ラリー・クラークが語る、自身のアートコレクション

写真家で映画監督のラリー・クラークが、今週ブルックリンで、個人所蔵のアートコレクションを展示する。『White Trash』展からお気に入りの数点について、クラーク自身が語ってくれた。

by Emily Manning
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24 May 2017, 9:40am

ニューヨークにある大手ギャラリーの多くは、展示の初日を木曜と決めている。ロウアー・イースト・サイドやチェルシーなどの地域に集中するそれらのギャラリーでは、展示会開催に際してレセプションが開かれ、ワインとフィンガーフードが振舞われるのが通例だ。ラリー・クラークの展示会のレセプションがこの通例に則っていたのは、「午後6時から8時までの2時間」という開催時間だけだった。『White Trash』展は、ブッシュウィック地域内ニッカーボッカー・アベニューの外れにある<Luhring Augustine Gallery>別館で金曜にオープンした。金属ゴミ集積場や生コン会社が多く立ち並ぶエリアだ。レセプションではバドワイザーが振る舞われ、食べ物はフードトラックから直に出されるアイスクリームとジャパニーズ・タコスのみ。現在74歳となるラリー・クラークだが、依然としてルール破りを楽しんでいるようだ。

展示作品はすべてクラーク所有のものだが、そのほとんどがクラークの作品ではない。すべては彼が過去56年にわたり収集してきた、個人所蔵のアート作品だ。「まだ金なんかなかったころ——無一文だったよ——絵を見て、『どうしても欲しい』とよく思った。作品を買うための金を調達するのは大変だったけど、でもなんとかなった」。彼の作品と交換して手に入れたアートピースも多かったというが、それが叶わないときは「金を借りて、家賃を滞納したり、支払いの目処もたたないのにクレジットカードで買ったりした。クレジットカード会社は、金がない人間に目をつけて勧誘してくるんだ」。クラークはその後、40近い歳になるまで、クレジットカードを持つことができなかったという。

彼のコレクションの多くは、芸術ではなく"ゲイジュツ"というのが正確かもしれない。クリストファー・ウールやスー・ウィリアムズ、アンディ・ウォーホルらの作品の数々と並び、ジェフ・クーンズやヘルムート・ニュートン、デイビット・ウォジャローウィッチュといったアーティストたちの作品が展示され、他にも映画『哀しみの街角』や『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』のポスター、LAパンク・バンド、Xのポスターも飾られてもいる(クラークは、ポスターだけで展示を開けるほど多くのポスターを所有しているそうだ。「映画ポスター、チケットの半券、パンク・ロックのライブ・フライヤーなんかをね。スタジオに山積みになっていて、どうにかしたいんだ!」)。しかし、ほかの展示品はよりパーソナルな意味合いを持つものばかりだ。ピンク色のネオンサインは、クラークお気に入りのレコード屋のものだし、Supremeのスケートデッキには、彼のキャリアの転機となった写真集『Tulsa』からの作品がプリントされている。彼が住んでいたロフトに取り付けられていた、古く重厚な防火扉までもが展示されている。「価値を考えて収集したことは一度もない。価値が上がると思って買ったものなんてひとつもない」とクラークは言う。「自分のものにせずにはいられなかった——そういうものばかりだよ」

クラークが手元においておかずにいられなかったものが混在する『White Trash』展は、新鮮でスリリングな内容だ。わたしたちがクラークの作品に惹かれるのは、真実を見つめる妥協のない視点とダークなユーモア、そして反逆精神をもって、生(せい)の美しさを捉えるアーティストだからだ。今回の個人コレクションにも、そうした要素はちらついている。「これらの作品は、わたしを触発してくれる——作品を作ろう、前へ進もう、生きようと思わせてくれる存在なんだ。人間が抱える問題はすべて、恐怖心をベースに成り立ってる。クリストファー・ウールの作品『Fear』を毎朝見て、わたしは前へ進む力をもらっているんだ」。「背中を押し続けてもらっているもうひとつの作品がある」と言いながら、クラークはシャツの袖をまくる——そこには、手首の少し上あたりに掘られたタトゥーが見える。「『keep punching(殴り続けろ)』と書かれてる。朝起きて、これを見て、『戦い続けよう。まだ諦めるには早い』って自分に言い聞かせるんだ」

クラークが『White Trash』展の特に気に入っている6作品にまつわる秘話を教えてくれた。

ジェニー・ホルツァー

Larry Clark, "White Trash." Installation view, Luhring Augustine, New York. Courtesy of the artists and Luhring Augustine, New York. Photography Farzad Owrang.

ずっとジェニーの作品が好きでね。彼女を撮ったこともあるし、田舎にある彼女の家にも遊びに行ったこともあるよ。特にこの作品は何百回、何千回と読んだ。とにかく素晴らしい——とても知的だと思う。彼女は作品をそこらじゅうに貼っていてね。この作品は、スペイン語のバージョンも持ってる。まだ残っているのかな……。スペイン語版は少し小さいけど、内容は英語版と同じ。もう何年も持ってる作品だよ。とにかく素晴らしいね。

レイモンド・ペティボン

Raymond Pettibon, No Title (They Ought To…)1985. pen and ink on paper? 9 x 12 inches, frame - 11.75 x 14.75 inches. © Raymond Pettibon; Courtesy David Zwirner, New York and Luhring Augustine, New York. Photography Farzad Owrang.

