リチャード・リンクレイターが辿った10の分岐点

現在、最新作『エブリバディ・ウォンツ・サム!!』が公開中のリチャード・リンクレイター。テキサス州オースティンが生んだ映画界の異端児を、10作品で辿り祝福する。

by Colin Crummy
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11 November 2016, 2:15am

1990年代初頭に登場し、現在もなお映画界のアウトサイダーとして存在感を放ちながら、映画祭では常連として愛されている、アメリカきってのインディペンデント映画の名手、リチャード・リンクレイター。長年にわたり仲間として共に切磋琢磨してきたコメディアン、ルイス・ブラックが、リチャード・リンクレイターという人物とその25年にわたるフィルムメイキングのキャリアを追ったドキュメンタリー映画『Richard Linklater - Dream Is Destiny』を制作した。リンクレイターが打ち立ててきたマイルストーンを、ここに辿ってみよう。

1.『スラッカー』(1991
テキサス州オースティンに暮らすはみ出し者をリンクレイター流に描いたこの作品は、その後の彼が作り出すことになる傑作映画の原型となった。時間とそれを無駄に過ごすということ、そしてそこに日常的に存在する自由奔放なひとびとや落第者が次々に登場するという展開は、抱腹絶倒だ。超低予算で作られた作品だが、リンクレイターを「確固たるヴィジョンを持った才能溢れるフィルムメーカー」として世に知らしめた。

2.『バッド・チューニング』(1993
何も起こらない日常を描いた『バッド・チューニング』は、オースティンのリー高校の生徒たちが学校を卒業する1976年のある1日を描いた作品で、リンクレイターの人類学者的視点を世界に知らしめた。パーティとパーティのあいだにある空間と、そこに起こるすべてを表現したこの作品は、誰もが「ティーン映画の傑作」として手放しで讃える名作青春映画だ。またリンクレイターはこの映画で新たな才能を発掘する能力を発揮。マシュー・マコノヒーをはじめ、この映画公開当時は無名だった俳優たちが、現在は名優と呼ばれるに至っている。

3. 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995
ヴェネチアに向かう列車の中で、イーサン・ホーク演じるアメリカ人男性と、ジュリー・デルピー演じるフランス人女性が出会うというロマンス映画『ビフォア・サンライズ』は、90年代アメリカのジェネレーションX世代なら誰もが覚えている作品だろう。20代のふたりは、ヴェネチア行きの電車で出会い、惹かれあい、その後14時間を共に過ごす。なんでもないようなことを話しながらブラブラと街を歩き、夜明けを共に見たふたりには、当然ながら別れのときが訪れる。前作『バッド・チューニング』の底流にあった悲しみが『ビフォア・サンライズ』でもふたりの別れに織り込まれている。ふたりは、また6ヶ月後に会おうと約束して別れるが……。

4.『ニュートン・ボーイズ』(1998
実在した強盗団の物語をもとに作られたこの作品は、リンクレイターにとって比較的大規模な予算をかけて制作した映画であり、またリンクレイターが初めて伝統的なストーリーテリングの手法を用いた映画であるという意味で、監督にとってマイルストーン的作品といえるだろう。これ以前の作品では楽しめていたストーリーテリングが「この映画ではいまいち楽しめていないのでは」と感じるのは、リンクレイターが自らの直感を信じず、それまで貫いてきたインディペンデント(独立)の体制を二の次にしてしまったからだろう。それを彼に気づかせてくれたという意味でも、この作品は監督にとってマイルストーン的存在なのだ。

5.『ウェイキング・ライフ』(2001
実写映像にデジタルペインティングを施して作るアニメーション、ロトスコープを用いて作られた長編映画『ウェイキング・ライフ』は、堅苦しい伝統的な映画作りを試した『ニュートン・ボーイズ』からの反動のような、実に実験的な作品だ。そのロトスコープというスタイル、若い主人公が哲学や人生観を語る人々に次々と出会うというストーリー展開、どれをとっても映画芸術の力作としか言いようがない。ドキュメンタリー『Dream Is Destiny』のなかでリンクレイターは、この映画を「何年間もずっと頭から離れないクレージーな構想を作品にしてみた」と語っている。

6.『スクール・オブ・ロック』(2003
『スクール・オブ・ロック』は、クリエイティビティを祝福する心温まる作品であり、リンクレイターが大手映画制作会社の作品も(素材さえ良ければという条件は付くものの)難なく作り出せるということを証明した映画でもある。それでもリンクレイターは、ハリウッドへと引っ越すことは拒んだそうだ。

7.『ビフォア・ミッドナイト』(2013
『Dream Is Destiny』のなかで、リンクレイターは『ビフォア・サンライズ』について「続編を作るには興行収入が低すぎた作品」と笑っていた。しかし1995年、彼はヴェネチアで別れたふたりが偶然にも9年後のパリで再会するというストーリーを『ビフォア・サンセット』として描いた。パリの街を歩きながら、思い出話から発展して、人生という虚像と、人生への落胆について語り合ったふたりは、またしても別れる——そこからまた9年後という設定となる『ビフォア・ミッドナイト』。この作品でふたりは、結婚、子供、長期にわたる恋愛関係について語らい、喧嘩をし、また仲直りをし——『ビフォア』シリーズのなかでは最もすっきりとした後味を残すこの作品は、リンクレイターが歳を重ねるにつれ、その芸術性も深みを増していることを世に示した。

8.『6歳のボクが、大人になるまで。』(2014
2002年から2013年までのあいだ、リンクレイターと彼のチームは、新たな映画を撮ってはこの『6歳のボク』のシーンを撮影し、また新たな映画撮影に取り組み、という工程を繰り返していた。そうして出来上がったこの映画は、主役のメイソンが6歳の時分から大学を卒業するまでを描き、キャラクターと共に俳優たちも年をとるという一風変わった大作となった。リンクレイターは「手法は壮大だけど、映画としてはとてもシンプルな物語」と語っている。たしかにシンプルだが、観るものの心を打つ、とんでもなく感動的な作品だ。

9.『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016
『バッド・チューニング』の精神的続編にあたる本作。『6歳のボク』をようやく完成させたリンクレイターの心が帰る場所だったのだろう。性欲に翻弄される大学野球部新入生たちを描いている。この作品の撮影時に『Dream Is Destiny』は撮影されており、そのなかでリンクレイターは「いまだに映画撮影の手法は確立できていない」と打ち明けている。彼は、観ていてすぐにストーリー展開が予測できてしまう作品など作りたくないと言い、「この映画だって結末は決まってない。ただ、絶対にいい結末が撮れることは確信しているんだ」と話している。

10.『Richard Linklater - Dream Is Destiny』(2016
これはリンクレイター監督作品ではないが、彼がいかにハリウッドという巨大な歯車から距離を置いて独自の映画作りを貫いているかがわかる映画ということで、ここに。これからもずっとぼんやりとした姿勢を貫いてほしい!

『"リンクレイター青春3部作"特別上映』
新宿武蔵野館で開催中
上映作品:
11月5日(土)~11月11日(金)『バッド・チューニング』
11月12日(土)~11月18日(金)『6歳のボクが大人になるまで』
『スラッカー』は新宿シネマカリテで11月19日(土)~11月25日(金)

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Credits


Text Colin Crummy
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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