〈ストームジー奨学金〉が黒人の名門大学入学率に与えた影響、その後

UKグライム・シーンの最重要ラッパー、ストームジー(Stormzy)は2018年、ケンブリッジ大学への奨学金を設立。毎年黒人学生2名の授業料を全額免除し、生活費を支給するこの奨学金は、受給者以外にもポジティブな影響をもたらしている。〈ストームジー効果〉がもたらした思わぬ変化とは?

by Jason Okundaye; translated by Nozomi Otaki
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09 December 2019, 10:36am

Image via University of Cambridge

ケンブリッジ大学の黒人学生たちのたゆまぬ努力を知ったラッパーのストームジーは、入学制度と大学運営を内側から改革すべく活動する学生たちにスポットライトを当てた。

2019年、ケンブリッジ大学に入学した黒人系英国人は91人だった。前年の入学者61名から約50%増加した計算だ。筆者が同校に入学した2015年の38名と比べると、139%増加したことになる。

これまでオックスフォード大学とケンブリッジ大学の黒人入学者の話題がニュースで取り上げられるたびに、私も友人もうんざりしていた。報道される内容がいつも同じだからだ。なかには両大学の黒人入学者数の情報開示を求めた政治家もいた(たしか『ガーディアン』紙が報じたニュースだ)。

その後、これほど黒人入学者が少ないのに、なぜ何の対策も講じられていないのか、と怒りの声が噴出した。アフリカ、カリブ系の学生団体〈African and Caribbean Society: ACS〉のなかには、メディアから悲惨な現状についてコメントを求められたメンバーもいるはずだ。いっぽう、ケンブリッジ大学の黒人学生たち自身による活動には、まったく注目が集まらなかった。結局、毎回同じことの繰り返しだ。

しかし最近、ラッパーのストームジー(Stormzy)が設立したストームジー奨学金によってケンブリッジ大学の黒人入学者が増加したことで、代わり映えしない報道サイクルに大きな変化が生まれた。入学者数の増加について、そしてそれが〈ストームジー効果〉と呼ばれていることを知ったストームジーは、「これは俺だけの功績じゃない」とツイートし、ケンブリッジ大学のACSが「大きな役割」を果たした、として彼らの努力を称えた。

ACSの窓口を担当するジェームズ・シムキンスは、彼の発言に心から感謝している。「ストームジーが僕たちの活動を知り、サポートしてくれて、とても光栄に思います。彼の貢献は、間違いなく僕たちの活動の後押しになりました」

ジェームズによると、ケンブリッジ大の黒人学生は、同大学の入学選考の仕組みを変えるべく、常に中心となって働きかけてきたという。

「ストームジーの助けも大きかったですが、昨年のメンバーがカンファレンス、メンターシップ計画、そして史上初となるアフリカ、カリブ系の学生向けのオファーホルダーデイ(訳注:大学合格者がキャンパスを訪れ、大学生活やコース、講義などについて説明を受けるイベント)を実施したことも忘れてはいけません。91人もの1年生の黒人学生が、少なくともひとつのプロジェクトに参加してくれました」

ストームジーの素晴らしい点は、学生に対する彼の賛辞が、これまでの報道とは一線を画していたことだ。大半のメディアは、一流大学の黒人入学者のトピックを、ひとつの政治改革が成し遂げられたかのように報じてきた。しかし彼は、〈ストームジー効果〉という言葉で、大学の入学制度や運営方針を変えるべく活動してきた黒人学生たちの不断の努力を覆い隠してしまうのではなく、その活動を直接学生たちの手に託したのだ。

彼は〈ストームジー効果〉という言葉で、大学の入学制度と運営方針を変えるべく活動してきた黒人学生たちの不断の努力を覆い隠してしまうのではなく、その活動を直接学生たちの手に託したのだ。

一流大学の黒人入学者の問題はメディアや世間の興味を引くが、その大きな問題点は、彼らがこれらの大学に入学する黒人学生を〈例外〉として認識していることだ。メディアは結局、黒人の成功をもてはやすのが好きなのだ。

2015年、ジョン・ボイエガが『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でフィン役を熱演したときも、メディアはすぐに彼をロンドン郊外のペッカムの貧困とギャングの暴力のなかから立ち上がったスターとして褒め称えた。この〈例外主義〉の弊害は、これらの〈成功体験〉を私たちの黒人コミュニティに関する社会的、政治的分析の中心に据えることで、制度的なレイシズムによって疎外されたひとびとの現実を曖昧にし、彼らを〈有能な黒人〉としての厳密な基準を満たしていない失敗者と定義づけてしまうことだ。

私たちのなかには、英国の黒人コミュニティに不平等を強いている社会構造的な問題は、個々人の有能さ(その多くは学業やキャリアにおける成功)によって克服できる、というネオリベラル(新自由主義的)な考えが浸透してしまっている。

黒人の例外主義にまつわる議論は、至るところに存在する。2019年1月、イーストロンドンのコンプリヘンシブスクール(訳注:試験なしで入学できる公立中学校)、ブランプトン・マナー・アカデミー(Brampton Manor Academy)が、オックスフォード・ケンブリッジ大学合格者を41名輩出したと発表した際、同校の多くの黒人系学生がテレビ番組『Good Morning Britain』の取材を受けた。

番組の司会ピアーズ・モーガンは、若者たちが「多くの街を荒廃させたさまざまな犯罪」について嫌というほど聞かされたこの1年で、彼らがいかに「若者が全力を注げば何でも達成できるという素晴らしい例」になり得たかを語った。