持ってるのはどれも初期作品。彼がまだニューヨークで最初の展示をする前--<Feature Gallery>のオーナーだった友人のハドソンから買ったんだ(美術評論家ロバータ・スミスは、2014年に「ハドソンは苗字。名前は不明。元ダンサーであり元パフォーマンス・アーティストのハドソンは、現在、若手のなかでもっとも先見の明があり、もっとも愛されているインディペンデント系ギャラリスト」と『The New York Times』紙に書いている)。ハドソンに会いに、<Feature Gallery>まで行ったんだ。そこには、展示する作品が何箱も置かれていた。今回展示している彼の作品はすべて、そのときに買ったもの。展示が始まる前にね。シンプルだから好きなんだ。あのころのペティボン作品には文字が少ない。ほとんどないんだ。何回か展示してからは、言葉をたくさん書き込むようになったね。ほとんど小説といってもいい。個人的にはシンプルな作品が好きだね。わたしが持ってる彼の作品はとにかく素晴らしいよ。シンプルだけど、ひとつひとつが独立した存在感を持ってる。

ブリーカー・ボブ

Photography Emily Manning.

<Bleecker Bob>は、ダウンタウンのブリーカー通りにあったレコード屋。最近になって閉店したんだ。店主が(おそらく)脳卒中で入院して、治療のために金が必要になったとき、トライベッカにあるネオン屋<Neon>を経営している友人が、このネオンを店頭に置いて売ることにしたらしい。わたしのロフトから1ブロックのところにある店で、ある日、フラッと店に入ってみた。店主が、<Bleecker Bob>のことを教えてくれて、「ネオンと時計を売っている」と——<Bleecker Bob>の収益になるというから、その場で買ったんだ。あのとき、店に入ってよかったと思うよ。

ウィル・ブーン

Will Boone, Love Seat, 2012. Steel, vinyl, wood, and fluorescent light. 40 x 25 1/2 x 43 1/2 inches. © Will Boone; Courtesy of the artist, David Kordanksy Gallery, Los Angeles, Karma, New York, and Luhring Augustine, New York. Photography Farzad Owrang.

これは、2-3年前に見つけたウィル・ブーン作品。書店<Karma>に入ってみたら、そこで彼の展示が開催されていた。小規模なもので、展示は6点ほどだった。まだ<Karma>が、グリニッチ・ヴィレッジにあったころ——往年のハリウッド俳優ケーリー・グラントの家の隣にあったんだ。ふたつの建物に挟まれて、一部屋ほどの広さしかない家なんだよ(グラントの家は、マンハッタンでもっとも細長い部屋と報じられている)。

ラリーのドア

Larry Clark. Door from Larry's apartment collaged with paper and stickers. 35 3/4 x 83 x 1 3/4 inches © Larry Clark; Courtesy of the artist and Luhring Augustine, New York. Photography Emily Manning.

これは、わたしのロフトのドアだったもの。安全確認の意味でビル全体の点検をしに防火対策の調査員がうちに来たんだ。わかるかな——ポリスロック(高度な安全性を実現する特別な錠)が付いていたんだ。これは防火扉のはずなんだけど、「内部に木材が使用されているから防火扉として不十分。撤去しなければならない」って調査員は言うんだ。それで、新しいドアが設置されたから、古いのを引き取った。ここに展示されているのと同じように、わたしのロフトにも置かれていたんだ。家に置いていたものを、そのままNew Museumに運び入れて、ショーで展示した(このドアは、2013年にNew Museumが開催した『NYC 1993: Experimental Jet Set, Trash and No Star』の一部として、展示された過去がある)。運び入れた先で、家から持ってきた素材を貼っていき、作品にした。New Museumで作品を作るのは楽しい経験だったよ。貼ってあるステッカーのいくつかは、『キッズ』の子たちが貼ってくれたんだ。自分で貼ったのは1-2枚で、あとは立ち寄ったやつらがペタペタと貼り付けた。あの映画から生まれたものはかけがえのないものだね。

『New Yorker』の漫画

Jack Ziegler, Yikes, 1995. Ink and India ink wash on paper. 14 1/2 x 17 1/2 inches (36.8 x 44.5 cm). © Jack Ziegler; Courtesy of the artist and Luhring Augustine, New York. Photography Farzad Owrang.

この絵の女の子は、30年代から何十年も連載が続いたアーニー・ブッシュミラーの漫画『Nancy』に登場するナンシーだけど、この作品はジャック・ジーグラーという漫画家が描いたパロディ作品。『キッズ』が公開した週の『New Yorker』誌に掲載されたものでね。作家のエージェント、アンドリュー・ワイリーに電話をして、この漫画について話したら、『New Yorker』に電話をしてくれて、ジーグラーの電話番号を手に入れてくれた。それで、コネチカット州に住むジーグラーに電話をして、原画を買い取ったんだ。人々が漫画の原画を作品として収集するようになる前のことだよ。今じゃ『New Yorker』はなんでも販売してるけど、当時は誰も挿絵を買ったりしなかった。わたしはジーグラーから、たしか600ドル……いや、300ドルぐらいだったかな——なにしろ、作品を直接買ったんだ。即決で買った。この作品は笑えてしょうがないんだ! "アーニー・ブッシュミラーとナンシー、スラッゴ少年を知らなきゃ、この作品は解らない"というところもよかった。今のひとたちは知らないだろうね。絵の中でナンシーが「Yikes!(キャー!)」って言ってるんだけど——最高の言葉を放り込んだよね。映画を撮影してるときに、実際にこの言葉を使ってみたことがあるよ。それと、『小さな孤児のアニー』でアニーが言う、「Hark!(静粛に!)」ってセリフもよく使うよ。

『White Trash』展は、ブルックリンの<Luhring Augustine>で2017年6月18日まで開催。詳細はこちら

Credits


Text Emily Manning
Photography Emily Manning and courtesy Luhring Augustine
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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