政界からランウェイまで、プリンスが呼んだ嵐 

かつて、副大統領の妻が問題視し、議会での議論まで発展したプリンスの音楽。彼が及ぼした影響は、音楽というジャンルにとどまらなかった。

by Emily Manning
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27 April 2016, 11:00am

1985年、元アメリカ副大統領アル・ゴアの妻、ティッパー・ゴアは、娘のカレンナにプリンス(Prince)の大ヒットアルバム、『Purple Rain』を買い与えた。しかし、娘が聴いていた「Darling Nikki」のあまりにもあけすけなセックス描写の歌詞に気づき、ゴアはすぐさまCDを店に返却するよう命じた。開封され、再生までされたCDはもちろん返却できなかったが、これをきっかけにゴアはPMRC(ペアレンツ・ミュージック・リソース・センター:過激な性表現や暴力的表現などを含んだ音楽作品に対し、未成年保護者の監督を推奨することを目的として設立された団体)を発足。レコード会社への働きかけを通して、不適切な表現を含むレコードに「Parental Advisory(保護者への勧告)」と書かれたステッカーを貼って回った(このステッカーは象徴的なデザインとしてAlexander Wangの2014年春夏コレクションにも用いられている)。これは歴史的な出来事だった。70年代の性解放運動の只中に育った世代が、気づけば、"家庭の価値観"を盾に、政治機関と睨み合いをしていたのだ。この出来事は、その後10年にわたって影響を及ぼし続け、現在のアメリカを形作ることとなった。

彼らが言うところの "ポルノ・ロック"の聴問会—フランク・ザッパが議会委員会による証人喚問で華麗な反論を繰り広げた—を開く前、PMRCは「不道徳な15曲(Filthy Fifteen)」を公式に発表。ドラッグやアルコールといったテーマ(ブラック・サバスの「Trash」)や暴力(トゥイステッド・シスターの「We're Gonna Take It」)、オカルト(ヴェノムの「Possessed」)などを名指しして、それらの音楽の不適切性を強調したが、彼らが最も問題視していたのはやはりセックスというテーマだった。リスト中10曲は、セックスもしくはマスターベーションに関係した歌詞を含んでいると判断され、非難の対象となったアーティストはジューダス・プリーストからAC/DC、マドンナ、シンディ・ローパーにまで及んだ。だが、リストのなかで特に問題視されたのは、プリンスの「Darling Nikki」だった。

マドンナの「Dress You Up」もシンディの「She-Bop」も、歌詞を読めば何を言わんとしているのかは一目瞭然だ。電子サウンドを多用したシンディの「She-Bop」は、50年代風ハンバーガー屋を原子力の時代に描いたユーモラスで様式的なビデオとともにリリースされた。またマドンナのアップテンポなダンスポップ「Dress You Up」は歌詞のうちにファッションのモチーフが性的な意味を示唆していた。だが、彼女たちが表現するセックスは、それがいかにポジティブで自発的なものであろうとも、プリンスのそれとは決定的に違っていた。「Darling Nikki」は、ほのめかすことも、示唆することも、隠喩で表現することも、目配せのようなジェスチャーを見せることもなかった。総レースのキャットスーツに身を包みハイヒールのブーツをはいた男が、音と歌詞とで、女性のセクシュアリティを直接的に、臆することなく表現していた。

"Darling Nikki" performance scene from Purple Rain.

この曲のなかでプリンスは、「ホテルのロビーで雑誌を見ながらマスターベーションをしていたセックス狂」との情事について歌っている。女は彼を、彼女の「お城」へと連れていき、そこで彼は、彼女が「金で買える道具はすべて持って」いるのを目の当たりにする。翌朝、彼が起きると、「電話番号を添えて/"ファンキーなひと時をありがとう/腰を振りたければいつでも電話を"と書かれた置手紙が階段に残されて」いる。この曲のコーラスと間奏部分には超速のギターリックスや圧倒的なパーカッションが入るが、プリンスが歌うこの歌詞と声を前に、その存在感は薄い。女がセックスで見せる圧倒的な魅力と彼女の経済的自立を理由に、男は女の支配を甘んじて受け入れる。プリンスはそこに、唯一無二のスタイルを確立した。

アメリカのニュースサイト「The Daily Beast」は、プリンスが、「ボウイのようにもったいぶったジェンダーブレンダー(身体的特徴によるジェンダーとは逆のジェンダーの服装をすることでジェンダーの本質を問う人々)ではなく、もっとタフで気骨あるアーティストだった」と書いている。プリンスは、意図して、ジェンダーの単純な二分化に揺さぶりをかけようとしたわけではなかった(実際、プリンスは敬虔なクリスチャンで、同性結婚反対の立場を示していた)が、セックスが持つ力の表現を通して、ジェンダーの既成概念を破壊し、再構築した。「Darling Nikki」を始め、「Raspberry Beret」や「Do Me Baby」、「Scandalous」などの曲で、プリンスは強く支配的な女性に服従することで感じるエクスタシーを歌っている。そして彼のコスチュームを通して、大胆で新しい男性ジェンダーのあり方を打ち出していった。

シルクやレース、フリル、フェザー、ラメ、リボン、スパンコール、サテンのグローブ、水玉などの女性的なモチーフは、プリンスの男性的な自己表現には欠かせない重要な要素だ。「プリンスは、くどいほどに飾り立てたフェミニニティを装い、それを挑発的な男性のセックスアピールにまで押し上げた。彼の影響は絶大だった」と、『The New York Times』は書いている。特に80年代の全盛期、セクシュアリティを超えたプリンスのスタイルはまばゆいばかりのゴージャスさを表現していた。大富豪の愛憎劇を描いたドラマ『Dynasty』が全米1位の人気だった1984年に、セックスと経済力が混じり合うときを甘く歌った「Darling Nikki」と「Material Girl」がリリースされたのはただの偶然だろうか? Balmainのオリヴィエ・ルスタンが、80年代的な "強い女性の装い"を取り入れた 2013年秋冬"マキシマリスト・コレクション"は、テレビメロドラマ『Dynasty』の登場人物を彷彿とさせる一方、プリンスのイメージも強く感じさせるものだった。

プリンスは、PMRCの聴問会でザッパやジョン・デンバー、ディー・スナイダーに混じって反論をすることこそなかったが、彼の音楽はアメリカの政治に直接的な影響を与えた。彼の業績は正当に評価されているとは言えない状況だが、現在の音楽界には、強気でフェミニンなスタイルと電子サウンドをもって、性とカネ、そして支配力といったテーマを直接的に音楽で表現する彼の後継者も多い。ヤング・サグとミッキ・ブランコ、そしてプリンスから得たインスピレーションをもとに独自の流動的サウンドを作り上げる、デヴォンテ・ハインズや、イヤーズ&イヤーズのオリー・アレキサンダー、そしてフランク・オーシャン。彼は先週、プリンスの逝去に際して、自身のTumblrに感動的な文章を投稿している。「プリンスは、ビキニのボトムズとハイヒールのニーハイブーツのみを身につけてテレビに出演したストレートの初めての黒人男性だ。それだけでも大事件だった」と彼は、すべての文字を大文字で打ち、投稿している。「彼が、"性役割"という古臭い考えを歯牙にもかけず、自由に振舞ってくれたおかげで、僕は自分のセクシュアリティを自然に受け入れることができたんだ」

Credits


Text Emily Manning
Dirty Mind album cover via YouTube
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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