その画家は大成の夢をみた:WEWILL 19SS
福薗英貴が手がけるWEWILLのランウェイショーは、絵描きを夢みる少年が老成するまでを情緒的に描きながら、彼の洋服には“年齢”による規定など存在しないことを明らかにしていた。
薄暗いショー会場の壁に向かって照らされた——まるで絵を描く前のキャンバスのような——光のパネルが折り重なっている。どこかしこから竜涎香の匂いもする。これはたしか、2シーズン前のとあるショーで嗅いだ香りだ。WEWILLの2019年春夏コレクションは、ドキュメンタリー映画『黙ってピアノを弾いてくれ』が公開されて間もない、ときに“破天荒な天才”だと称される稀代のピアニスト、チリー・ゴンザレスの繊細なピアノのメロディーで幕をあげた。

あどけなさ、という言葉がぴったりな少年が現れる。白い大きめのベレー帽を被り、オーバーサイズで肘から袖にかけてギャザーを寄せたベージュのシャツを身にまとい、指先と“左耳”には白い絵の具の痕跡がある。インビテーションに大きく配された“椅子に座って夢中で絵を描いている青年”の姿を想起すれば、これから始まる物語は、絵描きに関するものだとすぐに分かった。「複数の画家をインスピレーションに空想した“とある画家の一生”を描いた」。ショーを終えたデザイナーの福薗英貴は端的に話した。

少年はきっと、偉大な画家になる夢をみている。思春期と老成する時期を経ながら少しずつ歳を重ねていく様を、15名の、年齢がさまざまなモデルの人選と登場順で明快に演出だ。一貫した上質な服地使いは変わらず、品性(あるいは男の色気のようなもの)が漂う、体と服のあいだに幾分かの余白が生まれるオーバーサイズのシルエットやディテールと、クロップド丈のパンツ。キャップやハットといった被りものがバリエーションをみせながら、ところどころに画具でも入りそうな大きめのポケットが配されている。ふと、サイズ感についてかつて福薗が「父の背広をこっそり着た時の、子どもの体と服のあいだにある量感をジャケットに投影してみた」と語っていたことを思い出す。青年、中年、老人。少なくとも彼らが着るWEWILLの洋服のいずれにも、押し付けがましい年齢の定義はない。

ショーは中盤を迎え、また冒頭の少年が。前身頃の裾を横一線にカットした、白いタキシード姿だ。ランウェイのうえで、その少年と最も年齢の高いモデルがすれ違う。ひとりの画家の一生を描いていたとしたら、このふたりが互いに目もくれずに交差する瞬間——壁にはふたつの人影が重なりあう——に何がしのドラマを感じざるを得ない。ラストルックは、老人が少年のものとは色違いのタキシードをまとっている。チリーの静謐なピアノの調べは、この絵描き人がたとえ不遇な人生をおくったとしても、幼心に描いたことを人生の基軸として生き、彼にとっての“大成”をいつか手に入れるのだと饒舌に語っていたように思えてならない。たとえば、ゴッホのように。





