う。ジャケットはもちろん、魔法みたいな瞬間と美しい歌詞に満ちた素晴らしいアルバムよ」

Image courtesy Peaking Lights

ピーキング・ライツのインドラ・ドゥニス:シド・バレット『The Madcap Laughs

「15歳の頃仲良くしていた子は、両親がいなくて20代のお姉ちゃんとふたりで暮らしていたの。このお姉ちゃんはアート・パンクのバンドでドラマーをやっていたんだけど、世界一かっこいい存在に見えた。彼女たちはレコードを沢山持っていて、放課後にふたりの家に行ってはレコードを聴きてばかりいたの。あの家ではたくさんの名曲・名盤に出会ったわ。ある日、他の友達がシド・バレットの『The Madcap Laughs』のテープをくれたの。家に帰ってウォークマンで聴いたわ。それまで聞いたことがないような、生々しく、不完全な美しさだった。曲はどれも美しくメランコリックで素晴らしかったわ。シドのたまに外れる音や、未熟で滑稽だけれど心から綴られている歌詞の世界に、"不完全の美"を見た気がした。まだ10代で、バンドもやっていなかったけど、あのエネルギーに『音楽に限界なんてない。音楽はひとを選ばない』って気づかされたの」

Image courtesy Laura Mvula

ローラ・マヴーラ:マイルス・デイヴィス『Kind of Blue』

「マイルスの『Kind of Blue』は、音楽に対する考えや音楽の聴き方に大きな影響を与えた最初のアルバムだった。聴くたびに虜にされて、ずっと聴いていても疲れずに、魅了されっぱなしだったの。とても広大で、抑制の効いている音楽で、"Less is more(少ないことは、より豊かなこと)"っていう好例よ。このアルバムは時代を超えた傑作で、その革新性においてタイムレスでありながら、過去にも敬意を払っているの。マイルスの個性は無限で、その唯一無二のサウンドが彼を彼たらしめている。私はこのアルバムに永遠にインスパイアされ続けると思う」

Photography Vivian Fu

スワマースのコール・ベッカー:デ・ラ・ソウル『Is Dead

「どういう経緯で『Is Dead』のテープを買ったのかはよく思い出せないけど、たぶんジャケットが好きだったのと、あとは「デ・ラ・ソウル」ってあの名前を発音したときの感覚が好きだったんだと思う。中学生のときだよ。聴き始めるとすぐに、あの突飛な歌詞と幾重ものサンプリングが作り出す音の世界に夢中になった。他の音楽に飽きてしまうと、いつもこのアルバムをかけた。聴くたびに新しい音を発見できてね。前の週まではパンクになろうと必死だったのに、デ・ラ・ソウルを聞いてラップの世界に少しずつ引き込まれていって。SサイズのGAPデニムジャケットにBlack FlagのバンドTを合わせて着ることにだんだん違和感すら覚え始めたんだ」

Image courtesy Peluché

ペルーチェのラプソディ・ゴンザレス:ザ・フォール『Middle Class Revolt

「大学に入る前、20歳のとき、職場だったウォータールー駅のクリスピークリームに向かう途中、このアルバムの二曲目「Reckoning」をiPodで聴いていたら、思ったの。「ハハハ、そうよ、どうでもいいわ」って。いい意味でそう思ったの。マークE.スミスが歌に言葉を紡ぎ出すあの感じ。気だるいグルーヴで、タイトなリズムセクションなんだけどね。聴いているあいだは無敵になれるわ。あのとき人生の岐路だったのね。大学に入り直して、クリスピークリームでの仕事を辞めたのに2学期だけ行って退学したわ。音楽をやるためにね。あの曲を聴きながら、「いいのこれで。私はやりたいようにやるのよ」って思ったの。マークE. スミスさん、あなたはそれほど大きな影響を私に及ぼしましたよ」

Credits


Text Zio Baritaux
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.