Rick Owens spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

キャスティング・ディレクターにずっと聞きたかった10のこと

「『ズーランダー』は観てないんだ。イライラしてしまうとわかっているから」

by Steve Salter; translated by Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.
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15 December 2017, 9:46am

Rick Owens spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

This article was originally published by i-D UK.

「キャンピングカーに暮らす貧困層や、ヤク中のオタクのような世界観で40人頼む」——これは、i-DとAM Castingでキャスティング・ディレクターを務めるアンガス・ムンロ(Angus Munro)がリック・オウエンスから依頼されたランウェイのキャスティング概要だ。ここからムンロとオウエンスの長きにわたる協働関係は始まった。そして、このショーがきっかけとなり、Rick Owensは世界で熱狂的なファンを獲得していった。ファッションウィークの準備期間中、ムンロはこうした依頼を多くのデザイナーから受ける。そこには、それぞれのビジョンを具現化するために必要なモデルの雰囲気と条件が書かれている。2018年春夏シーズンでもっとも印象深いショーを手掛けていたのがムンロ率いるAM Casting社だった。

スーパーモデル黎明期にモデルのエージェントとしてデビューし、2000年代にはデヴィッド・シムズなどの写真家とも手を組むなど、常にモデル業界の第一線で活躍してきたムンロ。その後AM Casting社を立ち上げ、現在ではクライアントに最適なモデルを見つけることの重要性を説くことができる、業界屈指のキャスティング・ディレクターとなっている。2018年春夏シーズンでは20以上のショーのキャスティングを手掛けた彼に、わたしたちがキャスティング・ディレクターに聞きたいと思っていた10の質問を投げかけてみた。

Off-White spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

——ファッション業界に惹かれたきっかけは?
お世辞に思うかもしれないけど……i-Dだよ。大学生のときお金を貯めて毎号買ってたんだ。どの写真もありえないほどクールだったから。

——ほかにあなたのキャリアにもっとも大きな影響を与えた人物は?
デヴィッド・シムズとリック・オウエンスだね。

——ファッションの中でも、なぜモデル業界だったのでしょうか?
実はモデル業界に入ったのは偶然だったんだ。大学を卒業して外交員になるための試験に落ちて、バーテンダーとして働いていたとき——当時付き合っていた子がSelect(イギリスのモデル事務所)で新人のスカウトをしていて、女の子たちのポラロイド写真をよくうちに持って来ていた。写真を見て意見していたら彼女がSelectのライバルのモデル事務所で働くのを勧めてくれてね。すごく自分にあってると思ったんだ。「これこそが僕のやるべき仕事だ」って。とはいえ僕は最悪のエージェントだったけどね。Elite Premierでブッキング部長だったときも、15歳のララ・ストーンをマネージメントしていたんだけど、彼女にはろくに仕事を取ってきてあげられなかった。いまだに彼女は僕の無能さをネタにしてそこらじゅうで話しているよ。恥ずかしいことだけど、彼女は僕と一緒に仕事をしていた数年後に事務所を辞めて、2年後にほかの事務所に移ってフランス版『Vogue 』の表紙を飾ったんだ。

Rick Owens spring/summer 17. Photography Piczo.

——最初にスカウトしたモデルは覚えていますか?
覚えてるよ(笑)。奇遇にも今週、22年間音信不通だったそのモデルからメールがきたよ。友達とバイク旅行でフランスの小さな村を通ったとき、歩いているその子を見たんだ。視界に入ったのはほんの一瞬だったと思う。僕はすぐにブレーキを踏んだ。後ろを走っていた友達が僕にぶつかりそうになるぐらいにね。一瞬で彼女の美しさはわかったよ。彼女はそれなりに活躍したけど、僕が担当じゃなかったら次なるケイト・モスになれていたはず……。

——あなたの目は、トップモデルを常に求めて動いているのでしょうか?
そうだね。無意識的に探してるよ。この仕事に就く前からそうだったんだと思う。物心ついたころからひとの美しさにずっと興味があったからね。僕が考える美は普遍的なものだと思う。風変わりだったり、特徴的だったり、若々しかったりするよりも、力強く、自然なな美しさが好きなんだ。でもクライアントはみんな違った美的感覚を持っている。まったく異なる美学を、自分のフィルターを通して理解するということ——多い時には一日に複数のクライアントが提案する、まったく異なる美学を理解しなければならないから、そこが僕にとってのチャレンジ

——モデルという仕事に対して世の中が持っている最大の誤解は?
「モデルは簡単」という誤解。モデルはとんでもなく大変な仕事だよ。僕はモデルたちをとても尊敬してる。学校を卒業したばかりの子どもたちが、数十兆ドル規模のビジネスの重要な歯車として、プレッシャーと戦ってるんだ。それとモデルを「愚かな仕事」と考えることにも苦言を呈したい。若い子たちが世界を旅して、一日にいくつもの面接をこなし(面接するはだいたい彼らの親世代の有名人だし)、外国語や外国文化を学べる。うまくいけば25歳で家も買える——そんなこと、どこの大学も教えてくれない。

——モデルは若者が憧れる仕事のひとつです。そこでモデルを志す若者たちのために質問です。良いモデルとは? そしてスーパーモデルになるには何が必要だと思いますか?映画『ズーランダー(Zoolander)』にあるセリフ「非の打ち所がないほどの美しさ以上に大切なことが、人生にはある」という価値観についてはどう思いますか?
ハハハ。『ズーランダー』は観てないんだ。イライラしてしまうとわかっているから。良いモデルは左右対称の顔、抜群のプロポーション、高身長、それと美しい肌と髪が求められるね。それと個性もとても大切。スーパーモデルにはそれ以上が求められる。それは誰も持っていない新しい要素だったり、ファッション業界が新しい美のあり方を求めているときにデビューできる運の良さだったり……。

——スピードが速い業界のサイクルの中でどのようにモチベーションを保っているのでしょう?
キャスティングを通してクライアントのビジョンを具現化する手助けをするのが好きなんだよ。もはや中毒みたいなものでね。きっと一生飽きることはないと思う。すべてがイメージどおりにいって、完璧なショーを作り上げられたときは特に嬉しいね。

——これまで手掛けてきたショーで、もっともあなたに大きな影響を与えたものは?
まちがいなくRick Owensの「Steppers」ショーだね。普段絶対に泣いたりしないファッション関係者が、あのショーを見て泣いていたよ。とてつもなく元気がもらえるショーで斬新だった。

Rick Owens spring/summer 14. Photography Mitchell Sams.

