薄れゆく体制と反体制の境界線:パリ・メンズ・ファッションウィーク day2

パリ・メンズ・ファッションウィーク2日目は、Supremeと手を組んだLouis Vuittonに続き、Dries Van Noten、Rick Owens、Off-Whiteらが急速な変化を見せるファッション界に進化を描くコレクションを発表した。

by Anders Christian Madsen
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23 January 2017, 11:57am

Louis Vuitton fall/winter 17

Instagramが普及してというもの、ファッション界は大きく変わった。Maison Martin Margielaの世界観に傾倒したようなストリートウェア・ブランドが、かつてはファッション界のシステムの中枢機能を果たしていた紙媒体でのプロモーション過程を排除するようになり、新たな反体制のシステムをファッション業界に生み出した。パリ2017年秋冬メンズ・コレクション2日目は、Instagramでスーパースター的人気を博しているヴァージル・アブローのOff-Whiteがそのような変化をこれまでになく強く打ち出していた。Off-Whiteを傘下に置くNew Guards Group社は、他にもHood by AirやPalm Angelsなどの新進気鋭ブランドも手がけている。Off-Whiteは、Issey MiyakeRick Owensに挟まれる形で、栄えある午前11時の時間帯にショーを行った。Off-Whiteは今や、ソーシャル・メシア時代のAcneともいうべき勢いを見せている。このスウェーデンブランドAcneは、当初こそお手頃な価格で話題性に富んだ服世界を作るブランドとして知られていたが、デザイナーのジョニー・ヨハンソンによりパリのサロン級ブランドにまで成長した。その約10年後となる今、ジャスティン・ビーバーの人気も手伝い、Off-Whiteが同じ道を歩んでいる。ただ、10年前のAcneと大きく違う点は、Off-WhiteがYeezyのカニエ・ウエストやVetements、Gosha Rubchinskiyなどとともに、世界規模のストリートウェア・ムーブメントを牽引しながら、パリのアヴァンギャルドを追求している点にある。アブローは今回、ジョナサン・アンダーソンがLoeweウィメンズのショーで使ったシックなUNESCOビルをコレクション会場に選び、木や枯葉をふんだんに使った温かみある空間を作り出して、アート感溢れるモチーフやラグジュアリー感漂うフーディー、精巧な作りのボマージャケットなどで、ストリートウェアのドラマチックな可能性を見せつけてくれた。

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Off-White autumn/winter 17

Off-WhiteをはじめとするInstagram世代のブランドは、反逆的で若いカルト的要素を保ちつつも、ラグジュアリーブランドになろうとしている。しかし、「ソーシャル・メディア・ブランド」とは現象であり、それは例えばLouis Vuittonのようなビッグメゾンだったとしても金銭でなんとかなるものではない。そこでLouis Vuittonは、そのような新進気鋭ストリートウェア・ブランドとパートナー関係を結ぶことにした。そのコラボレーション・ラインが、去る木曜、パレ・ロイヤルにて披露された。Louis VuittonとSupremeという、そのロゴで強固なファン層を保持してきた2大ブランドのコラボレーションには数々の個数限定商品が盛り込まれ、発売日には世界各国のショップで長蛇の列ができること間違いなしの内容だった。LVとSupremeのロゴがぶつかり合うデザインが闊歩するランウェイを前に、私の後ろに座った女の子たちは歓喜の声をあげていたが、Instagramでもまた同様の、いや、それ以上の熱狂が巻き起こった。Supremeの比類なきブランド・バリューで自身のコレクションを解釈したキム・ジョーンズは、不可能とも思えた偉業をこのコレクションで成し遂げた——Louis Vuittonは、議論の余地なく、世界でもっとも長く愛され、誰もが「欲しい」と思うアイテムを数多く世に送り出してきたラグジュアリー・ブランドだ。そのすでに確固たる寵愛を受けているブランドのアイテムをさらに「欲しい」と思わせることに、ジョーンズは成功したのだ。これは、ファッション業界の旧体制から続く伝統的ラグジュアリー・ブランドが、お高くとまることなく、知的なストリートウェア・ブランドと手を組んだからこそ成し得た偉業の好例だろう。変化の風が吹き荒れる現代ファッション界で、これはあらゆる意味でハリケーン級の力と意味を持ったコレクションだった。そして、アブローが「英雄」と讃えるデザイナーのひとり、ドリス・ヴァン・ノッテンもまたファッションという体制が進化の只中にあると考えているようだった。今季Dries Van Notenコレクションは、同ブランドがここ最近で見せてきた中でもっともコンセプチュアルなものとなった。現代のキッズが夢中になりそうな、"ドレス・ダウン"の世界観が印象的だった。

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Louis Vuitton autumn/winter 17

