「期待される製品」から最も遠いペインティングは何か? エディ・マルティネズが日本初個展で見せた新境地

ペロタン東京での日本で初となる個展開催にあたり来日していたエディ・マルティネズ。米『Interview Magazine』でも今最も期待されるアーティストの一人に挙げられる彼に、周囲から寄せられる「期待」との付き合い方をきいた。

by Mami Hidaka
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05 February 2019, 9:26am

エディ・マルティネズが美術学校に在学したのはごく短期間、よって実質的には独学のアーティストだ。2005年より画家フィリップ・ガストンの「ブロック積み」作品への熱狂をベースに、ハンプティ・ダンプティの煉瓦壁のなかに消えゆく「ピカソのスカル」に融合する顔を視覚化した「ブロックヘッド・スタックス」シリーズを発表。その自由でチャーミングな画風で高い評価を得た。

そんなマルティネズの日本初個展となる「Blockhead Stacks」が、六本木のペロタン東京でスタートした。本展では、マルティネズの作品に繰り返し見られる「スカル」を探索し、その具体性を弱めた一連のペインティングおよびドローイングが展示されている。またマルティネズは、本展と並行して、自身の拠点であるニューヨークでも個展「White Outs」(~2月17日、ブロンクス・ミュージアム)を開催中。こちらでも、ホワイトニングや消し去りの手法を取り入れながらの抽象化を試みている。

初期の作品に特徴的な「大きな目のキャラクター」から、いまあえて脱却をはかるマルティネズ。2005年に初個展を開催して以来、つねに注目を集めてきたマルティネズの野望を聞いた。

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──2005年から「ブロックヘッド・スタックス」シリーズを制作しているとのこと。なぜ今回このタイミングで「ブロックヘッド・スタックス」という画題そのものと向き合うことを決めたのでしょう?

エディ・マルティネズ:まだまだ探索する余地があると思ったからです。歳を重ねていくなかで色々と行き詰まることもありましたが、また良い状態に戻れました。

──制作における重心は、素材から画題そのものへの探究にシフトしたのですか?

エディ:むしろ画材や技法の探求に比重があります。制作過程や行為を大事にしています。私はとにかく結果主義で、最終的に自分にとって満足のいくものかどうかが大事です。もともと、以前使っていたモチーフを再度取り上げ表現の探求を重ねることは、私にとってレギュラーなスタイルで、「ブロックヘッド・スタックス」シリーズに見られる「スカル」のモチーフも、そのうちのひとつです。たとえばこれが「スカル」ではなく、テニスボールであったとしても、私の絵画は成立します。描写行為そのものへの執着心が強いので、私にとっては、ただ繰り返し何かを描くということがもっとも重要です。「スカル」を描き始めた当初に、とても高い評価を得たという経験も、絵画制作に集中するエネルギーを注いでくれました。

──本展では、画鋲や枯れ葉など、表面に画材以外のものが見えるペインティングもありますね。過去にも、ガムの包み紙やウェットティッシュなどを用いた作品がありますが、どのように取り入れているのですか?

エディ:手に付いた絵具などを拭き取る際に使う赤ちゃんのおしり拭きのようなウェットティッシュを、そのまま貼り付けています。塗料が乾かないうちに。

──筆の代わりとかではなく、コラージュとして使っているんですね。

エディ:はい。ときには貼り付けても、だんだん画面のなかに埋もれて見えなくなることもあります。それが画面から剥がれ落ちてさらに汚れることもありますが、そのときは構図の具合を見ながら、再度貼り付けたりもします。

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──これまで「スカル」は、花などその他のモチーフと合わせて描かれることもありましたが、近年では、次第に画面構成もよりシンプルになっている印象を受けます。今回の出展作品も、すべてスカル単体・同じ構図で描かれていますが、要素を減らしていくなかで絵画表現における新たな発見はありましたか?