——モデルの健康はよく問題になりますが、ケリングとLVMHが2017年9月に憲章 「Model Wellbeing Charter」を作成してモデルの雇用や、精神的・身体的健康を守ろうとする姿勢を見せています。それはモデルたちが人間として最低限保証されるべき当たり前の内容ですが、モデルの健康侵害問題は業界でどの程度蔓延しているのでしょうか?
まず、この数十兆ドルが動くファッション産業の労働環境についての議論は、いまでも変わらず腹立たしい内容だよ。もちろん、モデルたちは保護されるべきで、劣悪な労働環境が強いられる場合には、エージェントが彼女たちを守るべきなんだよ。エージェントさえしっかりしていればこの業界ではびこる悪い習慣を根絶できると思うんだ。キャスティング・ディレクターやスタイリストらの無理難題にエージェントが毅然とした態度で立ち向かえばいいんだよ。「モデルの○○が、ブランドXのフィッティングに6時間も拘束されたらしい……でも途中で帰ったら、Xのショーには金輪際起用されないと脅されたらしい」なんて話を何度聞いてきたか。なぜエージェントはそんな状況でも声を上げないんだ?毅然と立ち向かいさえすれば、そんな状況は改善するはずなのに。大手ブランドのショーをひとつやふたつ失ってしまうことを恐れて、業界人のそうしたあり方を許し続けることは、ただ臭いものに蓋をしているだけだし、それを許すエージェントは、劣悪な労働環境を強いているひとらとなんら変わらないんだよ。

モデルたちの健全な生活を守る憲章については、モデルたちが人間として最低限保証されるべき“当然”の(と考えられるべき)労働環境を命じたものだよね。これもこの時代になってもまだこんなことを言わなくてはいけないのかと悲しくなる。でも、今シーズン、あの憲章のおかげでモデルたちの労働環境に改善が見られたなら、それは良い変化だと思う。もしも世の中が本当にモデルたちの健全なあり方について心配するなら、誰かが匿名のモデルフォーラムを企画して、「何が憲章によって変わったか」「今後の労働環境改善のために、現行の憲章をどう改正するべきか」を議論すべきだと思うよ。

ここで付け足しておきたいのは、男性モデルたちについて。労働環境について議論されるとき、男性モデルについて言及されることはほどんとない。実際、男性モデルたちは女性モデルたちよりもさらに劣悪な労働環境を強いられている。さらに彼らは、女性モデルたちとは比較にならないほどの低賃金で働いている。同じ現場で、同じ時間仕事をして、同じだけの写真が使用されても、賃金は天と地ほどの差がある。これは深刻な問題で、すぐに解決に向けて取り組まなくてはいけない。数十年も続いてきた男女の賃金格差を理由に、これが正当化されてはいけないし、黙殺されてもいけない。

Wales Bonner spring/summer 18. Photography Mitchell Sams.

——あなたにとって、そしてあなたが一緒に仕事をするデザイナーたちにとって、これらの問題はどれほど大きいのでしょうか?
ショーは、関係するすべての人間にとてつもないプレッシャーがのしかかる環境なんだ。特にモデルにはね。だから1ヶ月続くファッションウィークの間、誰もが常に優しく、気持ち良く仕事ができるわけではない。でも僕たちはそんな環境でも、優しく、楽しく、プロ意識を保っていると自負し、そこに誇りを持っている。そして業界の多くのひとが、僕たちのそうしたプロ意識を知っている。こういう議論が公でされるようになったことで、業界に新しい風をもたらしてくれると思うし、これで悪い奴らが消えてくれれば嬉しい。ファッション業界のディーヴァのような存在は時代遅れ——なのにいまだにそういう立ち居振る舞いをすることがトップモデルのあり方だと信じているひとがいるんだよね。

——ファッション界は常に新しいものを求めます。あなたは新たなモデルを次々に世へ送り出しながら、多くのモデルたちの成長も支えています。どうやってそのふたつを両立しているのですか?
新しいものを常に追い求めるこの業界は少し異常だと思う。それをずっと続けることなんて不可能だし、またそんなサイクルがモデルの質を落とすことにつながるから。それにそうした業界のあり方はモデルの使い捨て文化を作り出してもいる。若者が多く働いている業界だからこそ、それはとても無責任な姿勢だと、憤りを感じるね。でも、君の言うとおり僕はキャスティングした女の子たちと真剣に向き合おうと思うし、きちんと彼女たちのサポートをしようと心がけている。僕にとっての大きな目標は、モデルたちがひとつの世界観を作り出せるようにキャスティングをすることだと思う。それを成し遂げるには、お気に入りの、すでによく知っているモデルを念頭に置いて、枠組みになる世界観を作り、そこに新たな風を送り込むための新人モデルを投入する。

——最後に、キャスティング・ディレクターとして働くことで、あなた自身の美の意識になにかしらの影響はありましたか?
自己評価が厳しくなったよ!

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