記憶が交錯するところにて:malamute 19SS

デザイナーの小高真理は、国内のハイレベルなテクニックで仕立てられた精緻なニットウェアで、過去と現在を結びつける記憶の“やりとり”を描き上げた。

by Tatsuya Yamaguchi; photos by Houmi Sakata
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18 October 2018, 7:33am

たとえば、写真を撮る行為は、思い出、もしくはその時間や出来事——いくぶんかの時が流れると忘れてしまいかねないこと——をとどめることでもある。その一葉を見返すことさえあれば、そのときの記憶と情動が自分のもとへ“ふたたび”かえってくる。が、そうした過去と現在の接合点は、正確無比なものではない。妄想で記憶を補完したり、都合の良いように解釈していたり、何かしらの“ほころび”が無意識に生み出されていることだってある。つまり、記憶とはあまりにも不確かなものなのだ。

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2014-15年秋冬コレクションでmalamuteをスタートさせたデザイナーの小高真理にとって初めてのランウェイショーが開かれた。テーマは「Re:」。受け取ったメールに“返信”するとき、自動付与される文言だ。今季のはじまりについてメールで尋ねると、彼女からの返答があった。「それは今年1月、劇団マームとジプシーの10周年記念公演の一演目である『冬の扉』のために衣装を制作したこと。そのとき、作家の川上未映子さんが書き下ろした『まえのひ』という詩を見せていただいたのです」。刻々と時間は流れ、前進する人々にとって、常に“前の日”は存在し続けている。しかし、もうひとつのコレクションの着想源であるクリストファー・ノーランが監督したサスペンス映画『memento』の主人公・レナードのように10分間しか記憶を保つことのできないとしたら「まえのひ」という言葉の意味は変わってくる。小高は今季、“不確かな記憶”を手がかりに、かつて訪ねたことのある場所や、おぼろげな記憶をめぐることそのものについて描くことにした。

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虹なのか、空なのか、あるいは海なのか。ぼんやりと何かを写した無数のポラロイド写真が、会場の床に敷き詰められていた。会場が明転して初めに現れたのは「女性を考えるきっかけとなった」というmalamuteを象徴する「バラ」を描いた、ジャカード編みのローズニットワンピースを着た福士リナ。さしずめ、このショーの主人公のひとりである。「その柄部分だけに“ほつれ”があります。これはとても難しい技術で、経年変化してある場所までほつれたら目が止まるようになっているんです」。首元には“RINA”のタトゥー。記憶を失ってしまう『memento』のレナードが、ポラロイドにメモを書き続け、体にタトゥーを刻みながら犯人に迫っていく姿とよく似ている。風を孕むオパールプリントのスカーフが、腰に巻きつけ結び直すことで表情を変えていくように、不確かな——もとの形を失った——記憶を修復(repair)していくさまは、ニットのほつれ、編みの歪み、大胆な切れ込みやねじれによって表現された。

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「ゲージや糸の設定、編み方のテクニックで変わる表情の違い」。テーマを正確に具現化するディテールをつくり出せるのは、日本の技術があってこそだと、生地のテクスチャーに強いこだわりを持つ彼女はいう。「malamuteの商品はすべて国内の工場、職人さんの力によってつくられています。ニットウェアブランドとしてスタートしたので、職人さんとの話し合いを経て、テキスタイルや編み地をデザインの出発点にすることが今でも多いです」

「私は、これからのファッションには内面にある複雑な“人間らしさ”が求められていくと考えています。その複雑さゆえの身のこなしに、エレガンスとパワーを感じるのです」。“強さと柔らかさをあわせもつ現代女性のためのライフウェア”を提案したいと綴った、彼女からのリプライは続く。

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Credit


Text Tatsuya Yamaguchi
Photography Houmi Sakata
Editor Noriko Wada

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