Photos courtesy of the artists

次世代のバイリンガル・ミュージシャン9選

アリス・ロンギュ・ガオから、アニク・カーン、スピル・タブまで。多国籍なルーツをインスピレーション源に、多言語を自在に操る新進気鋭のアーティストを紹介。

by Eda Yu; translated by Nozomi Otaki
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08 September 2021, 2:12am

Photos courtesy of the artists

美学や音楽のインスピレーション源として、文化的アイデンティティは、現代の米国の音楽業界でますます存在感を強めている。ここ数年、自らのルーツを発信する手段として楽曲を活用する有名ミュージシャンも増えている。上の世代の同化主義的なマインドから急激に抜け出しつつあるこれらのアーティストは、自らが受け継ぐ伝統である言語を通して自文化を臆することなくアピールし、まったく新しい方法で移民コミュニティの居場所を築いた。

 クコ、オマー・アポロ、ルビー・イバラ、UMI、イェジなどのアーティストは、スペイン語、タガログ語、日本語、韓国語の音楽にスポットライトを当てた、軽々と境界を越えるバイリンガルの楽曲で、すでに熱狂的な支持を得ている。しかし、文化的ルーツに踏み込むミュージシャンが増えるにつれ、この新ジャンルを築いた言語の壁を越える音楽が、単なるトレンドにとどまらないことが明らかになっていった。

今後の活躍が楽しみなバイリンガル・ミュージシャン9人を、以下で紹介する。

Alice Longyu Gao with a purple headpiece and her arms outstretched sideways

アリス・ロンギュ・ガオ(Alice Longyu Gao)

中国語、日本語、英語を自在に操るトリリンガル・エレクトロニックアーティストのアリス・ロンギュ・ガオは、あらゆる意味で一目置かれるべき実力派だ。中国蚌埠市に生まれたアリスは2012年、アーティストを志してニューヨークへ渡る。それから9年、攻撃的かつ実験的なポップスで、エレクトロニックシーンで一躍有名になった彼女。しばしば大胆なハイパーポップと称されるジャンルに、アリスはパンクのエッジと彼女なりのひねりを加えている。

 

例えば、中毒性のある「She Abunai」のような曲では、日本の学校に通っていたときに身につけた日本語でラップ、歌唱し、キュートで危険な女の子の気を引こうとする歌詞で、白人男性の視点から語られがちなストーリーを覆した。いっぽう、最新シングル「Kanpai」は、自らのあらゆる面を受け入れることを通して見出した自らの成功を祝う1曲だ。アリスに乾杯!

marcos g standing sideways and looking over his shoulder

 アニク・カーン(Anik Khan)

クイーンズを拠点とするヒップホップアーティスト、アリク・カーンは、移民としてのルーツやインナーシティ(※大都市のスラム地域)で育ったことを中心に据えて楽曲を制作してきた。バングラデシュのダッカに生まれ、4歳から米国で育ったアニクにとって、南アジア系米国人としてのアイデンティティの二面性は、中心的なテーマであり続けてきた。

彼の楽曲は常にバングラデシュの伝統を讃え、2017年の「Columbus」の最後でもベンガル語の詩を引用している。さらに「Big Fax」などのMVでは、南アジア系移民のステレオタイプ的な描写に挑み、最新ダブルEP『Denied // Approved』では米国市民権を得るための闘いを綴っている。

さらに、音楽というジャンルにとどまらず、アニクはニューヨーク初のアジア系が経営するチャイカフェ〈Kolkata Chai〉のクリエイティブパートナーを務め、移民としてのバックグラウンドにオマージュを捧げるアパレルブランドも立ち上げた。アニク自身はバイリンガルアーティストを自称してはいないものの、昨年9月には初の全ベンガル語のトラック「Chorturdola」をリリース。これからの活躍に期待しよう。

arooj aftab with her hands on her head looking straight on
Photography DianaMarkosian

アルージ・アフタブ(Arooj Aftab)

パキスタン系米国人アーティストのアルージ・アフタブが生み出すのは、思わず夢中になってしまう音楽。ウルドゥー語と英語を行き来する心地よく軽快な歌声に、壮大なアンビエントミュージックとソフトなドラム。スーフィズムの礼拝の詩とニューエイジ的なトランス状態のはざまを漂いながら、深い霊性を宿す彼女の音楽は、豊かで幾重にも重なりながら、それでもなお整然としている。

バークリー音楽大学を卒業したこの作曲家は2015年、『Bird Under Water』でデビューすると瞬く間に大きな注目を集め、その後最新アルバム『Vulture Prince』でも成功を収める。アルージは両作ともに「故人の身体を鳥に捧げ、循環する生命へと還す場所であるゾロアスター教徒の葬儀場、沈黙の塔」に言及していることを明かしている。

erangerang sitting in the car looking out the window
Photography June Kim

イランイラン(Erangerang)

さまざまな境界をいとも容易く越えてきた韓国系米国人ラッパー/シンガー、イランイラン。韓国水原市に生まれ、済州島で育ち、13歳で米国に渡った彼女。韓国語と英語をシームレスに行き交うリリックと、トラップの要素を取り入れた力強いヒップホップ、ノスタルジックなR&B、韓国のソウルを融合した多様性に富んだ音楽を特徴としている。

 2018年、デビューEP『Eden』で見事な音域を披露し、その後の「Nothing Changed」「Foreign Exchange (feat. Barney Bones)」「Lost One」では、韓国語と英語の両方で自らのスタイルを広げる能力を存分に発揮した。

a black and white portrait of felukah looking over her shoulder

フェラッカ(Felukah)