エディ:歳を重ねるにつれて、色々な物事がより鮮明に見えるようになってきました。カオスのような状況には、もはや体験せずともアクセスすることができますが、いっぽうで作品から要素を少なくするには、より自分自身の表現への自信が必要だと思います。今回の新作は、最初からすべて同じ構図を使うと決めていたので、画材や描写の探求に専念できて楽しい制作でした。5分も椅子に座っていれば描き始めてしまうような性格なので。

──CoBrA(*1)や新表現主義(*2)に影響を受けているとのことですが、これらのムーブメントのどういった点に共感/賛同したのでしょうか?

エディ:自分自身がアーティストとして何から強く影響を受けたのかを考えたとき、それらのムーブメントがもっとも自分に近いと感じました。新表現主義が影響を与えたすべての作家に関心がありますよ。CoBrAは、アメリカとヨーロッパの会話のように存在していたので、CoBrAがヨーロッパ全体に、はたまた画家のジャン・デュビュッフェがバスキアに与えた影響などと同様に、私自身もごく自然にそれらのムーブメントから影響を受けてきました。CoBrAによって、子どもの無垢さや、知的障害のある人々の表現に通ずるものに焦点が当てられ、それにたくさんのアーティストが影響を受けたように。

──近作に通ずる恣意的な素材の選び方や、現在ニューヨークのブロンクス・ミュージアムで開催中の個展「ホワイトアウト」でのホワイトニングや消し去りの実践などにも、それらのムーブメントの気配を感じます。秩序立ったペインティングへの倦厭などはあるのですか?

エディ:影響を受けたといっても、実のところ制作時はそこまで気にしていません。もし、私のスタジオに学術的なアーティストが来たら、心臓発作を起こしてしまう(笑)。私自身、コンテクストやルールを追うことは難しいのでやらないと決めていて、とくにパンク精神があるわけではないのです。「ホワイトアウト」展の作品は、自分の作品が気に食わなかったときにそれを完全に消すのではなく、ホワイトニングし、またその上から色彩の層を重ねるというのが、ひとつの制作プロセスとして可能性があるのではないかと探求を始めたシリーズです。消し去りながらその事実を画面に残す、実用的なプロセスだと思っています。

──本展を通じて、「期待される製品」の概念からの脱却をはかったとのことですが、「期待される製品」から遠いアートとは、どのようなものだと思いますか?

エディ:目の大きなキャラクターを描いたシリーズが高く評価され、私のアーティストとしてのスタイルが確立されてしまった気がしました。「エディ・マルティネズの絵画はこういうものだ」「次はどんなキャラクターが入ってくるのだろう」、そのような期待から脱却したいという気持ちで、今回の展覧会では「スカル」の抽象化に挑みました。こうしてスタイルを変えたことで、一部のファンやサポーターを失ったかもしれませんが、構わないのです。つねに進化して、制作を続けていかなければいけない。今回出展している作品のなかに、自宅の壁に飾りたくないものは1枚もありません。

注釈
*1──第二次世界大戦後の1948年より、オランダやベルギーなどの西ヨーロッパで起こったアヴァンギャルド・ムーブメント。オランダのカレル・アペル、デンマークのアスガー・ヨルン、ベルギーのコルネイユを中心に結成された。「CoBrA」という名前は、創設メンバー3名の居住都市であったコペンハーゲン、ブリュッセル、アムステルダムの頭文字から命名。絵画においては、極度にデフォルメされた人物や動物、大胆な筆致、強烈な配色などが表現に共通してあり、そのほかにも彫刻、アッサンブラージュ、詩など、多種多様で横断的な実践が行われた。

*2──1970年代末から80年代にかけてアメリカ、ドイツ、イタリアなどを中心に起こった新たな具象絵画の動向。ニュー・ペインティング。禁欲的・観念的な画風が浸透しきっていた70年代から一転し、80年代からは荒々しく原初的なエネルギーに満ちた絵画が熱狂的に受け入れられた。