タイポグラフィックの迷宮:グラフィックデザイナーGUCCIMAZEインタビュー

Acid Graphics(アシッドグラフィックス)やChrome Type(クロムタイプ)の潮流を牽引する存在として世界から注目を集めるグラフィックデザイナーGUCCIMAZE。自身初となる個展「MAZE」を渋谷DIESEL ART GALLERYで開催中の彼にそのクリエーションと現在の作風に至るまでのストーリーに迫るべく話を聞いた。

by Arisa Shirota; photos by Shina Peng
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30 July 2020, 8:39am

今や東京のクラブシーンでGUCCIMAZEの名を知らない人はいない。数々のパーティのフライヤーやロゴを手がけるグラフィックデザイナーとしてだけでなく、DJとしてもクラブカルチャーにおいてここ数年の進化の一端を担ってきたアーティストの1人だ。美術大学でビジュアルコミュニケーションを学び、卒業後デザイン制作会社に就職。商業デザイナーとして活躍する傍らTumblrやInstagramで自身の作品を発表してきた。現在はフリーランスのデザイナーとして国の垣根を越え媒体を問わずマルチに才能を発揮している。

一目見ただけでGUCCIMAZEの作品だとわかるエッジーなデザインと大胆で毒々しい色使い。オンラインの世界では彼の作品だけでなく存在自体が、計算された魅せ方と背景に感じるファッションと音楽の気配で見るものを惹きつけてきた。そして、彼の名はカニエ・ウェストとも親交の深いフランスのファッションブランドYouth of Paris(ユース・オブ・パリス)のロゴ制作をきっかけにクリエイティブの仕掛け人たちの目に留まった。

ここ数年で手がけた作品を挙げれば、枚挙に遑がない。全米No.1ミュージシャンとして名高いポスト・マローン、「Trap Queen」で有名なラッパーフェティ・ワップ、ビートシーンを牽引するアーティストフライング・ロータス、更にはアメリカを拠点に活躍する世界的ラッパーニッキー・ミナージュなど名だたるアーティストにグラフィックを提供。またAdidas Originalsをはじめとするファッションブランドともアートクリエイターとしてコラボレーションを重ねてきた。

そんなGUCCIMAZEが自身初となる個展「MAZE」が渋谷DIESEL ART GALLERYで開催中だ。過去3年間に制作したグラフィックやTシャツなどのアーカイブ作品、彫刻家KOTARO YAMADAやイラストレーター上岡拓也とのコラボレーションによる立体作品、自身初挑戦となるARやVR技術を使った新作など新しい表現手法を用いた作品が展示されている。自分の好奇心と感覚を頼りにクリエーションを生み出し続けるGUCCIMAZEに、グラフィックデザインに興味を持ったきっかけから個展についてまで語ってもらった。

──最初に、グラフィックデザインを始めたのはいつですか?

GUCCIMAZE:「グラフィックデザイン」という言葉に辿り着いたのは、高校卒業後の進路を決めるタイミングで「グラフィティ 大学」と調べたときでした。サーフィンをやっていた家族の影響やファッションへの関心をきっかけに、小学生の頃からストリートカルチャーに夢中だったんです。スケボーやグラフィティが特に好きで。それで調べていると、たまたま見つけた大学のグラフィックデザイン学科のページに、どこかの街のグラフィティの写真が載っていて「この学科にしよう」って。最初は「グラフィックデザインってグラフィティと違うのかな」くらい安直な考えでした。

──視覚に訴えるアートやデザインへの興味はいつ頃からあったのですか?

G:絵を描くことや文字への興味は昔からありました。2歳くらいから絵を描くことが大好きで。日本で生まれてすぐ父の仕事の都合でロンドンに引っ越したんですけど、現地の学校の先生に絵を褒められることが多くて。賞を貰うこともあったので、幼いながらに自分は絵が得意だという自覚がありました。ロンドンの街の壁に貼ってあるパーティのフライヤーもかっこいいと思っていましたね。その後、日本に帰ってきてからは書道にはまって。漢字のかっこよさに魅了されました。7年くらい海外にいたので、それまであまり触れてこなかった日本の文化が新鮮だったんでしょうね。

──今ではAcid Graphics(アシッドグラフィックス)やChrome Type(クロムタイプ)のグラフィックデザイナーと言ったら真っ先にGUCCIMAZEさんが思い浮かびます。現在の作風にはどのように辿り着いたのですか?

G:クラブの影響はかなり大きいです。美大に入学したのはいいけど、理論の授業ばかりで制作ツールを学べる授業があまりなかったり、同級生と興味の対象が違って気が合わなかったり、イメージしていた大学生活と現実は違って、フラストレーションが溜まっていて。そんななか逃げるように通い詰めていたクラブがきっかけで、デザインとかカルチャーについて話せる人たちに出会えて、自分の作品も徐々に世に出せるようになりました。友達の機材で練習してDJを始めたんですけど、その頃から美大生っていうだけでパーティのフライヤーを頼まれるようになって。ドリチケ2枚で依頼を受けていたこともあります(笑)。

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G:今考えたら滅茶苦茶なお願いなんですけど、自分の作品が世に出るのが嬉しくて、自力でイラレとかフォトショを勉強しながら見よう見まねで制作していました。そうして活動を続けているうちにシーパンクというカルチャーに出会って、その後はヴェイパーウェイブとかフューチャリスティックなデザインにも挑戦するようになって、今に至ります。

──パーティのロゴやフライヤーを制作されているだけでなくDJとしてもご活躍されていますよね。DJとして活動を始めたきっかけは何でしたか?

