キャプテン・マーベル ©Marvel Studios 2019  3月15日(金)全国公開

マーベル編集長C.B.セブルスキー interview前編:女性ヒーローたちの活躍とその舞台裏

現代社会の混迷を反映させながら、日々新たなヒーロー像を世に送りだしているマーベル。そのクリエイティビティと多様性はどこからきているのか? マーベル好きとしても知られる評論家・荻上チキが、マーベル・コミックス編集長C.B.セブルスキーにインタビューを敢行。女性ヒーローたちの活躍、その背景にある社内の変化、日本とマーベルの創造的な関係を語り尽くす。

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16 January 2019, 1:04pm

キャプテン・マーベル ©Marvel Studios 2019  3月15日(金)全国公開

私たちは、大いなる変化を目の当たりにしている。

マーベル・シネマティック・ユニバースの『アベンジャーズ』シリーズが、2019年4月公開の「アベンジャーズ/エンドゲーム」によってひとつの節目を迎えようとしている。これだけクオリティの高い映像化作品が作られ続けたことも驚きだが、Netflixでのドラマ化、各種アニメ化など、ここ数年で表現の幅が一気に広がった。

今では完成度の高いアプリやゲームによって、いつでもどっぷりとマーベル世界に浸れるようになっている。そして何より、マーベル・コミックスの世界では、新たなヒーローたちが次々と活躍している。

なかでも女性ヒーローたちの活躍は著しい。アイアンマンの意思を受け継いだアフリカ系少女アイアンハート。キャプテン・マーベルの力を受け継いだムスリム少女Ms.Marvel。デッドプール同様、「第四の壁」を突破するマーベルオタク少女のグウェンプール。またリスのパワーで、サノスすら翻弄するスクイレル・ガールやスパイダーパワーを持ったスパイダーグウェンなど、再注目されるヒーローたちも。

マーベル・コミックスでは今、女性作家や女性編集者の活躍も目立ち、人種や宗教を超え、より多様なイマジネーションを発信し続けている。進化し続けるマーベル世界は、ファンたちに新しいキャラクターとストーリーを提示し、新たな熱狂の波を作り上げている。日本でもアメコミやガイマン(海外マンガ)への注目が右肩上がりであることは、東京コミコンや翻訳書籍の発売ラッシュをみても感じとれる。

マーベル・コミックス編集長のC.B.セブルスキーは、この大いなる変化の時代をどのようにみつめ、いかなる未来を見据えているのか。1時間のインタビューは、圧倒的なスピードとパッションで展開された──。

荻上チキ:クリエイターは常に時代の制約を受けると同時に、時代を変革する意気込みを持ちます。マーベル作品が特に昨今の作品において、「ロールモデル」としてのキャラクターを作り上げるには、多様なクリエイターの存在が欠かせません。マーベル・コミックスとしての意識的な取り組みなどは、いかにしているのでしょうか。

C.B.セブルスキー:マーベルの作品はいつも、「あなたの窓の外の世界」を描いています。特殊な能力を持ったヒーローでも補助的なキャラクターでも、どこかに読者が自身の人生を投影できる要素を持たせようと心がけています。ストーリーも受け手の出身や思考に関わらず共感してもらえるようなものを目指しています。マーベルは60年代の非常に早い段階から、スタン・リーをはじめとするライターたちが多様性や寛容さを、作品を通して世に伝えてきました。史上初の黒人ヒーローやゲイのヒーロー、女性のヒーローもそのころ登場しています。そしてその姿勢は今日まで受け継がれています。クリエイターや編集者の思いが常に作品に反映されているのです。ただ多様性は押し付けたり、強要するものであってはいけないと思っています。それは企業の意図ではなくて、クリエイターたちがキャラクターを通して、自然なかたちでファンに伝えていくものですから。私たちにできるのは、忠実な仕事をして、物語やキャラクターをより真実味のあるものに仕上げること。うまくいけばその作品は、読者の人種やセクシュアリティ、宗教、文化的な背景を問わず、受け入れられます。

荻上:マーベル作品が表現している多様性は、人びとへの「配慮」のため、ではないと思っています。この社会の姿を公正に映し出すための自然な表現である、と同時に、仮に今そうではない「偏った表現」のみが蔓延する社会があるとするならば、その現状に対するチャレンジでもあるのではないでしょうか。

C.B.:そのとおりだと思います。たまに波風が立つこともありますが、マーベルは常に境界線を設けず、世の中で起きていることを反映させようとしてきました。それは昔から行なっていることで、第二次世界大戦をはじめ、ベトナム戦争、公民権運動を描いた作品もあります。それから9.11を投影したニューヨークの物語も。クリエイターのそうした声を世に出せるよう、マーベルの編集者、出版チームはサポートに徹しています。