彼の発言は、貧困や刃物による犯罪など、ロンドンの黒人系の若者を悩ませる問題の原因を、社会福祉の失敗ではなく個人の性格の問題へと矮小化したばかりか、まるで〈全力で頑張る〉ことが、黒人学生が初等教育から直面する構造的な障壁に打ち勝つ唯一の手段であるかのようにみなしている。

イェール大学とコロンビア大学で学んだアイビーリーグの黒人卒業生、エキンタンド・アフマド(Akintunde Ahmad)は、ウェブメディア「The Atlantic」の記事で、自身が現在収監中の兄弟と対比され、〈例外〉として位置づけられることへの不快感をあらわにしている。

「私を例外として分類することに、ポジティブな意味合いは一切ない。私のようなことを成し遂げてきたひとが例外になるなら、それはこの国のシステム全体が、本質的に冷酷であるということだ」

ストームジー自身も、黒人生徒をたえず冷遇してきた学校側の容赦ない仕打ちによって、いかに自らの進路が妨げられてきたかを赤裸々に語ってきた。2018年に出演したテレビ番組『The Jonathan Ross Show』では、他の学生に悪ふざけをしたために大学を退学になったことを振り返り、大学側が彼を信じてくれていたら、もっと勉学に励むことができたはずだ、と述べた。

2018年、ロンドンの地下鉄でゲリラ的に行なわれた〈#EducationNotExclusion(直訳:排除ではなく教育を)〉キャンペーンも提示していたように、不利な条件に置かれた生徒たちへの居残りや隔離などの罰則措置、そして同情やサポートの不足は、彼らのその先の人生にネガティブな影響を与えかねない。学校による排除の対象が黒人生徒に偏っているのは周知の事実だ。

2016〜2017年の政府のデータでは、様々なエスニック・グループにおいて、黒人や複数の民族にルーツを持つ生徒が教育制度から一時的または恒久的に排除される確率はもっとも高く、教育制度から恒久的に排除されるカリブ系黒人学生の数は、英国白人学生の3倍だった。

このような現状に共感し、ケンブリッジ大学を目指す学生をサポートすることで、ストームジーは〈学業における成功〉を掴む黒人学生とそれ以外の学生の違いは、個人ではなく社会構造に起因するものだ、というメッセージを確かなものにした。

世間一般のひとびとは、銃弾が飛び交うなかで黒人学生たちが机の下に隠れて教科書を読んでいた、などという現実離れしたエピソードに惹かれがちだ。しかし、個人の忍耐を伝えるストーリーによって、黒人学生に不公平な教育制度の構造が是正されるわけではない。

ストームジー奨学金は、ケンブリッジ大学の黒人学生2名の授業料を全額免除し、生活費も支給する。プライバシー保護の観点から、受給者の名前は公表されていない。そのおかげでこの2名の学生は経済的負担なしに、悪目立ちしたり、記者たちに家まで押しかけられることなく学生生活を享受できるだけでなく、黒人学生の人生を三面記事のネタにしたがるひとびとに生活をのぞき見されることもない。

世間一般のひとびとは、教師に見放された黒人学生や、銃弾が飛び交うなかで机の下に隠れて教科書を読んでいた、などという現実離れしたエピソードに惹かれがちだ。たしかに個人の忍耐を伝えるストーリーは感動的かもしれないが、それによって黒人学生に不公平な教育制度の構造が是正されるわけではない。

さらにストームジーは、自身がキュレーションする出版社〈#MerkyBooks〉から、ケンブリッジ大学の黒人系卒業生、チェルシー・クウォチー(Chelsea Kwakye)とオア・オガンビー(Ore Ogunbiyi)の著書『Taking Up Space』を出版した。その結果、黒人学生たちは、教育へのアクセスや教育格差にまつわる議論を型にはめるのではなく、個人の成功や失敗という枠を超えて、特定の進路の制約や妨げとなる制度に働きかけることができるようになった。

本著にも詳しく綴られているが、大学という環境には、黒人女性や少女に特有の問題が存在する。ストームジーの取り組みのおかげで、黒人学生たちは一流大学における自身の体験を正直に打ち明けることができ、これらの大学は黒人コミュニティがあらゆる社会悪から自由になれる〈約束の地〉だ、などと嘘をつかずにすむ。

現在のACS代表ワニパ・ヌドロヴュ(Wanipa Ndhlovu)も、ストームジーは奨学金の受給者選抜のすべてのプロセスに学生たちが携われるよう配慮してくれた、と語った。

「彼はいつも積極的に学生と関わろうとしていました。奨学金を設立したときも、学生たちといっしょに写真を撮りましたし」と彼女は回想する。「彼は去年の(アフリカとカリブ系のルーツをたたえる)〈マザーランド・カンファレンス〉にも参加してくれました」

本年度のストームジー奨学金選抜委員会のひとりであるワニパは、選抜プロセスについて「大部分がストームジー主導で」進むが、黒人学生たちの声も参考にする、と説明した。

「ストームジーは、自分と黒人入学者を増やそうと働きかけてきたひとたちが、学生とともに活動し、学生の声に耳を傾けなければ、問題の全貌を把握できないということを、常に意識しているんだと思います」

重要なのは、黒人学生たちが主体となって一流大学入学の議論を進めることだ。今年91名の黒人学生がケンブリッジ大学に入学できたのは、ストームジー効果の〈魔法〉などではなく、このラッパーの取り組みによって、黒人学生自身が積極的に教育戦略に携われるようになり、これまで蔑ろにされてきた学生たちの努力が報われたからだ。これは私たちにまつわる議論なのだから、私たち自身が声を上げなければ始まらない。

This article originally appeared on i-D UK.

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