政治に危機感を募らせる6人のラッパーたち

ヒップホップ界最大のスターたちが、アメリカ大統領選を前に投票の重要性とその理由を国民に訴えた。

by Emily Manning
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10 November 2016, 9:50am

1970年代のニューヨークを襲った社会経済の絶望的状態と市民の怒り——そこから生まれ、音楽ムーブメントからカルチャーにまで発展したヒップホップは、その誕生から現在にいたるまで、アメリカの政治と切っても切り離せない関係にある。パブリック・エネミーは80年代後期に「Fight The Power」でパワフルに反体制のスタンスを示し、トライブ・コールド・クエストは1990年のデビューアルバムからの3rdシングル「Can I Kick It?」で堂々と次期ニューヨーク市長候補だったデヴィッド・ディンキンスへの支持を打ち出した。1992年には2パックがMTVで所得の不均衡と富の再分配を訴えた(2016年米大統領選民主党大会で、バーニー・サンダース候補はこれとまったく同じ訴えを叫んでいた)。そのインタビューで、2パックは、欲まみれの下手な詩を政治の理想として歌うドナルド・トランプの出現を予言していた。

この大統領選期間中、これまでになく多くのラッパーたちが、ストリートで、そして投票所で、自らの声を届かせるべくそれぞれの行動をとった。ここでは、より確固たる民主制とより良い未来のため戦ったラッパーたちの言葉を紹介したい。

YG
カリフォルニア出身のラッパー、YGが2014年に発表したデビュー・レコード『My Krazy Life』は、コンプトンでの人生を克明に物語る内容だった。2作目となる『Still Brazy』は、前作で特徴的だったクラブ感はそのままに、しかしより冷めた政治的視点が前面に押し出されていた。そのアルバムからのヒット曲「Fuck Donald Trump」は今年夏にリリースされ、もどかしさを通り越して誰もが苛立ちに震えた今回の選挙戦のアンセム的存在となった。YGの過激な政治的発言を危険視した政府は、国の執行機関シークレットサービスにYGの検閲を指示。『Still Brazy』に含まれるすべての歌詞をリリース前に強制検閲したが、YGはこれに対し果敢に抵抗し続けた。並行して、YGはビヨンセのFormation Tourに出演したり、G-EasyとMacklemoreをフィーチャリングした新たなバージョンの「Fuck Donald Trump」を制作したり、その後の全米ツアーをFuck Donald Trumpツアーと名付ける(ツアーに同行したKamaiyahがi-Dに語ったところによると、このツアー名に憤慨したプロテスターたちの多くが講義運動としてコンサート会場に押しかけたそうだ)など、話題を振りまき続けた。大統領選挙投票日当日、YGはロサンゼルスの有権者たちにベーグルを配る活動を展開した。YGは、落ち着いたGファンクのビートに社会政治への危機感を綴った詩をのせるという「カリフォルニア・ラップ」の伝統を守りながら、新世代のプロテスト・アンセムを作り続けている。「声を上げようぜ。上げないかぎり何も変わらない。声を上げないということは、道義もなく生きてるのと同じ」とYGは戦い続ける理由について、今年初旬、i-Dに語ってくれた。「そんなの間違ってる。俺は戦う。そう考えたから声を上げたんだ」

Chance the Rapper
シカゴ育ちの23歳、チャンス・ザ・ラッパーは、先日、オハイオ州クリーブランドでヒラリー・クリントンへの投票を呼びかけるイベントに参加し、ビヨンセ&Jay-Z夫妻と共演した。そしてその直後に、Parade to the Polls(投票へのパレード)コンサートを地元グラント・パークで開催した。コンサートが終わると、チャンス・ザ・ラッパー本人が観衆を率いて近隣に設置された投票所までパレードで歩き、参加者には期日前投票が促された。実はチャンス・ザ・ラッパー、シカゴにゆかりのある重要人物と長年の関係にある。「チャンスのことは、彼が8歳のときから知ってるんだ。私がイリノイ州選出の上院議員だった時代、彼の父親が私の代理人として務めてくれたんだ。だからもう随分と長いあいだ、彼とはファミリーの関係にある」とバラク・オバマ大統領は、ラッパーのスウェイ・キャロウェイが持つインタビュー番組『Sway in the Morning』のなかで「好きなラッパー」のひとりとしてチャンス・ザ・ラッパーを挙げた際に語っている。チャンス・ザ・ラッパー、そして彼が最近になって立ち上げたSocialWorksイニシアチブの今後が楽しみだ。

