ナイジェリア音楽のネクストシーン

ダビドとウィズキッドが世界的成功を収め、ナイジェリアのサウンドはメインストリームでその存在感を強めている。

by Helen Jennings
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11 May 2016, 6:51am

ドレイク(Drake)の、ウィズキッドとカイラをフィーチャーした最新シングル「One Dance」が、イギリスの音楽チャートで首位を獲得した。スケプタをフィーチャーしてウィズキッドの「Ojulegba」をリミックスしたのは昨年のこと。そのサウンドにアリシア・キーズが踊る動画がInstagramにアップされ、115,000「いいね」を獲得し話題となった。それに続く今作のリリースは、ナイジェリアのサウンドがドレイクに気に入られているだけではなく、音楽界のメインストリームに受け入れられ始めていることを強く感じさせた。ウィズキッドはR・ケリーのトラックにも参加しているが、一方でもうひとりのナイジェリア出身スター、ダビドは、ミーク・ミルとのレコーディングを果たしたかと思えば、『Fader』誌の表紙に起用され、大型イベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)で観客を沸かし、ついにはSonyと契約まで交わした。現在世界で沸き起こっているナイジェリア・サウンドへの傾倒は、近年、ナイジェリア出身アーティストがビッグネームと次々に共演していることに端を発している。カニエ・ウェストとディバンジ、P-スクエアとリック・ロス、ティマーヤがショーン・ポールとオーラミデイ、ドン・ジャジーとリーカド・バンクスがウェールと共演を果たしているが、ここに挙げたのはほんの一部でしかない。また先日、シアラが新たなダンスムーブを習得するためにナイジェリアの首都ラゴスに飛んだという動きも見られる。ナイジェリア音楽業界は、ラゴスで大きなドル箱になっているのだ。ナイジェリアの音楽シーンは、これまでずっとささやかれてきたクロスオーバーを実現しつつあるのだ。

ナイジェリアはアフリカの強国だ。人口は1億8,200万人でアフリカ大陸一、経済も大陸一の規模を見せている。またクリエイティブ首都ラゴスには、伝統的に恵まれた音楽の歴史がある。1960年代より、キング・サニー・アデやファタイ・ローリング・ダラー、エベネザー・オベイ、オーランド・ジュリアス、シナ・ピータースなど、多くのナイジェリア出身アーティストが世界の注目を集めてきた。しかし、アフロビートの伝説的アーティスト、フェラ・クティを超えて成功をおさめたものは後にも先にもいない。彼は現在でもその音楽で人々をインスパイアしつづけている。90年代にヒップホップが流行した後、トライブスメンやプランテイシャン・ボーイズらその道の先駆者が現れ、そこからパームワイン・ミュージックやハイライフ、ジュジュ、フジュなどの音楽ジャンルがナイジェリアに生まれて、トゥーフェイス・イディビア、ワンデ・コールやMI、バンキーW、ドクター・シドなどがスターダムを手にした。

今日の若いアーティストたちは、先駆者たちが築いた基盤のもとに新たな音楽を作り出している。バーナ・ボーイ、パトランキング、キス・ダニエルらは、独自のナイジェリア・サウンドによって人気を拡大している。アフロビート、ジョロフ・ミュージック、ナイジャポップ−−ナイジェリアの伝統的リズムに現代的なフックとフレッシュなビート(トラップ、ダンスホール、アルケイダ、クワイトなど)をミックスしたサウンドは、中毒性が強い。この音楽シーンが成熟していく中、オートチューン多用のクラブ音楽を超えて、この最新音楽ジャンルを担っていく新たなアーティストたちが次々に台頭してきている。

「誰もが全く新しい音楽を望んでいて、世界の注目は今、ナイジェリアに注がれている。ナイジェリアの音楽は解りやすいけど、そこに神秘的な力があって、アフリカン・クールとも言うべきものがある」と、DJオビは説明する。彼は、ラゴスのクラブSIPのレジデントDJで、Lynxxxと共にイギリスツアーに出たこともある人物。彼のセットリストには、リアーナの「Work」と並んでYceeの「Omo Alhaji」が含まれること必須だ。「ラゴスは、アフリカのニューヨークみたいなもの。街のペースが速く、そこに暮らす人々は楽しむことに貪欲なんだ。新しいアーティストたちが新しいサウンドを作り出していて、そこにはさらなるサウンドの多様性が生まれ、"よりグローバルなサウンドを作ろう"という勢いが業界に生まれてきているんだ」。ゴーストと共にラッパーの2人組ユニット、ショー・デム・キャンプ(Show Dem Camp: SDC)で活動するテクは、DJオビの見解に賛同する。「ナイジェリアで、音楽は現実逃避の手段なんだ。燃料も電気も絶えた1週間が終わったら、ナイジェリアの人々はクラブに行ってキャッチーな音楽を聴く。すべてが"シャンパンのボトルを開けて"とか"ケツを振れ"みたいな世界観の音楽ってわけでもない」。テクは、注目すべき新人としてシミ(Simi)とフォルツ・ザ・バード・ガイ(Falz the Bahd Guy)の名を挙げる。

