なぜ機内映画の『キャロル』には女性同士のキスシーンがないのか?

これは同性愛を描く映画において問題視せずにはいられない現状だろう。

by Emily Manning
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31 August 2016, 5:40am

2012年、Fox Newsは作家のボブ・デモス(Bob DeMoss)に話を聞いた。彼は以前、デルタ航空を利用した際に起こった可笑しな悲劇とその様子を「私の視界に女性のはだけた胸元と"親密なシーン"が飛び込んできたんだ。」と語った。さらに「アメリカのドラマ『Boss』で登場人物が私の顔から6インチ先の距離で胸元をあらわにして服を脱ぎ捨て、彼のズボンのジッパーに手を伸ばしたシーンでは、慌てて備え付けの紙袋でスクリーンを隠したよ」と笑った。

しかし、2015年に公開されたテッド・ヘインズ監督の、同性愛を描いた映画『キャロル』を機内で鑑賞するデルタ航空の利用客は、ボブ・デモスが経験したようなハプニングに遭遇することはない。航空会社はここ数年、登場人物同士の"愛情行為のシーン"をカットしたバージョンの映画を流しているのだ。カットの対象となるシーンには『キャロル』で主演を務めたケイト・ブランシェットとルーニー・マーラのシンプルなキスも含まれていた。しかし、このシーンこそこの映画の重要なポイントではなかったか?

先日、LGBTトピックがお得意のコメディアンのキャメロン・エスポシト(Cameron Esposito)がTwitterで大幅に編集された『キャロル』についての落胆を投稿した。そのツイートに対して、機内で初めて『キャロル』を観たという他のクィア女性は「劇中に一切愛情行為のシーンがないのは、てっきり監督であるヘインズの思惑かと思ってた」とリプライ。エスポシトはさらに「それも一緒に飛行機に乗っていた私の友人は、隣で俳優のポール・ジアマッティが激しいSMプレイを楽しむシーンを観てたのに、『キャロル』のキスシーンは全部カット!? ヒドいにも程がある」とツイートした。彼女に賛同する声も多く集まっている。

この件について、レズビアンのポップカルチャーを取り扱っているウェブメディア「After Ellen」は、デルタ航空の広報部にコンタクトを取った。デルタによると「『キャロル』についてはスタジオ側がフルバージョンと、愛情行為のシーンを含まないように編集されたものを制作していています。その編集バージョンは、我々デルタのガイドラインに沿わない2つのシーンとすべてのキスシーンをカットしたものだった」という。また「あいにく私たちは、映画を編集したり、キスシーンなどを頼んで省いてもらうような権限は持ち合わせていない」ため、編集されたバージョンを選んだとも語っている。そして、デルタからの返答は次のように締めくくられている。「編集されたものとそうでないもの、どちらを使うかを決める権限はすべての航空会社に共通するものだった」

1952年にパトリシア・ハイスミスが書いた小説『The Price of Salt』を映画化に際し翻案した脚本家のフィリス・ナギー(Phyllis Nagy)は、その後Twitterで、アメリカン航空とユナイテッド航空の2社が無編集の劇場版『キャロル』を採用していることを明らかにした上で「愛情行為のシーンなしの『キャロル』では全くもって意味がない」とだけコメントした。

この一連のニュースが広まると、Twitterでは「#free carol」というハッシュタグとともに過度に編集されたバージョンに対する不満が広まり、多くの批判がデルタに向けられた。しかし、彼らは『キャロル』の制作を請け負った映画会社ワインスタイン・カンパニーに問いかけるべきかもしれない。「なぜ、この作品の意義に直結する要素を取り去ってしまう編集バージョンを用意したのか」と。

同性愛を描く映画が、ほのめかすような演出や曖昧な描写を強いられてきた歴史は、気が滅入るほど長く続いている(ドキュメンタリー映画『セルロイド・クローゼット』やスティーブン・スピルバーグが監督を務め、同性愛を描いた映画にも関わらずアメリカの映像閲覧における年齢規制をPG-13に留めた『カラーパープル』を観てほしい)。ハイスミスが『The Price of Salt』を書いた50年代は、同性愛者のキャラクターが批判を浴びさせられ、後ろめたい思いをするという結末が一般的だった。それから今回の映画化まで60年もの時間が経過しているにもかかわらず、同性愛がハッピーエンドを迎える『キャロル』のような映画は、今なお数少ない例外的な存在だ。幸いにも『キャロル』は批判の雨を浴びることはなかったが、映画界はいまだに同性愛嫌悪は根強く残っている。

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Credits


Text Emily Manning
Image © 2015 The Weinstein Company. All rights reserved.
Translation Yuka Kikuchi

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