感情の鎧を身にまとう:rostarr interview

「僕は誰もがマスクを持っていると思うんだ」作家が何年にも渡って密かにスケッチブックに描き続けたのは、〈顔〉だった。

by Kazumi Asamura Hayashi
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25 February 2019, 8:50am

昨年12月、アニエスべーが日本初のアートギャラリーを青山にオープンさせた。同ギャラリーのこけら落としとなったのは90年代からニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動するアーティストのROSTARRによる個展〈PAREIDOLIC BEHAVIOUR〉。今回i-D Japanは、来日中のROSTARRにインタビューを敢行。作家本人と長きに渡り親交がある本誌編集長の林香寿美が聞き手を担当した。

——まずはアニエスとあなたの交流がどうやってはじまったのか、少し説明してもらえる?

彼女に出会ったのは2002年。僕が友人たちとアートショーをやっているとき。ちょうど9・11の直後で、ショー全体のテーマが9・11だった。そこで彼女に会った。そのときは、まだ若かった僕を〈未来〉としてみていたんじゃないかな。グラフィティをやったり、パソコンも使って作品を作っていたし、次世代アーティストっていう感じだったんだろうね。そのあと彼女は僕にフランスで店舗のペイントを任せてくれたり、東京でもイベントをやったりした。彼女はパリに〈Galerie du Jour〉というギャラリーを所有していて、そこで開催していた 「What About New York」という展示のキュレーションもしたんだ。

——その展示は私もよく覚えている。今回の展示はどういう経緯で実現したの?

僕は20年以上、スケッチブックにずっと顔を書き続けているんだけど、これまで誰にも見せてなかったんだ。でも、少し前にアニエスに最近の作品を見せる機会があってそれを見せたら、すごく気に入ってくれて、ここで展示したいと言ってくれたんだ。

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——この展示のコンセプト〈PAREIDOLIC BEHAVIOUR(パレイドリック・ビヘイビア)〉について聞かせて。

パレイドリアっていうのは心理現象の一種で、目で見たものを何か別のものとして認識すること。ほら、山を見たひとが「見て、顔に見える」っていうことがよくあるよね? そういう現象にずっと興味を持ってきた。

——展示作品はどういうプロセスで描いていったの?

ずっと作品づくりをしてたら煮詰まるから、一旦スケッチブックに30~40ページ顔を描いて、それからまた制作にもどる。でも顔ばかり描いているって少し変だよね。もしかしたら強迫観念みたいなものかもしれないし、秘密みたいなものかもしれない。今それを人に見せてみたくなったのは、同じことの繰り返しから逃げたかったっていうのもあるかな。

——逃げたかった?

カタルシスっていうのかな、何かを浄化したい感じがした。これを見せよう、捨ててしまおう、って思ったんだよね。この展示会は1998年からの20年間に描いてきた顔をセレクトしている。前に進みたかったんだ。僕はどんどん自分のスタイルを変えている。90年代前半はカラフルなものばかりだっけど、そのあと白黒のカリグラフィーに夢中になった。そのあとはまたカラフルでカクカクした幾何学的なものを描くようになって。常に自分をリフレッシュさせて、自分自身がやっていることを楽しみたいんだ。

——たしかにあなたのスタイルは常に変化してると思う。

9・11のあとは、カラフルな作品はやめてたんだ。自分の感じている想いを充分に表現できないなと思って。それで白黒のフェーズに入った。6~7年くらい続けたかな。でもオバマが大統領になったこともあって、また色を使う作品に戻っていった。写実的な絵を描くつもりはないけど、状況や感情が作品を左右するのは事実だよね。

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——アメリカでの出来事が作品に及ぼす影響はある?

たしかに政治的なことからなにか感じることはある。9・11があったり。ブッシュから黒人の大統領になって。今の大統領は嫌いだけど、それが作品に影響を与えているってことはないかな。僕はアクティビストではないから、政治的な作品を作ろうとは思わない。クローゼットの同性愛者みたいにカミングアウトして、自由になりたいと思ってるだけなんだ。

——もともと気休め的に書いていた〈顔〉シリーズがが今になってインスピレーションになることもある?

もちろん! スケッチブックに描いたものをそのまま絵にするっていうことはないけれど、アイデアを引き出すのには役立ってるよ。僕はずっとピカソやバスキアを尊敬してるんだけど、彼らはいつも顔やマスクを描いている。そうしたマスクの裏にあるのはパーソナリティだと思う。マスクは言わば鎧みたいなもの。感情の鎧というか。ポーカーフェイスをしていたら、傷つきやすいひとでも傷つかなくて済む。敬愛するジョーゼフ・キャンベルは『千の顔を持つ英雄』という本のなかでいつもマスクをしている男の話を書いている。マスクを取ると、その下には別のマスクがある。そのマスクの下にはまた別のマスクがあって……。僕は誰もがそういうマスクを持っていると思っているんだ。

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——なぜこの段階でこんなパーソナルなものを展示しようと思ったの?

それは単純に、みんなが見たことがないものだったからってこと。何かに肩入れせずに、新しいことにチャレンジするっていうのは僕がずっとやってきたことで。自分がスケッチブックに描いてきたものを、何らかのかたちで次のレベルまで持っていきたいと思ったんだ。タイミング的にも完璧だった。アーティストとして成熟したんだ。最終的に、これが自分が続けていきたいことだっていうのも分かった。もちろん、これを続けていく、と断言もできないけど。

——うん、絶対そうよね。この20年、日本にはよく訪れているよね? なにか変化は感じる?

はじめて来たのは98年。そのとき今よりもシーンが成長しきっていないっていう印象があったかな。でも今も似たようなことは起こってるよね。当時のカルチャーシーンの神たちは今でも君臨してるし。藤原ヒロシもNIGOもまだいるでしょ。

——(笑)。

別に悪い意味じゃなくて、ただ素直にそう思うんだ。でも東京のシーンはまだおもしろいと思う。NYより好きだね。東京には愛しかない。こうやって戻ってこれることには本当に感謝してるよ。

Credit


Text and Photography Kazumi Asamura Hayashi