Dries Van Notenにとって99作目となる今コレクションは、1993年に初めてDries Van Notenがショーを行った会場で行なわれた。彼は、新旧問わず多くのデザイナーが、インスピレーションを求めて訪ねるもの——そう、ブランドのアーカイブを題材としてコレクションを制作した。「もっとも古いジャケットは1986年に作ったもので、二つ目に古いものはラペル無しのジャケットでした」とドリス・ヴァン・ノッテンは語った。「でも、古いコレクションをそのまま再解釈して新たなコレクションとして発表するようなことはしたくありませんでした。重要なのは、『何を持って未来に向かいたいか』というテーマでした。良いものを再解釈して、新しいもの、新しいボリュームを生み出したいと思ったんです。メンズ・ファッションの原型ともいえる、ジーンズ、カーキのコート、ネイヴィー・コート、スキー・ジャケット、ノルディック柄のセーターやペルーの伝統的セーターといった世界観を再解釈したかった。白いシャツのプロポーションをどう変えることができるのか、ボタンダウンのクラシックなシャツは、ウォッシュをかけた方がよいのか、それともかけないほうが良いのか、といった作業を通して、今コレクションを制作しました」とドリスは語った。ドリスが今回のコレクションで打ち出した中で印象的だったのは、彼が過去に得意とした大きなショルダーラインだった。近年はInstagram世代が、Dries Van Noten、Martin Margiela、Ann Demeulemeesterなどアントワープ出身のデザイナーたちのアーカイブをつぶさに研究し、この大きなショルダーラインへの関心を強めている。また彼らは、ドリスが過去にロゴやスローガン入りで発表したスウェットシャツにも強い関心を寄せている。ドリスは今回のコレクションでそれらトップスも再解釈し、王室の制服製造にウール製品を提供しているHainsworthからスコットランドの織り工場Lovat、ラムウール製造のMarling & Evansなど、これまでDries Van Notenがブランドの歴史を通して長きにわたり良好な関係を築き、保持してきたコラボレーターたちと手を組んで、新たなアイテムを作り出している。名もなき英雄たちにスポットライトを当て、服飾業界のエキスパートたちとその技術を祝福するとともに、ドリスはソーシャル・メディア世代のファッション通たちをも歓喜させる世界観を打ち出していた。

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Dries van Noten autumn/winter 17

「今季は、刺繍を始めとする工芸的細工の探求はやりたくなかったんです。シェイプを探求したかった。空間におけるボリュームとシルエットを追求したかったんです」とドリスは語った。「ここから、明るい未来のビジョンを胸に、進むべきなのです」

Rick Owensもまた同様のビジョンを打ち出していた。自身が書いたというショー・ノートには、「身体的、環境的衰えを受け入れなければならないという万有の現実を見つめ、受け止め、消化して、そのプロセスを形にした過去数シーズンのコレクションを経て、今、私はそろそろ前に進むべきなのだと感じています」と書いていた。現在のファッション界において、彼ほど誠実さと感情を表現しようとするデザイナーは他にはいない。マルタン・マルジェラとリック・オウエンスを神格化してやまないInstagram世代だが、オウエンス自身はファンたちの期待に流されることなく、ショーに気取りも見せず、そこには商業的野心など微塵も感じさせず、またアヴァンギャルド主義というある種の言い訳や逃げ道も自らに許していない。ここ数シーズンでオウエンスが見せてきたコレクション同様、今季コレクションもまたピュアなクリエーションであり、パッドを大きく彫刻的に使った作品にはオウエンスの感情や恐怖心が表現されていた。ちょうどハート、心臓のような形を与えられたそれらパッドには、この世界に放り投げられて恐怖心が拭えないオウエンスの心と、その心を何としても守りたいという彼の意志が見えた。「再出発の世界観にしたかった。歓びに満ちた再出発にしたいと思った。けれど、でも世界はここから多難な未来へと突き進んで行くんだとも痛感していた。だから、このコレクションはやはり"守る"ということをテーマとしたコレクションなんだと思う」

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Rick Owens autumn/winter 17

「グラマーと絢爛、極端な華麗さに、歓びを、ディオニソス的快楽の世界を描き出したいと考えていたんだけれど、でもそれは裏に恐怖心があるからこその明るい世界なわけでね。服というのは、結局のところ恐怖心にどう対処するかということで、だから、今回もそれを避けて通ることはできなかった」 Rick Owensのショーは、過去数シーズンにおいては特に、セラピー的な効果を持つようになっていた。過密スケジュールのファッション・ウィークに、もっともオーセンティックな人間的体験をさせてくれるショーだったからだ。Rick Owensほどソーシャル・メディアと自らを完全に切り離して進んでいるブランドもない。オウエンスは、現代ファッション界でもっとも反体制の姿勢をひた走っているデザイナーだ。そんな彼も、最近のi-Dとのインタビューで、体制の一部分にならざるを得ない現実について言及していた。とはいえ、彼はトレンドや競争にはまったく興味を持っていない。彼は彼なのだ。感情に忠実で、痛々しいほど慈悲と同情的な魂——それがリック・オウエンスというデザイナーであり、人なのだ。「何を作るにしても、何をやるにしても、それをポジティブな影響に変えていきたい。良いものも悪いものも世界に送り出せる立場にいる自分にとって、コレクションは、僕が良いと思うものだけを世に示せる場。だから僕にとってショーはとてもパーソナルなものなんだ」と彼は言った。「基本的に僕は楽観的な人間だと思う。でも同時に、とても現実的な人間でもある。これまでに僕が得た最良のアドバイスは、『人生は決してフェアじゃない。だから自分の感情に振り回されず前へ前へと進みなさい』というもの。僕はこれを肝に命じてきた。そういう視点に生きていれば、すべてに感謝の念を抱いて生きていられる。何事も決して……なんて言えば良いだろう……自分に与えられて当然のものとは思わず、感謝の気持ちを持って生きていけるんだ」

Credits


Text Anders Christian Madsen
Photography Mitchell Sams
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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