Photos by Andrew Kung.

米国では「非性的」な扱いをされるアジア人のイメージを逆手にとった写真家

アンドリュー・カンの写真集『The All-American』は、伝統的な男性性と米国らしさが複雑化する、アジア系米国人のアイデンティティを捉えている。

by Erica Euse; translated by Nozomi Otaki
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08 October 2019, 6:35am

Photos by Andrew Kung.

サンフランシスコのベイエリアで育った写真家、アンドリュー・カンは、あまりアジア人のアイデンティティについて考えてこなかったという。彼が属するコミュニティはアジア系が多数派を占め、見た目も似ていたからだ。しかし2017年、ミシシッピの小さな中国系コミュニティの撮影で南部を訪ねたさい、彼は初めて米国におけるアジア系のアイデンティティの複雑さに気づかされた。

「米国のアジア系男性は、これまでずっと性的なものを排除され、疎外されてきました。僕らがどんなに米国的でも、米国の街で生まれ、英語が堪能だとしても関係ありません」とカンは電話で説明した。「いまだに『本当の出身はどこ?』と訊かれたり、『英語うまいね』とか『アジア人なのにカッコいいね』なんていわれたりします」

このような複雑な物語を記録したのが、2つのパートから成るカンの写真集『The All-American』だ。彼の印象的なポートレイトは、教室やベッドルームなど、米国のアジア系男性が疎外感を覚えることの多い場所で彼らの姿を捉えている。アジア系のアイデンティティの美しさを称えるシリーズだ。

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写真の道に進むために故郷のシリコンバレーを離れたカンに、写真集のプロジェクトについて、そしてこの作品から感じとってほしいことを訊いた。

──あなた自身のことや経歴について教えてください。

僕が生まれ育ったのはサンフランシスコです。UCバークレー(カリフォルニア大学バークレー校)のビジネススクールに通い、その後3年半ほどLinkedInで働きました。写真にのめり込んでいったのは大学最後の学期で、サンフランシスコ周辺で写真を撮り始め、それまで存在も知らなかった場所を訪ねるようになりました。

自分のやりたいことは写真だと気づいていたので、LinkedInでニューヨークへの異動を希望しました。最初の半年は仕事を続けながら現地のコミュニティで人脈を広げ、もっと撮影に時間を割き、作品数を増やしていきました。その後ついに写真の世界に飛び込み、今はフルタイムで写真を撮るようになってから2年半になります。

──最初に使ったのはどんなカメラでしたか?

自分のiPhoneです。サンフランシスコのいろんな場所に出かけ、美しい風景を撮っていました。

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──今回のプロジェクトを始めたきっかけと経緯を教えてください。

僕が育ったサンフランシスコや母校のUCバークレーでは、アジア系米国人が多数派でした。当時はアジア系ということが当たり前だったので、自分のアイデンティティについて深く考える必要もありませんでした。

でもミシシッピ・デルタで暮らす小さな中国系コミュニティの撮影に行ったとき、米国のあちこちで暮らす様々なアジア系コミュニティ、彼らの多種多様な体験に初めて気づいたんです。自分のアジア系米国人としてのアイデンティティをもっと深く掘り下げたくなり、友人たちや家族に、移民としての体験や、米国の様々な地域で育った子ども時代について話を聞くようになりました。

──彼らの話からどんなことがわかりました?

彼らの大半、特にアジア系男性に共通していたのは、いろんな場所で自分の存在が無視されているとか、自分が〈その他〉の存在であるように感じた、または性的なものや男性性を排除されていると思った経験がある、ということです。

彼らの話に耳を傾けるうちに、自分も子どもの頃に体験した、当時は気づかなかった小さな攻撃について考えるようになりました。僕自身のなかにも、みんなに伝えたい様々なストーリーがある、と。そこで自分が好きな写真を通して、それを可視化するにはどうしたらいいかを考えたんです。

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──写真集という媒体を選んだのはなぜですか?

より大きな物語を語る作品にしたかったんです。今は何もかもがデジタルの時代なので、写真集という媒体を選びました。Instagramやウェブサイトで写真をみたら、それだけで終わってしまう。でも、僕は本というかたちで体験してほしかった。実際に写真を手にすることで、改めて観返したり、考えたりする機会が生まれるかもしれません。

さらに、ファッションシリーズにすることも決めていました。最近でも、大手のファッションメディアや雑誌でアジア系米国人男性を目にすることはないので。僕らはまるで存在してないみたいに。だからスタイリングでも、意図的にアジア系デザイナーの服を選びました。彼らのアートを通しても、自分たちの文化や遺産を称えたかったんです。そういう発想からプロジェクトが始まり、最終的には形式、本、物語、デザイナーなどこの写真集を形づくる全てがひとつになり、ヴィジュアル的にも優れた、一貫性のある作品が生まれました。

──タイトルはどのように思いついたんでしょう?

