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      film Shinsuke Ohdera 21 April, 2017

      「見えざるもの」に導かれて:『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー

      フランスの巨匠オリヴィエ・アサイヤス監督最新作は、華やかなファッション界と殺人事件が交差するミステリー。“エレガントな衝撃”でカンヌを揺るがした本作には、アメリカのジャンル映画をよく知る監督ならではの試みが隠されていた。監督自身が、主演クリステン・スチュワートの魅力やインターネット文化と霊媒の共通点、劇中でSMSを多用する理由を語る。

      「見えざるもの」に導かれて:『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー 「見えざるもの」に導かれて:『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー 「見えざるもの」に導かれて:『パーソナル・ショッパー』オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー
      ©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

      『パーソナル・ショッパー』は、『アクトレス~女たちの舞台~』に続く、フランスの名匠オリヴィエ・アサイヤス監督最新作だ。「カイエ・デュ・シネマ」に映画批評を寄稿した後、86年『無秩序』で監督デビューしたアサイヤスは、『パリ・セヴェイユ』や『冷たい水』『イルマ・ヴェップ』『クリーン』『夏時間の庭』『カルロス』など数多くの傑作を次々と発表し、日本にも多くのファンを抱えている。『パーソナル・ショッパー』は、第69回カンヌ国際映画祭コンペ部門に出品され、5度目にしてはじめての監督賞をクリスティアン・ムンジウと分け合った。

      だが、『パーソナル・ショッパー』は、一筋縄でいく映画ではない。実際、カンヌでの受賞の際にもスタンディング・オベーションと同時にブーイングが起きた。アサイヤスは、「それがカンヌだ」と笑う。とりわけヨーロッパの映画界では、現代映画作家として常に新しいチャレンジを求められると同時に、お決まりの手法で観客を普通に楽しませることも期待される。すでに名声の確立した映画作家が、この矛盾のなかでスタイルを変容させるには大きなリスクが伴う。だが、アサイヤスはそのリスクを恐れなかった。『パーソナル・ショッパー』は、アサイヤスの新たな挑戦作なのだ。

      『アクトレス』に続く出演となるクリステン・スチュワートがこの作品の主人公モウリーンだ。彼女は忙しいセレブに代わって衣服やアクセサリーなど個人的な買い物を代行する「パーソナル・ショッパー」を職業にしている。一方、彼女は双子の兄を亡くしたばかりの霊媒師でもあり、兄から何らかのサインが自分に届けられることを心の支えとして日々を生きている。やがて、モウリーンの元にはSMSで謎のメッセージが届けられるようになり、その言葉に導かれた彼女は思いがけない事件へと巻き込まれていく。というのが、『パーソナル・ショッパー』の物語である。オリジナル脚本も担当しているアサイヤスは、こうした独創的なストーリーをどのように発想したのだろうか。

      「『アクトレス』のあと、別の作品をすぐに撮る予定だった。ところが撮影直前でそれが中止になってしまったので、新しい企画を準備する必要に迫られたんだ。『アクトレス』に出演したクリステン・スチュワートはとてもユニークな女優で、撮影中に僕は彼女と素晴らしい関係を築くことができた。彼女から作品作りにおいて大きなエネルギーとインスピレーションを得ていたので、その関係をさらに推し進めて映画を作ることは僕にとって自然な成り行きだった。『アクトレス』でも、表面からは隠された主題として「見えざるもの」を扱っていたが、それを明確な中心的テーマに据え、クリステンを主人公にした新しい映画を作ろうと思った。こうしたアイデアは、彼女なしにはあり得なかったものだ」