Gucci Mane
一昨日、グッチ・メインはフロリダ州唯一の黒人大学であるフロリダメモリアル大学に出向き、感動的なスピーチを披露した。「ここにいる君たち全員が、未来に大きな影響を与えるチャンスを手にしています。僕がここで"君たち"と指しているのは、ただその辺の若者ではなく、今この部屋にいる若者、今ここにいる有色人種の若者、この地域に生まれ育って今ここにいる有色人種の若者たちのこと」と。彼は講堂に集まった大学生たちに「投票する際には、警察の暴力や有色人種大量収監の現実について、今一度考えてほしい」と訴えた。それらはグッチにとってとてもパーソナルな問題だ。さまざまな容疑で服役と出所を繰り返していたグッチが重罪犯判決を受けた仮釈放の身にあった2013年、武器を隠し持っていたとして逮捕された彼は3年間の服役を命じられた。今年中旬に釈放されたグッチだが、既決重罪犯の選挙権というものは極めて複雑にして厄介で、現在、彼には投票する権利がない。「投票できなくて悔しいよ」とグッチはフロリダメモリアル大学の学生に明かし、また次のようにツイートしている。「警察の暴力を終わらせるために投票をしてほしい。刑務所に有色人種が溢れかえっている現状も、投票で変えていかなきゃならない」

Ty Dolla $ign
選挙をテーマに作った最新レコード『Campaign』でタイ・ダラー・サイン(Ty Dolla $ign)が訴えているのも、黒人大量収監の現実だ。このレコードには、ビデオも公開されたタイトル・トラックのほか、タイの弟で歌手のTCをフィーチャーしたエモーショナルな「No Justice」などが並ぶ。TCは現在、殺人容疑で終身刑を言い渡され収監されているが、タイは弟の無実を信じている。そのタイは黒人大量収監の現実と投票喚起を訴えるため、「"地域の安全を守るため"と人々を次々に収監することに大規模な予算を投じ続けるカリフォルニア州を変え、真の安全をコミュニティに実現しよう」と戦うSchools Not Prisonプロジェクトに参加。民主党大会でのコンサートを率いた。「不正が横行する社会について語ろう。立ち上がらなければ、俺たちはいとも簡単に打ち捨てられ、存在しないも同然の扱いを受けることになる」と、大統領選が熱気を帯びていた今夏、タイはi-Dに語ってくれた。「正義も信念もみられないこの現状だけど、俺はそれを語り続けることで、音楽を通してファンに問題について訴えることで、変化を生む助けになれると信じてるんだ。俺は人民の力を信じてる」

Vic Mensa
カニエ・ウエストの寵愛を受けるシカゴ出身のラッパー、ヴィック・メンサ(Vic Mensa)は、これまでも度々そのジャンルを超えた音楽を通して果敢に社会政治を斬ってきた。「Free Love」は、フロリダ州オーランドの銃乱射事件に衝撃を受けた彼がHalseyとLil Bをフィーチャーして作り上げたLGBT支援のトラック。ヴィックは、最新アルバム『There's Alot Going On』で、ミシガン州フリントの水道汚染問題や、ナイフ所持の容疑で3メートルの距離から白人警察によって17歳の黒人少年が銃殺されたラクアン・マクドナルド事件について、問題提起をするトラックを作っている。同アルバムに収められた「16 Shots」には衝撃的なビデオが作られるなど、彼の政治的スタンスは果敢さを増す一方だ。大統領選投票日を目前に控えた先週金曜、彼はライブストリーミングで配信されたパネルディスカッション番組で、投票について「ドナルド・トランプは人種差別主義者だぜ。投票に行かないということは、俺たちが人種差別に屈するということ」とリスナーに投票を強く促した。

Pusha T
ラッパーとして確固たる地位を築き、現在はカニエ・ウエスト主宰のレーベルG.O.O.D Musicの社長も務めるプシャ・T (Pusha T)。彼は長年にわたりクリントン支持を主張してきた。昨年12月、プシャがクリントンを支持する理由を語る短いビデオがネット上に拡散された。その理由とは、アメリカの腐敗した刑事司法制度だった。彼はそのなかで「この国の黒人大量収監という現状は、1994年にビル・クリントン元大統領が犯罪取締りの一環として打ち出した政策に端を発している」と率直な見解を示している。自身もドラッグディーラーだった過去を持つプシャは「俺の友達の多くも、薬物使用の初犯であるにもかかわらず、信じられない長さの刑期を言い渡されて収監された。だから俺はこれに関して極めて個人的な感情を持っているんだ」とウェブサイト「Vulture」で語っている。しかし、ビル・クリントンが打ち出した政策が現在までの過酷な状況を作り出したからこそ、ヒラリーを支持するべきなのだと彼は信じている。彼はこれまで、ヒラリーと米国上院議員ティム・ケイン(プシャと同じヴァージニア州出身)の遊説キャンペーンに助力し、カリフォルニア州のマリファナ合法化法案に関する公共広告に出演、そしてユースに関するイニシアチブMy Brother's Keeperについてバラク・オバマ大統領と会談するためホワイトハウスを訪れるなど、積極的な政治活動を見せている。20年近いキャリアを通し、プシャは聡明なリリックを繰り出すアーティストとして常に尊敬を集めてきた。しかし、レコーディングルームやコンサートステージ以外で彼が発する言葉は、いつでも危機感に溢れ、ときに心をゆすぶるほどの痛みを感じさせるものばかりだ。

Credits


Text Emily Manning
Photography Eric Chakeen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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