〈all-American(全米代表、いかにも米国的)〉という言葉から、アジア系米国人を思い浮かべるひとはいないでしょう。all-Americanの一般的なイメージは、典型的な白人男性で、スポーツを愛し、伝統的な男らしさを重んじ、米国社会で認められ、賞賛の的になっているひとのはずです。

いっぽうアジア系米国人の男性といえば、ずっと性的なものを排除され、疎外されてきたひとたち。僕らがどんなに米国的でも、米国の街で生まれ、英語が堪能だとしても関係ない。いまだに「本当の出身はどこ?」と訊かれたり、「英語うまいね」とか「アジア人なのにカッコいいね」なんていわれたりする。どんなに米国的でも、こういう言葉をぶつけられることはあります。僕自身も若い頃に経験しましたし、友人たちもミシシッピやニューヨーク、米国のあらゆる場所で経験してきたことです。この共通のテーマを逆手にとって『The All-American』というタイトルを選びました。

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──この写真集は二部構成になっていますが、それにはどんな役割があるんでしょう?

この本を通して僕がやりたかったことはふたつに分かれます。ひとつは無視されているという感覚や疎外感が生まれる場所を調べること。教室、ベッドルーム、ロッカー、企業のオフィスなどで、アジア系米国人は〈バンブー・シーリング(竹の天井)〉、すなわち彼らにとってのガラスの天井、見えない障壁にぶつかります。僕たちには指導力や発言力があるとみなされない。たとえば、ランチタイムに弁当のおかずをバカにされたり、学校にアジア太平洋にルーツを持つ米国人の遺産を称える記念月間がなかったり。それから僕たちを象徴する存在がジャッキー・チェンくらいしかいないせいで、いつもそのことでからかわれたりもする。みんなが僕らから連想するのは、そんなイメージばかりなんです。この本のA面では、そういうものを掘り下げました。

いっぽうB面は、A面とは対照的で、米国のアジア系男性の美しさを、一般的なまなざしよりずっと優しく、柔らかな方法で提示しています。

──様々なバックグラウンドを持つアジア系男性が登場しますが、それは意図的に選んだんでしょうか?

はい、その通りです。この本に登場する男性の9割は僕の友人です。彼らはモデルでも、役を演じている訳でもありません。僕はただ、日常的なアジア系米国人男性の美しさを提示したかったんです。さらに東アジアだけでなく他のアジア系、セクシュアリティについてもクィアからストレートまで、様々なアジア系男性に登場してもらいました。こういう多様性は、ファッション雑誌で目にする機会はほとんどありません。

僕のお気に入りは、ある見開きページの白黒写真とその右隣のカラー写真です。被写体はどちらも同じ男性なんですが、カラー写真のほうはドラァグクイーンとしての彼の姿を捉えています。彼との会話のなかで気づいたのは、彼がアジア系米国人男性としてのジェンダーとセクシュアリティが交差する興味深い存在だということ。

普段の彼は、他のアジア系男性と同じように性を排除された存在としてみなされます。でも彼がドラァグクイーンに扮すると、周囲のひとは彼を性的でエキゾチックな存在として崇め、全く違う態度で話しかけてくるそうです。とても興味深いと思いました。彼のベッドルームで、そういう不安定さを捉えました。2枚の写真を見開きのページに並べることで、いわばふたつの顔、ふたつの人格をみせたかったんです。

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──起用するデザイナーはどのように選んだんでしょう?

僕の狙いは、違う形式のアートと自分の作品を組み合わせることで、あらゆるアジア系米国人とアジアのアートを称えるより大掛かりな作品を生み出すことでした。そこでSundae SchoolやPrivate Policyなどのローカルなブランドと、もっと知名度の高いPrabal Gurungなどのブランドを起用しました。ブランドにも多様性をもたせると同時に、アジア系米国人男性のイメージとは結びつけられにくいデザイナーや米国の伝統的な家などのテーマに、面白いテイストが加わるんじゃないかと思ったんです。こんなのみたことない、と感じるような作品に仕上がりました。見慣れないから、違和感を覚えるんです。

──この本からどんなことを感じ取ってほしいですか?

アジア系米国人だけでなく、それ以外のひとたちにも共感してもらえたらと思います。アジア系米国人、特にアジア系男性たちが避けては通れない、微妙に異なる様々な体験を知ってほしいですね。

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Models styled by Carolyn Son.

This article originally appeared on i-D US.

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