『ファースト・マン』:デイミアン・チャゼル監督インタビュー

『セッション』『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル最新作は、“実験的”ともいえる没入型の宇宙映画。人類初の月面着陸を描いた『ファースト・マン』で彼が試みた挑戦とは? その意図に迫る。

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04 February 2019, 2:00am

『セッション』でアカデミー賞3部門、続いて『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞6部門を受賞。またアカデミー賞 監督賞、ゴールデングローブ賞 監督賞の獲得では最年少記録を更新した、早熟の天才監督デイミアン・チャゼル。各界から注目を集める、次なる彼の新作『ファースト・マン』の舞台は宇宙。1969年に成し遂げられた、人類初の月面着陸という偉業の映画化だ。 音楽を通して成功や挫折、そこで起こる人間ドラマを描いてきたデイミアン・チャゼルの過去作と比べると、意外な題材といえる本作。しかし、だからこそ新しい領域への挑戦となる驚くべき試みがいくつも見られる意欲作となっている。 デイミアン・チャゼル監督は、本作の何に惹きつけられ、何を生み出したのだろうか。主演のライアン・ゴズリングとの関係、宇宙飛行士やその妻の心理、今回の驚くべき演出手法や挑戦の中身など、実験的ともいえる『ファースト・マン』の理解の助けになるさまざまな発言を、監督本人へのインタビューで引き出すことができた。

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——『ラ・ラ・ランド』に続き、俳優のライアン・ゴズリングと再び手を組んだわけですが、『セッション』のマイルズ・テラーのように、いまでは彼が監督の分身としての存在になっているのでしょうか。また、実在の宇宙飛行士ニール・アームストロングを演じることについて、どういう点を話し合いましたか。

「ライアンと僕は、いろいろと違いますから(笑)、分身というわけではないけれど、彼との仕事は本当に楽しくて、もっとこれからも一緒に働けないかなと思っています。
ニール・アームストロングは、宇宙飛行士としての命の危険がある仕事だけではなく、家庭では父親であり夫でもあります。家庭内で感じたであろうプレッシャーや、逆に家族と会えないことへの喪失感、周りの人にその気持ちを伝えられないもどかしさ……そういう日々を地球で過ごすことを考えたら、宇宙に飛び出したほうが、むしろ楽だったのかもしれない。僕とライアンがいちばん話したのは、そういう内なる葛藤についてでした」

——『セッション』や『ラ・ラ・ランド』では、芸術に近づくためには、常識を超えた“狂気”が必要だということが描かれていました。今回も、命を懸けた月への到達というかたちで、ある意味同じものを描いていたと理解していいのでしょうか。

「ニール・アームストロングという人物にいちばん共感したのは、一度始めたら、あきらめずにいつまでもやり続けるような執着心なんです。僕もそういうところがあるので。
狂気とまでいえるかは分かりませんが、あれだけの危険なミッションなのに、彼はほとんど動揺していないかのようにリスクと向き合っていますよね。トレーニングで死にそうな経験をしたとしても、一時間後、何も起きなかったかのようにオフィスや家庭に戻ることができるような人物だった。それは勇気とも狂気とも、その両方のミックスともいえるかもしれません。そういうものがニールの個性的な資質だったと思います。
当時の他のパイロットたちもそうですが、死にすごく近いところで生きるということに慣れていたと思うんですね。僕はそれがとても興味深いと思ったし、そこが映画のなかで掘り下げたいと思った部分でもあります」

——ニールと妻のジャネットは、宇宙と地球で離ればなれになります。障壁のようなガラスを隔てて向かい合うシーンもありましたが、死に向かうリスクや狂気をともなう人間と、そうでない人間を分ける境界のようにも感じました。

「二人を隔てているのは、狂気やリスクをとったかどうかというよりも、“死への近さ”のほうが適当だと思います。だって、ジャネットのほうが大変な仕事をしていたようにも思えますからね。 彼女は、すでに夫が決めてしまった選択を理解して、二人のあいだの境界を超えていかねばならない役割もあったわけです。そういう意味では、ジャネットには非常に不公平な状況だと思います。しかも彼女は、夫が死に瀕しているようなときでさえ、世界や世間に対して、何の問題もないかのような顔をしていなければならなかった。彼女を含めて、パイロットの妻たちというのは、そういう誰にも感謝されない仕事をしているんです。 でも二人はその後、離婚したんですよね。宇宙飛行士の4分の3くらいの方が離婚していると聞きました。ああいう危険をともなう人生ですから。でもジャネットとニールの結婚生活は比較的長かった。それは彼女に壁を乗り越える力があったからなんだと思います。そういう意味では二人の人間性には隔たりはないのではないでしょうか。でも考えてみれば、彼女がリスクをとるような女性じゃなかったら、そもそもニールとは結婚してませんよね(笑)」

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——『ファースト・マン』は監督にとって、いままでとは異質な題材です。この作品を撮ることに不安はなかったのでしょうか。また宇宙計画が異常なほどリアリティを持って映像化されていて、その挑戦は実験的ですらあります。

「不安はとても! とてもありました。いままで手がけた作品と全然違うし、物語的にも自分とかけ離れた人物だと思ったし……。だから、“映画的言語”をどんなものにしたらいいかと悩みました。多くの映画人が宇宙を描いてきたわけですから、さらにプラスアルファとして、そこに僕が新しいものを付け加えられないか。貢献できないかと考えました。 そこで、“没入”ということが差別化につながらないかと思いついたんです。真の没入型の映画を作りたいと。宇宙船のコクピットに座るということが、どんなものなのか。宇宙に行くということは、どんな感じがするのか。それを、臨場感を持って観客に感じてもらうということがやりたかったんです。 これまでの宇宙を題材とした作品では、僕らはそのヒントしか与えられなかった気がするんです。『ファースト・マン』における五臓六腑に染み込むようなリアルさというのは、自分としても、いままでなかったものだと思っています」

——本当にそうですね。観客がまさに宇宙飛行士になって、宇宙船の小さなコクピットの中に閉じこめられていると錯覚するような、リアルな感覚がありました。

「そういう狭い空間というのは、ぜひとも抑えたかったところですね。NASAで取材をしていますが、あの頃の宇宙船はスペースエイジ的なものではないというか、いまの私たちからすると驚くようなアナログな計器があったり、ボルトなんかも「大丈夫なのか」と思わせるつくりに見えるんです。ハンドメイドな職人の仕事という感じで、こんなもので宇宙計画が成立するんだっていう驚きは正直ありました。彼らは、いわば小さな棺のようなもので飛び出していったわけです」

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——そのようなリアリティは、個人的な体験や記憶のレベルまで及んでいますね。そこにいた人物しか知り得ないようなプライベートな感覚を持った映像は、撮影前の段階からアイディアができていたのでしょうか。

「多くの映像は、当時の写真とか記録映像が基になっているんです。NASAの資料は本当に膨大な量があります。非常に綿密な記録がなされたミッションでしたからね。 それでも、必要なシーンが記録に残っていない場合もあります。その部分については、実際の宇宙飛行士や、その場にいた方から直接に当時のことを説明をしてもらったり、その場所でどんな“感じ”がしたかというのを聞いて、じつは作っています。だから、できる限りそれには忠実でありたいと思いました。もちろん、いくらかチート(いかさま)はありますよ(笑)。でもそれは、クリエイティブな理由でですけどね」

さまざまなアプローチを駆使しながら、リアルな没入感覚にこだわった、かつてない月面への到達を体験できる映画『ファースト・マン』は、2月8日(金)公開。