SDCは、テミ・ドールフェイスやフンバイ、ポー、キッド・コネクト、エンシカク、そしてSyndik8 Records社のプロデューサー、アイコン(Ikon)らが結成したスーパーグループ、The Collectiv3のメンバーでもある。「ナイジェリアには多くの才能が生まれている。今の世代、そして続くいくつもの世代が、世界で最も影響力をもつ才能をここから輩出していこうとしている。間違いなくそんな未来がくる」とアイコンは言う。「俺が音楽を一緒にやるアーティストたち誰もが、"ナイジェリアのカルチャーを進化させられるような音楽を"と頑張ってる」。アイコンの最新シングル「Solomon」は、それを如実に物語っている。ヨルバ土着のリフレインにラップが重なるそのサウンドは、去ったものを惜しみながらも人生を謳歌する姿勢を歌った曲だ。

歌手のフンバイとポーは、正統派アフロソウルのサウンドを打ち出し、これまでに「Sexy Bitch」や「Adore Her」といったトラックで共演も果たしている。「音楽こそ僕がこの体に受け継いだもの。クラシックなものを2016年に再解釈しようとしているんだ。いまナイジェリア人アーティストが作り出しているものはとてもユニークだよ」とフンバイは言う。フンバイとポーは、先日好評のうちに閉幕したギディ・フェスティバル(Gidi Culture Festival)でもパフォーマンスを披露した。"ナイジェリアのユースカルチャーに生のエンターテインメントを"と発足された団体エクリプス・ライブ(Eclipse Live)により、3年前から年1回ペースで行われているイベントだ。国内最大の屋外音楽フェスへと成長し、今ではアフリカ大陸全土から大物アーティストたちが参加するまでの盛り上がりをみせている。「ナイジェリアの若者にとって、音楽は現実から抜け出すための手段で、実現可能な夢のキャリアでもある。ギディ・フェスの意義はそこにあるんだ。ナイジェリアはアフリカの先頭を走っている。大陸のなかで最もシーンが盛り上がっているからということもあるけど、僕のミニマルなサウンドからオーラミデイの大げさなまでのストリートサウンドまで、ナイジェリアで生まれるサウンドのクオリティは群を抜いてるからね」と、大ヒット曲「Who You Epp」でフリースタイルを披露したポーが付け足す。

ギディ・フェスは、ナイジェリアン・ミュージックの全ジャンルを網羅した独自のイベント構成で際立っている。今年は、ナイジェリアン・ミュージック界のファーストレディであるティワ・サヴェージとイェミ・アレードが、アーバンなサウンドで人気のアディクンレ・ゴールド(Adekunle Gold)やディバンジとステージを共にした。「ギディがハイスタンダードを打ち立てた。ここからは、アフリカ大陸を超え、どう世界に進出するかだ」と、今後ギディを南アフリカ、ケニヤ、ガーナ、そしてアメリカへと拡大していこうと目論んでいるギディ共同創始者、チン・オーケーケ(Chin Okeke)は話す。

しかし、内情に詳しい関係者は、"ナイジャ・ミュージックが世界で真の流行となるには、その下部構造に依然として多くの課題が残る"と口を揃えていう。「私たちはここまで大きく成長したし、いま私たちが持っている可能性も計り知れない。でもまだまだ進化の余地が残されている領域があると思うの」と、現在「School Your Face」がヒットしているドラマ・ソウルの女王、テミ・ドールフェイスは言う。「まず私たちは知的財産権保護の構造をしっかりと構築しなくちゃならない。アーティストが、ライブや様々な契約金に頼らなくても収入が得られるように、音源のリークを禁止することが重要」。

ラゴス出身で、現在はMTV2の番組『Uncommon Sense』にレギュラー出演するなどニューヨークで活動している、DJカッピーは、数のもつ力を信じているという。「ナイジェリアは、アフリカ大陸全体のペースを作り出した。次から次へと溢れ出してくる私たちのノイズは無視できないはず。でもこれからの永続的なクロスオーバーには、もっとパン=アフリカのコラボレーションが必要だし、もっと融合に意欲的でなきゃならないと思う。偉業を成し遂げられるときがきたのよ」

Credits


Text Helen Jennings
Photography courtesy Gidi Fest
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.