カイロで生まれ育ち、18歳でニューヨーク渡ったエジプト系米国人アーティストのフェラッカは、自らのアイデンティティのあらゆる面と共鳴する音楽をつくっている。英語とアラビア語を自在に行き交う彼女の楽曲は、エリカ・バドゥを思わせる滑らかなネオソウルとトラップ寄りのラップを融合し、女性の権利や革命などのテーマを取り上げる。

キャリア初期から、エジプト人女性と米国人女性としてのふたつのアイデンティティに焦点を当ててきた彼女(フェラッカという名前も、ナイル川の伝統的なエジプトの帆船から取ったもの)。デビューシングル「Citadel」から最新作「Kawkab(アラビア語で惑星の意味)」まで、多文化に根差す自らのルーツに忠実であり続けている。

kazuo in front of a rainbow background wearing a white tshirt and red beanie

カズオ(Kazuo)

アフリカ系日本人のラッパー、カズオにとって、自分の居場所だと感じられた場所は存在しない。米国で生まれ、横浜市で育ったこのアーティスト/プロデューサーは、どちらの〈故郷〉にいても自分がよそ者のように感じられるという。これこそが彼がラウドで挑戦的な音楽を通して向き合っているテーマだ。現在ニューヨークを拠点とするこのバイリンガル・ラッパーは、猛スピードで(ときに同じラインの中で)英語と日本語を絶え間なく行き交いながらリリックを放つ。

音楽的なスタイルと同様、スタジオの内外で歯に衣着せぬ物言いで知られるカズオ。ブラックカルチャーにルーツを持つ日本のヒップホップシーンを特定のアーティストが独占していること、また、日本で育ったことが彼のメンタルヘルスに与えた悪影響について、公然と批判している。

しかし、彼の楽曲に共通する最も強力なテーマは、自らの多面的なアイデンティティに対する誇りだ。だからこそ、彼はヒップホップの世界で論じられる機会の少ない複雑なテーマに、独自の視点をもたらすことに成功している。

the band luna luna posed in front of a canvas backdrop
Photography Ash Rosas

LUNA LUNA

コロンビアに生まれ、現在はダラスを拠点に活動するカヴィ(Kavvi)のソロプロジェクトとして始まった4人組シンセポップバンド、LUNA LUNAは、常にラテンアメリカ系としてのアイデンティティを前面かつ中心に据えてきた。

メンバーはそれぞれ、独自の文化的遺産とともに育ってきた。母が好きだった昔のサルサ、メレンゲ、バジェナートの影響を強く受けたカヴィ。朝5時までクンビアやバチャータに合わせて踊り続ける家族から刺激を受けたというキーボード/バックアップシンガーのダニー・ボニラ。白人のハーフとラテン系のハーフの両親のあいだに生まれたドラマーのケイリン・マルティネスとベーシストのライアン・ゴードンは、家族の慶事や世代を超えて受け継がれてきた思い出を通して、自らのルーツに触れたという。

彼らのバイリンガル・トラック「Commitment」と「Fierra」では、日の光に満ちた陽気なポップスとラテンのリズム、情熱的な歌声が見事に融合している。ケイリンはLUNA LUNAの楽曲についてこう語る。「このコミュニティで(ラテンアメリカ系の音楽を)他の人びとに届けることができてラッキーだと思う。僕たちがつくる音楽が、僕が小さい頃に体験したように、みんなに特別な時間を与えているのはすばらしいこと」

marco g standing in a field looking off with a truck and people behind him
Photography Karon Sanders

マルコス・G(Marcos G)

フロリダ州ハイアリアのキューバ系が多数派を占める地区で、クリスチャンの家庭のもとで育った24歳のシンガーソングライター、マルコス・Gのオルタナティブなスタイルは、彼の多様性に富んだ生い立ちを反映している。コロンビアとニカラグアのルーツ、バチャータ、レゲトン、2000年代のR&Bから強い影響を受けた彼は、ドリーミーなインディポップ・メロディにのせてスペイン語と英語を自在に操る。

その最たる例が、英語でのキャッチーなトラックの後スムーズにスペイン語へと移り変わる「switch up」だ。「僕と君がスペイン語を話すように(It's like me and you are speaking Spanish)/君だけが僕の言葉を理解してくれる(Y solo tu entiendes mis palabras)」。ニューアルバム『looking for something』に収録されたこの曲は瞬く間に大ヒットし、再生回数は250万回を超えた。聴いてみればその理由がわかるだろう。

spill tab stretching out her sleeve with her arms raised in front of a lime green wall

スピル・タブ(spill tab)

2020年、シーンに大旋風を巻き起こしたスピル・タブ。異彩を放つシングル「Calvaire」と「Cotton Candy」で注目を集めた後、このロサンゼルスを拠点とするアーティストは、批評家から絶賛されたデビューEP『Oatmilk』で1年を締めくくった。このわずか4曲(どれも1分半そこそこの長さ)は、その短さにもかかわらず、リスナーの心に深く刻まれた。 

彼女の誘いかけるようなベッドルームポップは、ドリーミーなシンセと歪められたギターサウンドにのり、フランス語と英語の歌詞が彩る。さまざまな感情、瞬間、質感がひとつになり、唯一無二のサウンドを生み出している

多種多様な音の要素を調和させるスピル・タブの手腕は、紛れもなく彼女の多国籍なバックグラウンドに基づいている。韓国人の母とフランス系アルジェリア人の父のもと、バンコクに生まれた彼女は、高校に入学する前からタイ、パリ、ロサンゼルスと各地を転々とする。今秋には2枚目のEPをリリース予定だ。さらに毒性の高いバイリンガルミュージックを楽しみに待とう。

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