      「クリステンが出演した作品は『イントゥ・ザ・ワイルド』や『オン・ザ・ロード』などを見てとても気に入っていた。彼女は『トワイライト』シリーズでハリウッドの人気女優となったわけだが、そこから先に進むべきだと僕は考えていた。ああしたタイプの映画にずっと出ているわけにはいかないし、彼女自身の望みでもないと思った。そして僕たちはお互いとても良いタイミングで出会った。お互いを必要としていたんだ。『アクトレス』の脚本は彼女のために書いたものではなかった。あの年代のアメリカ人女優であれば誰でも良かったんだ。でも、僕は彼女に魅了された。僕たちは世代も育ってきた文化も全く違うが、映画作りの考え方において多くのものを共有している。撮影現場でとても直感的でありながら、同時に分析的でもあるんだ。そして、僕たちのこうした関係が『パーソナル・ショッパー』へと結実した。彼女は単なる女優ではなく、単なるインスピレーションの源でもない。この作品を共に作り上げたクリエイターなんだ」

      『アクトレス』と『パーソナル・ショッパー』は、ともにセレブリティの世界を描いている。そして、主演のクリステン・スチュワートは、ハリウッドの人気女優であり、現実にセレブリティとしてその世界を生きている。だが、この両作で彼女が演じているのは共にセレブのアシスタントという役柄だ。アサイヤスはなぜこのような捻りを加えたのだろうか。

      「クリステンはたしかにセレブリティの世界を生きている。だがそれは俳優としての彼女にとって重荷だと思うし、彼女はその世界のことが好きではないと思う。一方、僕が彼女と作った2本の作品は、ともにその世界から逃れようとする人間を描いている。だから彼女のスターとしての側面は、僕の映画にとって必要不可欠な要素のひとつになっているんだ。ただし、僕は彼女の背中からスターの重荷を取り去り、別の人間に与えた。こうした捻りによって、僕は彼女の人間的側面にアプローチすることができたと思う。セレブリティというヴェール越しにではなく、ありのままの彼女に興味があったからだ」

      クリステン・スチュワートは、『アクトレス』撮影の際、右腕にピカソの「ゲルニカ」をモチーフとしたフェイク・タトゥーを入れた。これは、彼女が演じた役柄にスクリーンでは描かれない人間的側面があることを示すため、クリステン自身が提案したとのことだ。そして彼女は撮影後、そのタトゥーを本当に入れており、『パーソナル・ショッパー』でも印象的に写されている。彼女もまた、アサイヤスの映画に人間的にコミットしたに違いない。

      「どうかな、僕には分からないよ(笑)。そのことについて彼女と議論したことはないんだ。でもたしかに、彼女のタトゥーの件はその通りだね」

      映画批評家時代から、アサイヤスはジャンル映画に深い愛情を注ぎ、ジョン・カーペンターやクローネンバーグ、ウェス・クレイヴンからの影響もしばしば口にしているが、映画作家としての彼はむしろフランス作家映画の伝統に属す部分が大きかった。ところが、『パーソナル・ショッパー』では彼のこれまでの作風を一変させるほどホラー映画の要素が大胆に導入されている。

      「それは、僕が語りたかった物語のためなんだ。主人公は孤独で、多くの出来事は彼女のイマジネーションのなかで起きる。彼女は他の世界との関わりをほとんど持たない。こうした彼女の不安や恐怖、混乱といったもの、そしてそこから生まれる暴力性を観客にも共有してもらいたかった。そして、ジャンル映画の要素というものは、観客と身体的つながりを作るのに大いに役立つんだ。その身体性がこの映画にはぜひとも必要だと僕は考えた。ただし、それはあくまでひとつの要素であって、映画全体がホラー映画になるというわけではないんだ」

      主人公はファッション業界という物質主義の世界で疎外され孤独になるが、彼女はそこで、ふたつのコミュニケーションに傾倒する。ひとつは、SMSやスマートフォンといった現代を代表する典型的なコミュニケーションツールであり、これは『アクトレス』などこれまでも多くのアサイヤス作品で重要な役割を果たしてきた。