荻上:今日はジェンダーの話を中心に聞きたいと思っています。ワスプはアベンジャーズの初期メンバーであり、最初の女性リーダーでもありましたが、当初は唯一の女性メンバーでした。FF(ファンタスティック・フォー)のインビジブルウーマンのように、「紅一点」であった女性ヒーローたちも、現在では多様性が増しているように思います。女性ヒーローの描かれ方の変化を振り返って、あなたが特に重要だと考えるタイミングはいつごろでしょうか。

C.B.:日本で受けたインタビューのなかでいちばん興味深い質問の数々をありがとうございます。マーベルがコミックの出版をはじめた当時、ニューヨークで活動していた作家たちのほとんどが白人男性でした。そういう状況だったので読者の大半も白人の男性でした。ビジネス上の理由だけで言うとそれで成り立っていたんです。しかしそれもあまり長く続きませんでした。 その転換点は、ふたつあったと思います。ひとつめは80年代初頭。何があったかというと、兄弟が持っていたマーベル・コミックを読んで育った女性たちが編集者としてマーベルで働くようになったんです。彼女たちはより自分を反映した、女性のヒーローたちを紹介していきました。マーベル・ユニバースに女性のキャラクターが登場しはじめたのはそのころです。

ふたつめは90年代後半から2000年代初頭にかけて。これに関しては日本の影響が大きいのですが(笑)、アメリカで漫画ブームが起こり、若い女性の読者が増えたんです。それによりグラフィック・フィクションに親しみやすくなり、マーベル世界への扉を開くことになりました。そしてその読者だった女性たちが、のちにマーベルでクリエイターとして働きはじめる。彼女たちが自分の経験を投影した作品や世界観をマーベルにもたらした結果、自然に女性のキャラクターが増えていったんです。現在のマーベルにはかつてないほど多くの、女性のクリエイターや編集者が働いていて、女性が主人公の作品も増えています。

荻上:漫画ブームで読者が増えたという話がありましたけども、どのような漫画が特に影響を及ぼしたと感じていらっしゃいますか。

C.B.:大量の漫画が次々出ていたので、正確には答えられません。ブームが大きすぎました(笑)。ただ『ドラゴンボール』や『スラムダンク』は、男女問わず多くの読者に影響を与えています。『フルーツバスケット』などの少女漫画もとても人気でした。チームの若いクリエイターたちと話しても、彼らは少年・少女漫画を本当によく読んでいたみたいですね。

荻上:初期のアメコミでもそうだったと思うのですが、これまでの日本の少年漫画の描写に対しても、「女性はトロフィーではない」という声も上がっています。そうした反応は、マーベルでいかに吸収されてきたのでしょうか。

C.B.:そうした反応を受けて、マーベルではさまざまな変化が生まれました。ストーリーだけではなくて、キャラクター設計に関してもです。かつての女性キャラクターは男性がデザインしていたので、セクシーなビキニをはいていたり、やたらとグラマラスな体型だったりしました。しかしそれも、女性のクリエイターがデザイン設計に関わることで変化が訪れました。女性のファッションがコスチュームデザインに反映されていったんです。コスチュームはセクシーでなくてもいいんですよ。もっと言えば、セクシーでもかまいませんが、性の対象にはしない、ということです。実際に女性が設計したコスチュームは、体にピッタリしたものであっても機能的で、女性が心地よく着られるものになりました。

荻上:そうしたなかで、マーベルは新しい女性キャラクターを出し続けています。ミズ・マーベル、アイアンハート、ソーのように、オリジナルのキャラクターから能力を引き継ぐ女性もいれば、スパイダーグウェンのように平行世界のヒーロー、あるいはグウェンプールのようなニューヒーローなど、彼女たちのオリジンは多様です。ファンに新しいキャラクターを受け入れてもらうというチャレンジをする際、工夫していることはありますか。

C.B.:新たなキャラクターを投入するのは、性別を問わず難しいですね。それがまさに私たち編集者の仕事なんですが。過去には敬意を表しつつも、新たな読者をつかむためには新しい魅力、新たな世代に対して共感できるものを紹介していく必要があります。私たちが新規のキャラクターを創り出すときに、性別から考えることはありません。性別がキャラクターを定義するわけではないので。私たちはまず、その人物の人となりを考えます。そしてスーパーパワーやコスチュームを決めて、最後のほうになって性別を考えます。

以前では女性キャラクターをはじめるときに、スパイダーマンあってのスパイダーウーマン、ハルクあってのシー・ハルクというような紹介をしていました。それは営業的・ビジネス的な理由で、すでに確立されたキャラクターから名前をとることで新しいヒーローが認知されやすくするための工夫でした。しかし最近では、そうしたパターンではなく、独立した女性キャラクターもどんどん出てきています。たとえば、Netflixで人気を博したジェシカ・ジョーンズ。『ランナウェイズ』や『クローク&ダガー』のようなシリーズからどんどん成長し、活躍しているケースもあります。


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