グッチはなぜギリシャの古代遺跡で広告を撮るのか?

Gucciの2019年プレフォール コレクションのキャンペーンの舞台は、古代ギリシャの都市セリヌンテ考古学公園の神殿の遺跡。この遺跡について、アレッサンドロ・ミケーレの想いについて、Gucciとのコラボレーションが実現した経緯について、考古学者に聞いた。

by Osman Ahmed; translated by Ai Nakayama
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13 May 2019, 10:32am

アレッサンドロ・ミケーレGucciが提示するファッションは、どこか空想的で、時代を超越している。それは世紀、大陸を横断し、あらゆるサブカルチャー、あらゆる生きものに言及し(ドラゴンの赤ちゃんは誰もが覚えているだろう)、何もかもを取り込んでいる。パンクも、フラッパーも、バブーシュカも、東ローマ帝国の貴族たちも、ジャンルにとらわれず、煌びやかさを追求するアレッサンドロのレンズを通せば、すべてがGucciらしさになる。

そんなGucciが、2019年プレフォール コレクションの広告キャンペーンの舞台に選んだのは古代遺跡。現代的なセットとして再構成されたイタリアの古代遺跡で、アレッサンドロの複数の要素を並置させる卓越した才能が発揮されている(フィッシュ&チップス店でも、ベタなハリウッド黄金時代の撮影セットでも、GucciがGucciらしさを失わないのは、アレッサンドロのその才能ゆえだ)。

Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford

Gucciのビジュアルメイキングの常連といえるフォトグラファーのグレン・ルッチフォードと創りあげたのは、ハイコントラストなタブロー・ヴィヴァン(絵画的な実写)。登場人物は、レザーに身を包んだハードコアパンク、ローラーブレーダー、日焼けしたサーファー、筋肉隆々のボディビルダーなど、いかにもベニスビーチ的だ。晩餐会のあと、ワインや音楽に囲まれながら、政治や哲学を語り、詩を朗読する饗宴の様子を描いた、いにしえのフレスコ画を思わせるビジュアルに仕上がっている。

撮影場所は、セリヌンテ考古学公園。紀元前7世紀、シチリア島南西岸に築かれた古代ギリシャの都市だ。歴史マニアでもあるアレッサンドロは以前から、遺された古代文化を象徴するセリヌンテの遺跡群とGucciの世界観を融合させることを望んでいた。この遺跡について詳しく知るべく、セリヌンテ考古学公園の代表を務めるエンリコ・カルーソ教授に話を聞いた。

Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford

——まずはセリヌンテ考古学公園について教えてください。
セリヌンテ考古学公園は、300ヘクタールの面積を誇る地中海地域最大級の遺跡公園です。セリヌンテはギリシャ本土の都市メガラから入植者を受け入れた植民都市で、広大かつ豊穣な土地を誇り、力のある都市でした。その力を象徴するのが、ドーリア様式の発展がみてとれる、古代建築においても群を抜いて立派な神殿です。そのなかでも最大級の〈神殿G〉の遺跡は、力強く圧倒的です。

——かつてこの土地は、どのような場所だったのでしょうか?
ふたつの港を備えた、活気のある都市でした。あらゆる人種のひとびとが共に暮らす素晴らしい街で、フェキニア語、エジプト語、ゲール語、ラテン語などが飛び交うのが当たり前。というのもここは、地中海地域のあらゆる都市から貿易商が集う地点だったんです。市場や広場には、様々な出自、言語、スタイルをもつひとびとが集まり、多人種、多文化な社会を築いていました。

Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford

——Gucciとのコラボレーションに至った経緯を教えてください。
Gucciとのコラボレーションは、セリヌンテの古代遺跡のような歴史的ロケーションで撮影することで文化遺跡の価値を広く知らしめ、魅力を現代そして未来の世代に伝えること、保存に貢献するという意図のもとになされました。今回の広告キャンペーンは、セリヌンテという古代都市のコスモポリタン的な一面に共鳴しています。セリヌンテもGucciと同じように、多様性が調和して共存するコミュニティを築いていました。はるか彼方の土地までひとびとの想像力を飛び立たせ、観るひとが時間を超越したリアリティへとたゆたうことのできるキャンペーンだと思います。

——アレッサンドロ・ミケーレは、セリヌンテの何に惹かれたのだと思いますか?
彼を駆り立てたのは、かつて活気にあふれていたアクロポリスと、聖域がある西部の丘を蘇らせ、再びリアルなものとして提示したいという想いでしょう。この場所の美しさは、自然と多神教の神殿と人間の営みの融合にある。今回のGucciのキャンペーンは、失われたはずの古代世界を、私たちの眼前に立ちのぼらせてくれていると思います。

キャンペーンの核は、古代の〈饗宴〉という重要な社交習慣です。当時の饗宴は、アゴラの重要な建築物、またはセリヌンテを象徴する建物といった特別な場所で開催されていました。会場には踊り子や音楽家たちもいて、招待客たちが集う。みんなが演説を行なったり、詩を読んだり、長々と議論を交わしたりする厳粛な場でした。そのあとは自由なパーティが開かれていました。

アレッサンドロ・ミケーレは、多神教文化の中心を担っていたこの〈饗宴〉の場を現代版シンポジウムとして再現しながら、神話を想起させる場を創出しました。時が止まったかのような場、多様性が和やかに共存する場です。まさに、表現の自由を描いた現代のフレスコ画。古代が現代のための原動力になっています。

Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford

——Gucciとのコラボレーションは、セリヌンテ考古学公園に何をもたらしてくれるでしょうか。
アレッサンドロ・ミケーレの想像力のおかげで実現された今回のコラボレーションにより、この遺跡はしかるべき注目を集めることでしょう。世界中の若者たちにセリヌンテという歴史的遺跡を知ってもらえますし、過去と現在の密接な関係を築いてくれています。古代都市セリヌンテのすばらしさは、一目でわかっていただけるほど圧倒的で、存在感ある遺跡は、今もなお失われた時代について語り続けてくれている。イタリアのすべての文化はここから始まっており、好むと好まざるとにかかわらず、私たちはみんな、この文化を引き継いだ子孫なのです。現代人が無意識のうちに使用している哲学、芸術、地理学、数学をはじめとする数々の知識や学問の基礎がここにあります。つまりこの場所こそが、私たちの存在の根幹を成しているのです。

Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford
Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford
Gucci Pre-Fall 19 Campaign Shot By Glen Luchford

This article originally appeared on i-D UK.