Photography Mitchell Sams

Diorが魅せるオートクチュール・サーカス

マリア・グラツィア・キウリがハーレクイン、サーカス団長、道化師、曲芸師を称えるショーを演出。

by Osman Ahmed; translated by Ai Nakayama
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31 January 2019, 4:12am

Photography Mitchell Sams

サーカスがやってきた!ファッション界自体がサーカスじゃないか、という指摘もあるだろうが、私がいいたいのはそうではない。Diorの最新オートクチュール・コレクションでは、サーカスの仲間たちを称えるショーが展開。ハーレクイン、サーカス団長、道化師、曲芸師、全身タトゥーのヴィクトリアンスタイルの女性。そしてこの厳選された究極のエンターテイメントのためにデザインされた、豪華絢爛な衣装がステージを飾った。

christian dior haute couture 19 review

ショーの着想源はDiorのクリエイティブディレクター、マリア・グラツィア・キウリが魅了されたサーカスを描くアート作品だ。1917年にピカソ、ディアギレフ、コクトーなどが共同制作した、サーカスが舞台のバレエ『パラード』。クリスチャン・ディオール自身が愛したサーカス小屋〈シルク・ディベール〉(この場所でリチャード・アヴェドンが、Diorのガウンをまとったドヴィマが2頭の象を従える有名な写真を撮った)。いっぽう、このようなヴィクトリア女王時代のサーカスの概念、(悪意はないにしろ)巡業するサーカス団を見物する観客という構図は、現代のSNS(いわば鏡の間)やセレブカルチャー(飼い慣らされるセレブたち)に通じるものがあり、〈ストリートスタイル・サーカス(訳註:ファッションウィーク中などに、スナップ目当てで派手な格好でストリートをうろつくこと)〉と呼ばれる現象すらある。

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今回、マリアは素晴らしい女性パフォーマーたちとのコラボレーションを果たしている。2019年のリゾートコレクションでは、彼女はメキシコの有名な女性ロデオ騎手、エスカラムーザをショー会場のシャンティイ城に招聘した。同年9月に発表された2019年春夏コレクションのショーは、テルアビブ出身の振付師シャロン・エイアル率いるダンサーたちを背景に繰り広げられた。そして今回、マリアがショーに招いたのは、ロンドンを拠点とするアクロバティック・カンパニー〈Mimbre〉。振り付け担当のリナ・ヨハンソンは、カンパニーの目的はサーカスの豊かな歴史を活かしつつ時代遅れの伝統を廃すること、と明言する。すなわち動物、女性を放り投げる男性は必要ない、P・T・バーナムのような搾取はしない、ということだ。ショーに登場した、年齢、体形、国籍も様々な18人のパフォーマーは、みんな見事な身体能力を披露した。

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「ファッションについて話すことは、人間について話すのと同じ。大切なことです」とマリアはショーの前に語った。座る彼女の背後には、コレクションに引用された多様なイメージを集めたボードが展示されていた。米国初の女性タトゥーアーティストとされるモード・ワグナー(Maud Wagner)のポートレイト。2018年に亡くなったコスチュームデザイナー、ジェラール・ヴィケア(Gérard Vicaire)の繊細な手仕事が光る作品の写真。ヴィンテージのポスター。ピカソとシャガールが描いたサーカス。セシル・ビートンによるチャールズ・ヘンリー・フォードのポートレイト。道化師姿のシンディ・シャーマンのセルフポートレイトも数枚あった。さらにマリアは、シルヴィ・ギムファック=ペロー(Silvie Nguimfack-Perault)による道化師に関する論文の一節を引用した。「あれは男性か女性か? どちらでもない。道化師だ」

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サーカス団長風の美しい紐飾りがあしらわれた流線形のタキシード、ピエロのひだ襟のようなパリッとしたオーガンザのドレス、くすんだメタリックシルクのロングプリーツガウン、編み込み模様のチュールドレスとタトゥー風ボディスーツの組み合わせ。ふんだんに用いられた色あせた素材は、年月を経たサーカスの衣装を思わせる。羽のように軽いシフォンのレイヤーが重ねられた、シックなオーガンザの白シャツも登場した。「クチュールを求める女性たちが必要としているのは、ひと揃いのワードローブです」とマリア。「刺繍やイブニングウェアと同じで、白シャツだってクチュールなんです」

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一見ドラマティックなガウンにも、実はスカートの下にジャンプスーツが隠れている。「1950年代の女性らしさを、現代の女性向けにアップデートしなければ」とマリアはいう。今回のコレクションでは様々なアイデアが示されたが、もっとも印象的だったのはいちばんシンプルな、ダークスーツをはじめとする滑らかなラインのテーラリングだ。想像してほしい。スカートを脱ぎ捨ててタキシードパンツに履き替えれば、従来のイブニングウェアの畏まった雰囲気は、一瞬で劇的に変わる。これこそ現代に生きる女性の姿だ。クチュールの〈道化〉はもう必要ない。

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This article originally appeared on i-D UK.