Photography Flo Kohl Maison MIHARA YASUHIRO 2020 SS

人の心から〈アングラ〉が失われるとき:Maison MIHARA YASUHIRO 2020SS

「アンダーグラウンドカルチャーへの憧れ。マイナーに対する敬意。1990年代とは、そういう時代だったと思う。少なくとも、僕はそうだった」

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Flo Kohl
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08 July 2019, 1:00am

Photography Flo Kohl Maison MIHARA YASUHIRO 2020 SS

テクノロジーの進歩がもたらすグローバリゼーションの功罪のひとつは、十人十色のカルチャーをまるで等価値のように語ってしまうこと、あるいは“そう見える”ように書き換えてしまうことではないだろうか?パリの地で三原康裕は、「インターネットなくしては成り立たない現在、情報化やグローバル化の余波は確実に人の感覚を蝕み、一律的な方向へと導いていく」と、私たちに語りかけた。

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今季のMaison MIHARA YASUHIRO(MMY)がフォーカスを当てたのは、「アンダーグラウンドカルチャーへの憧れ」や「マイナーに対する敬意」が、いま、人々のあいだでどのように変質しているのかだ。「1990年代とは、そういう(感覚が確かにあった)時代だったと思う。少なくとも、僕はそうだった」と話す、1972年生まれの三原自身の感覚を道導にした、現代人の感受性についての問いかけでもある。

彼は、「人が起こした〈エラー〉は、どんどん正当化されていく」と言い、「今、〈アングラ〉は共通言語でもカルチャーでも、何モノでもなくなりつつある」と付け加えた。とは言え、現代に対するアイロニカルで深刻な眼差しがあったとしても、過去を短絡的に拝めるような悲観的なコレクションではない。

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パレ・ド・トーキョーに設えたショーセットには、古めかしいテレビ、パリの街中から拾い集めたような段ボールケースに潰れたペットボトル、古本などが散乱している。しかも、これらのモノとモノの隙間から火花があがった。90年代の空気感を表しているというより、世界に埋もれて見逃されているものを寄せ集めた感じと言った方がしっくりくる。

「かつて〈アングラ〉がメジャーの土俵においても存在し得た時代を見つめ直し、自分なりの解釈で洋服に落とし込んだ」というコレクションは、ネット上にアップされるフロントルックだけで一着の構造を正確に捉えることは難しい。シャツ、カットソー、ブルゾンとまったく異なる洋服をマルチドッキングする、躍動的で、ブランドを象徴するアプローチは、前シーズンより静かに鋭さを増している。グラフィック、チェック、ボタニカル、カモフラにいたる柄とテクスチャーの異なるテキスタイルが一着のなかにうごめくように混在しているのだ。

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服地を横断する予期せぬ切れ込みから違う生地がはみ出していたり、服に服を自由気ままに貼り付けていたり、さらに、インサイドアウトによってアームホールやネックホールが複数あるものは、裏地にある袖に(そう、仮に間違って)腕を通せば表情がガラリと変わる。MA-1やデニムジャケット、モッズコート、トレンチといったミリタリーやワーカーの要素、ヨーロピアン・ビンテージのディテールはコレクション全体に一貫しているが、もはや既存のカテゴライズはあまり意味をなさないほど再構築されている。

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複雑に仕立てられた服の着方は着る人にゆだねられているし、間違った着方をしようとデザイナーは笑いながら「いいね」と言うことだろう。ショーノートは「これらの洋服には、警鐘と敬意が複雑に絡み合っている」と締めくくられた。自動車の衝突実験で人形につけられるターゲットマーク。目を防護するようなアイウェアの数々。人々がひしめき合っている烏合の衆を描いたテキスタイルからは、「ともすれば、一律化しない個性とは何?」と、三原の声が聞こえてくるようだ。

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日本のインディペンデントな音楽シーンを牽引するDISK UNIONとの、シューズからバッグまでのコラボレーションが加わったMMYのコレクションには、三原の〈アングラ〉への変わらぬ敬意が満ちている。そう、彼が言う敬意は、人の感情だけが発することができる。カルチャーが熱を帯びるのも、自分とは違う他人の感覚を偽りなく正当化するのも、本当はきっと人々の敬意の連鎖があってこそなのだ。


Credits

Photography Flo Kohl
Text and Interview Tatsuya Yamaguchi