G:ファッション誌で見て憧れていた人たちの影響でした。例を挙げるならTHE LOWBROWSやDEXPISTOLSとか、それまでヒップホップのイメージだった人たちが2007年頃から突然エレクトロでDJをし始めて、何だか面白そうだと。それで自分もエレクトロを聞いてみたらハマってしまいDJを始めました。今ではその頃から憧れている人たちにデザインの仕事を振って貰うこともあって感慨深いですし、信頼してもらっているのは本当に嬉しいですね。

──GUCCIMAZEさんの作品はタイポグラフィックで、文字が判読できないくらいまで歪めるのが特徴的ですが、作品制作はどのような過程を踏むのですか?

G:個展のために作った新作4枚には「MAZE」というグラフィックが入っているんですけど、文字を入れる場合は必ず手書きから始めます。何度も同じ文字を書いているうちに「ここをこうしたらかっこいいかも」っていうアイディアが生まれてくるんです。その感覚に従ってひたすら描く。この最初の作業、PCでやったらそうは簡単にはいかない。僕にしかわからない絶妙なニュアンスが、PCだとうまく出なくて。なにより、手書きで描くのは楽しいし気持ちいいし。だから絶対に手書きで書いて、自分のなかでしっくりきてからデジタルに変換していますね。

──手書きでやっているからこそオリジナリティが出る。

G:そうかもしれないです。完全にアドリブで描いているので、自分の手で描くまでどんな形になるかわからない面白さがあります。書き終わってからやっと自分でも全体像が見える。カリグラフィーペンで描いていると、偶然ペン先が紙に引っかかってインクが跳ねちゃったりするのも好きで、そういう小さな事故も大切にしています。一旦書き終わった後紙の向きを変えてみたり、裏から透かしてみたりもします。想像もしなかったところに良いシェイプが見つかることがすごく多い。そういう意味では、意図的に偶発性を探しにいっているのかもしれないです。

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──描くことの快楽みたいなものはありますか?

G:描いているときが一番ブチ上がっていて、完成したら作品への興味・執着がなくなります。大学のときも課題の講評が終わったらその帰り道で作品を捨ててたくらいで(笑)。スタジオに色を切り替えられるLEDライトがあって制作中は作っているものに合った色に替えているんですけど、それも描いているときの楽しさをさらに高めるための雰囲気づくりなんです。 

──グラフィックを調整していく作業は際限がなくて「これで完成」という判断が難しいと思うのですが、作品が完成したとどうやって決めているんでしょうか?

G:意図的に完成度7割くらいで「完成」にしていますね。今はInstagramで見る人が圧倒的に多いと思うので、画面をスクロールされる数秒で勝負じゃないですか。それもあって、意図的に作り込み過ぎないようにしています。でも、今回の展示ではディテールまで見てほしかったので、作品のサイズも大きくしたし細部までかなり作り込みました。

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 ──新作のグラフィックは余白を活かした構図がとられていますね。

G:そうですね。今まではクライアントワークが多かったので、提出することを考えて真ん中にグラフィックを置くことが多くて。今回の個展では、作品を1つのアートピースとして見せるので、構成も含め自由に挑戦できることが多かったです。前からやりたかったことをやる良い機会になりました。

──なるほど。グラフィックの平面作品以外にも、スケートボードやネオンを使った立体作品も展示されていますよね。

G:SNSから飛び出して、リアルなものとして見てほしいという思いが根底にはあるんです。今までデジタルではなく実際に触れられる作品はCDやTシャツくらいしか作ったことがなかったので、今回立体物は絶対に作ろうと思っていました。あとネオンとARの作品は「映えスポット」として作りました。今の時代的にもSNSでの拡散が大切だと思うので。

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──VRとかARは以前から興味があったんですか?

G:本当はインスタのフェイスフィルターを作りたかったんです。けど申請や承認に結構時間がかかるのと、自分がやろうとしていたのが複雑でできる人が見つからなくて。それでディーゼルの人にも色々相談していくなかでARに辿り着きました。あの銀のARオブジェは「MAZE」をプリッさせてものなんですが、会場でしか体験できない巨大版と、一度QRコードを読み込めば外でも遊べる小型版もあって、そういうのも面白いかなと思って。

──今回の個展名を「MAZE」にしたのはなぜですか?

G:自己紹介のような展示にしたくて、自分のアーティスト名からとりました。別のワードは使いたくなかったんです。MAZEは「迷宮」とか「迷路」という意味ですが、見る側からして良い意味で想定外のことができたら良いいなとは作品を作るうえで常に思っていて。今回の展示ではARだったりネオンだったり今までリリースしてきた作品とは違った見せ方もしているので、作品を見て何かしら面白さを感じてもらえたら嬉しいです。

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GUCCIMAZE個展「MAZE」
会期: 2020年6月20日(土)- 10月13日(火)
会場: DIESEL ART GALLERY
住所: 東京都渋谷区渋谷1-23-16
cocoti DIESEL SHIBUYA B1F
TEL: 03-6427-5955 
開館時間: 11:30-21:00 (変更になる場合がございます)
入場料: 無料 休館日: 不定休
AR技術協力: KAKUCHO 株式会社
協賛: 株式会社 八紘美術
Web: www.diesel.co.jp/art
Facebook: www.facebook.com/dieselartgallery
Twitter: https://twitter.com/dieselart

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