      「こうしたツールの存在は、僕たちにとって単なる事実なんだ。僕はそれに対して良し悪しの判断を下すつもりはない。現代社会やそこで生きる人間を描こうとすれば、こうした要素から逃れることはできないし、不可欠でさえある。映画の観点から言えば、モニタやスマホの画面に向かってテキストメッセージを打つ人間を撮影することはとても複雑で難しい。メッセージを打つ人間、その画面、そしてそれにリアクションする俳優の演技を統合させるのはとても大変なんだ。しかし、その複雑さは現代社会を生きることの困難とどこかで関係があると思う。映画は現代を生きることをありのままに描くべきだと僕は思うから、この困難に立ち向かうことはとても重要なんだ。そして、この映画の主人公のようにまったく見知らぬ相手とコミュニケーションをとること、そしてその相手がもしかしたら幻想にすぎないかもしれないこと、『見えざるもの』であることは、現在のインターネット文化を実に良くあらわす現象だと思う。特殊なことではなく、これこそが現在なんだ」

      主人公が傾倒するもうひとつのコミュニケーションは、霊的世界とのスピリチュアルな交信だ。そしてそこでは、ヴィクトル・ユーゴーやヒルマ・アフ・クリントといった19世紀に活躍した人物の名前がきわめて印象的な形で引用されている。アサイヤスは、これらの背後にどのような意図を持っていたのだろうか。

      「現在という時間に過去のある時代、それもきわめて特定の時期の要素を投射することには大きな興味があった。それは、19世紀末のほんの短い時期だが、その時代、霊と交信をすることは科学的なことだと信じられていたんだ。この時代、たくさんの発明が突然生まれた。それは写真術であったり、電磁波であったり、X線や電話であったが、それらは多くの場合、目に見えない世界との交信という興味を背景にしていた。「見えざるもの」とのコミュニケーションという動機に突き動かされていたんだ。であるならば、スピリチュアルな世界との交信もまた科学的に探求できるはずだと当時の人々は考えた。自然主義を標榜する偉大な小説家ヴィクトル・ユーゴーでさえ、この新しい現象に夢中になった。彼は数年にわたって、毎晩のように降霊会を行い霊との交信を試みたんだ。彼は純粋にそれを信じていた。だから、霊を信じること、「見えざるもの」を信じることは頭のおかしいことではなく、ひとつのオプションだと言うことだ。歴史を参照すれば、それが現実に何かをもたらしてきたことは明らかだ。ヒルマ・アフ・クリントの場合はさらに興味深い。彼女は文字通りモダンアートを発明した人間だ。霊的世界とのコミュニケーションを通じて、彼女は抽象絵画を創始したと語っている。ところが、彼女の作品は1世紀にわたって人目に触れず、それ自体「見えざるもの」だったんだ。20世紀を規定するアートや抽象表現主義の根底にこうした1人の知られざる芸術家の存在、そして彼女が信じた「見えざるもの」があったということは、とても興味深いことだと思う。しかも、それは女性だった。未来は女性によって生み出されると僕は信じている」

      「ここには、もうひとつ重要なことがある。『見えざるもの』を描くことや死者との交信を描くことは、アメリカのジャンル映画にとって特別な意味を担ってきたということだ。それはアメリカという国が宗教との奇妙な関わりのなかで築いてきた世界観だと僕は思うが、世界には善と悪があり、見えるものは善であり『見えざるもの』は悪であるという信念がそこではしばしば機能している。現実の背後には邪悪なものが渦巻いていると彼らは考えているように見える。僕はそれに対して、「見えざるもの」もまた有益でポジティブでクリエイティブなものでありえることを作品で示そうと考えた。ユーゴーやクリントがそこから恩恵を受けたように、この映画の主人公もまた、『見えざるもの』の力によって前に進んで行くことになるんだ」

      ホラー映画の要素を大胆に取り入れながら、孤独な女性が大人へと成長していく姿を瑞々しくとらえた『パーソナル・ショッパー』は、やはりオリヴィエ・アサイヤス監督独自の作品世界を見事に展開した映画だと言えるだろう。日本公開時には是非とも劇場に駆けつけていただきたい。

      『パーソナル・ショッパー』
      監督:オリヴィエ・アサイヤス  出演:クリステン・スチュワート  ラース・アイディンガ―  シグリッド・ブアジズ  2016年 フランス  1時間45分  配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES  5月12日(金)より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開

      Credits

      Text Shinsuke Ohdera

      All Images ©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

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