Michael KorsとBossが披露したショーマンシップ

ニューヨーク・ファッションウィークが幕を閉じようとしていたある日、マイケル・コースとジェイソン・ウーが人々につかの間の現実逃避を促し、観客の顔には笑顔が浮かんだ。

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sep 23 2016, 4:42am

Michael Kors spring/summer 17

「悩みなんか忘れて、ほら、幸せな表情を見せて」と、ルーファス・ウェインライトが清々しい朝にぴったりのアップビートなパフォーマンスで、Michael Korsショーに駆けつけた観客に向けて歌う——このパフォーマンス、ニューヨークの観客にはうってつけだった。というのも、ウィメンズのニューヨーク・ファッションウィークが開幕してから1週間、テレビではアメリカ大統領選挙ばかりがセンセーショナルに報じられ、ヒラリー・クリントン大統領候補がドナルド・トランプ支持者たちを「惨め」と言い放ったかと思えば、911アメリカ同時多発テロ事件発生15周年のイベントでは肺炎で倒れて、アメリカの未来に暗雲が立ち込めることとなったからだ。一方のトランプは、ヒラリーの健康不安を浮き彫りにするべく、テレビ番組に出演して自身の万全な健康状態をアピール。これが翌日のニュース番組で取り上げられ、続く特報は「アメリカ国内におけるヘロイン乱用の蔓延」だったというのだから、世も終わり——だが、笑いには事欠かない世の中であることだけは端的に証明された1週間だった。

Michael Kors spring/summer 17

世の中に絶望感が漂うときこそ、ファッションは楽観的な世界を描こうとするものだ。Michael Korsは、ひとびとが暗い未来しか見通せない現状から一息つくのを促すかのように、夏らしいフローラル柄や40年代シルエットを繰り出し、スーパーフェミニンなドレスやテーラリング、そして「LOVE」と編まれたジャンパーを次々にランウェイへと送り出した。センターステージでビッグバンドを率いたルーファス・ウェインライトが歌い、インターネットセレブのキャメロン・ダラスが観客席に混じるという夢のような設定も手伝い、そこには抗いがたくポジティブな力が溢れていた。ランウェイで転倒したベラ・ハディッドも、この雰囲気にはニコリと笑って立ち上がり、前を向いて毅然と歩き始めた。未来を肯定するひとは、否定的な人々に挑戦してかかるもの。Michael Korsが見せたこの肯定の姿勢は、今後3週間にヨーロッパの各都市で開かれるファッションウィークでもきっと繰り返し見られることとなるだろう。しかしながら、大統領選という未来を左右する問題ではなく、すでに難題が多く実在してしまっているヨーロッパでは、ただ「悩みを忘れて幸せな顔を見せる」のは難しいことなのかもしれない。

Boss spring/summer 17

Bossのショーでは、ジェイソン・ウーがMichael Kors同様、鮮やかなカラーに底抜けな楽観の世界観を打ち出した。ゆったりとしたシルエットにデイヴィッド・ホックニーを思わせる色使いのサマードレスが、同系色でかたどったグラフィックなスポットライトに浮かび上がった。アメリカ人は、ひょっとすると我々イギリス人よりもよっぽど気骨があるかもしれない。ニューヨーク・ファッションウィークは、デザインの面でもその精神の面でも従来通りビジネス色が強く、今後ロンドン、ミラノ、パリで、陰惨たる現状をヨーロッパ独自の難解な表現で体現したショーが次々に見られるであろうことを考えると、アメリカのショーマンシップはやはり評価されるべきで、これには手放しの喝采が贈られるべきだろう。なにしろアメリカは、現実(リアリティ)から逃れるための方法としてリアリティTVを作り出した国だ。しかし、選挙に関しては、より現実を直視し、テレビの要素は極力減らすべきだろうと私は考える。

Boss spring/summer 17

With thanks to Sixty Hotels for providing i-D accommodation during NYFW.

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.